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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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答えを聞かない方が良い時もあるかもしれない

 翌朝。

 目を覚ます。

 カーテンの隙間から朝日の光が伸び、俺の顔付近を照らしていた。

 これで目が覚めたようだ。


 身を起こして……二度寝の誘惑と戦う。


「おはようございます」

「おはよう……」


 朝の挨拶を交わす。

 ………………。

 ………………。


「……エイト?」

「はい。エイトですが? 他の誰かに見えますか? ……はっ! 将来に期待がもてる絶世の美幼女に見えてしまいましたか? 勘違いさせてしまったようで申し訳ございません。それは間違い、寝惚けているだけです。目を覚まして下さい。ここに居るのは、ご主人様が愛してやまないメイドのエイトです」

「その物言いは間違いなくエイト。そしてこれは現実……どうやって入った? 鍵閉めていたはずなのに!」

「鍵ですか? それは、こうやって……こうして……」


 何やら見せちゃいけない手の動きをするエイト。

 多分、他の人が見ようとするとモザイクとかかかっていそう……じゃなくて!


「いつの間にそんな技術を!」

「とある執事に習いました。筋が良いと褒めて頂きましたよ」


 なんかその話、覚えがあるな。

 ……あっ、カノートさん家の執事さんか!

 まさか本当に習っていたとは……。


「ちょっと待って。なんでそれを今更?」


 これまでにもそのチャンスはあったと思うけど……。

 たとえば、魔族の国の王城に泊まっていた時とか。


「エイトも習った技術を早く披露したかったのですが、野宿では使用出来ませんし、魔族の国の王城は何故か特殊な施錠を使用されていまして、習った技術では開錠出来ないモノばかりだったのです」


 ……何故か頭の中で、ロイルさんが親指を立てていた。

 心の安全のために頑張ったのかな?


「だから、ここでやったと?」

「はい。じゃじゃーん」


 舞台で手品が成功した時のように、両腕を広げるエイト。

 とりあえず、パチパチと拍手を送る。

 どことなく、エイトの表情も自慢気だ。


「それで一つ確認なんだけど、いつからこの部屋に居たの? 多分だけど、俺が起きるまで待ち構えていたよね?」

「黙秘権を行使します」


 ほんとそういう知識を記憶させた神々を殴りたい……じゃなくて、この世界にそういう法律ってあるの?


⦅ありません⦆


 セミナスさんが答えてくれた。

 あっ、おはようございます。


⦅……おはようございます⦆


 あれ? なんか声がちょっと不機嫌っぽい感じだけど、どうしたの?


⦅……くっ。私にも体があれば同じ事が出来るのに。もちろん、特殊な施錠であろうとも私には関係ありませんので、どこだろうと侵入可能です⦆


 でしょうね。

 そうなると安息の時が……いや、まだ実現していない未来に思いを馳せるのはよそう。

 今は目の前の現実だ。

 俺はエイトをビシッ! と指差し、毅然とした態度で言う。


「その答えは無意味だ! なんかそういう法律ないらしいから、黙秘権は通用しません!」

「人を指差すのは良いのですか?」

「……失礼しました」


 出鼻を挫かれた。


「ですが、通用しない事を指摘された以上、答えない訳にはいきません。そもそも、ご主人様の問いに答えないメイドは存在しません」


 なら何故黙秘権を行使した。


「エイトはホムンクルス。数日くらいであれば、睡眠を取らなくても問題ありません」


 ………………うん? それが答え?

 いやいや、答えに……なるほど。正直に答えると言っていないのは確か。

 どう答えるかの裁量は、答える側次第か。


 でも推測は出来る。

 数日は睡眠を取らなくても良いという事は、寝る必要がないという事。

 つまり、一晩中起きていても問題はない訳だ。


 ………………。

 ………………。

 よし。深く考えちゃいけない案件。

 世の中には、知らない方が良い事もあるかもしれない。


 それに、過去を振り返ってばかりじゃなく、未来も見ていかないと。

 うんうん。今後の侵入を防止する方向で考えていこう。

 とりあえず、これ以上追及するのはやめた。


 そう言うと、エイトは朝食の準備をすると言って出て行ったので、今後の行動について考える。

 何しろ、武闘会まで一週間……いや、それは昨日の時点だから、あと六日しかない。

 やっぱり、時間ギリギリまで鍛えた方が良いのだろうか?


⦅必要ありません。そもそも数日鍛錬した程度では、誤差の範囲内で終了です⦆


 ですよね。

 でもほら、アドルさんやインジャオさんに鍛えて貰えば、何か劇的に変わるかもしれないよ?


⦅それは不可能です。そこの汎用型も既に情報収集していますが、吸血鬼は同盟再強化のために各種の代表者や長老との会談で忙しく、骸骨騎士は獣人メイドからのお願いで鍛錬相手となっています。それと汎用型と特化型その一は、マスターの鍛錬相手としては向いていません⦆


 要は、俺はこのまま大人しく待機って事?


⦅いいえ、違います。それでもマスターには、元より短期間でパワーアップする方法が存在しています⦆


 あったっけ? そんな方法?

 ……う~ん。わからん。

 いや、待てよ。

 もしかして、神様を解放する事?


⦅はい。その通りです。それに、これまでは必要なかったので言いませんでしたが、封印から解放した神から、担当するスキルを直接与えられる事も出来ます⦆


 ほほぅ。

 えっと、これまでの神様が担当するのは、武技、商売、槍、弓……。

 すみません! 武技と商売はともかく、槍か弓はあれば便利だと思いますけど?


⦅マスターが対応するスキルを得たとして、その武器を上手く扱えると?⦆


 ……何故だろう。

 それでも上手く扱えないような気がする。

 でもそれは不器用だと自分で認めるようなモノ。

 認められるのか? ……いいえ、認められません。


⦅私が間違っているとでも?⦆


 いや、セミナスさんが間違っているとか、そういう事じゃないというか……。


⦅いいですか? マスター。誰にだって向き不向きはあります。そこに器用さは一切関係ありません。ただ向いていないというだけです。マスターの場合は、それが武器関連、攻撃関連だというだけ。だからこそ逆に、マスターには防具関連、防御関連に向いているのです。いえ、天才的と言っても良いでしょう⦆


 いやぁ~、そんな、天才的だなんて。

 でもまぁ、確かにセミナスさんの言う通りだ。

 向いていない。ただそれだけの事。


 納得したので、話を続ける。

 という事は、つまり近くに神様が封印されている場所があるって事?


⦅その通りです。また、マスターが武闘会で勝ち上がっていくためには必要な神だと言えるでしょう⦆


 なんの神様? と尋ねようとしたところで、エイトが戻って来る。

 まぁ、行って解放すればわかる事なので、別に良いかと朝食を頂く事にした。

 朝食は城内にある広い食堂に用意されていて、そこにアドルさんたちとワンも居たので、今後の俺の行動を説明する。


 アドルさんたちからも、セミナスさんから聞いていた通りの行動が説明された。

 エイトとワンは、俺の護衛として行動を共にするそうだ。


「助かるけど、ワンは鍛錬とか良いの?」

「はっ! 今更、たった数日鍛えても仕方ねぇよ! あたいがつえぇ事に変わりはねえ」


 自信満々に答える姿が、ちょっと格好良いと思ってしまった。

 朝食を頂けば、セミナスさんに言われるままに準備をする。

 といっても、俺のアイテム袋の中に回復薬系はあるし、寝袋とかの野宿道具も入っているので、必要なのは周囲の地図と食糧品類だけ。


 アドルさんたち、というかウルルさんにお願いすると、直ぐに用意してくれた。


「地図はエイトが預かります」


 文句は言わせない態度。


「主は方向音痴なのか?」


 ワンの問いにどう答えたモノか……。

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