美学は人それぞれあると思う
審査は終わったが、俺はどうにもコレが宰相さんの謀のような気がしてならない。
……普段からセミナスさんと関わっている影響だろうか?
⦅そのような効果は一切見当たりません。そもそも、私でしたら相手にこれは謀だと気付かせるような結果にはなりません⦆
より上の存在だとアピール。
でも、否定出来ない。
となると、宰相さんが実は大した事なかったか、もしくは、あえて気付かせたか、だ。
多分、後者。
でも、答えは聞いてみないとわからないので……聞いてみる事にした。
長机とかが片付けられていく中、宰相さんだけに声をかける。
「こうなるように企んだんですか?」
宰相さんは苦笑を浮かべながら言う。
「最初に言っておきますが、ロードレイル様の幸せを願っての事なのは間違いありません」
「そう言うって事は、やっぱり謀ったんだ?」
「まぁ、この結果を望んだのは事実ですね。ですが、ロードレイル様の意思を捻じ曲げてはいません。ロードレイル様が自ら導き出した答えなのは確かです。でなければ、意味がありませんから」
それは確かにそうだ。
さすがにそこまでやっていたら、セミナスさんに頼んで別の結末を用意して貰っていただろう。
「ただ、当初は二人目が選ばれるように、ある程度の協力はしました。親戚ですので色々と繋がりと言いますか、しがらみがありましたので」
面倒臭いヤツね。
「ですが、途中からこの三人全員が王妃でも構わないでのは? と考えるようになりました。何しろ、三人共にこの国の王妃の素養としては充分でしたから」
確かに、なんだかんだと審査で行った事のレベルは総じて高かった……と思う。
水着審査の時のように見ていなかったり、俺では判断つかないようなのもあったし。
でも、アドルさんたちはもの凄く悩んでいたから、そう思って間違いはないと思う。
「ですので、どうせでしたら三人で互いに足りない部分を補え合えば良いのに、と考えた訳です」
んー、まぁ、最終的な判断は互いの気持ち次第だから、別にこの結論で構わないけど……なんかこう、裏の話を聞くと、この宰相さんの思う通りに運んだ、というのがなんともいえない。
……小さくても良いから、なんか意趣返しとか出来ませんかね? セミナスさん。
⦅なんでも良いので、奥さんの話題を振ると良いでしょう⦆
………………。
………………。
「そういえば、先ほど聞いたんですが、奥さんが居るんですよね?」
ついさっきを先ほどと言っても間違っていないはず。
⦅鬼種の⦆
「鬼種の」
……鬼嫁って言葉、あったよね。
宰相さんがビクッ! と反応した。
露骨だなぁ……それほどなの?
「え、ええ……」
「………………」
「………………」
「それじゃ、失礼しま」
一礼してこの場を離れようとしたら、宰相さんに肩を掴まれる。
「いくらで黙って頂けますか?」
「やだなぁ。変な勘繰りはやめて下さいよ。そもそも、俺は何も言っていませんよ」
というか、黙っていて欲しいんだ。
こういう話は別に知られても問題ないと思うけど。
そう思っていると、宰相さんが真面目な顔で言う。
「……駄目なんです。妻は謀が本当に嫌いでして……もしやったとバレたら……」
まさか、宰相さんは過去にそういう事を何度もやって、次は離婚を言い渡されているとか?
「お小遣いを減らされてしまいます」
「………………」
それは別に良いんじゃないかな?
いや、でも、世のお小遣い制の人から、減るのは簡単、増えるのは難しい、と聞くしな。
つまり、人によっては相当な罰という事か。
「……でも、離婚とかじゃないんですね」
「それはもちろん、愛し合っていますので」
宰相さんが照れ臭そうに言う。
言葉に力強さというか、自信を感じさせた。
……少しだけ、本当に言ってやろうかな、て気になった。
⦅最も効果的なタイミングもご用意出来ますが?⦆
誘惑しないで。
そのあとは、審査にそれなりに時間を費やしていたために、食事を頂き、そのまま王城で一泊する事になった。
食事に関しては、もしかして突拍子もないモノが……と身構えたが、別段これといって変なモノはなく、ラメゼリア王国でも食べたような普通の食事。
普通に美味しかった。
ワンが自棄食い気味に食べていたのは……多分、三人共が選ばれたからだろうと推測。
暗殺者の女性が付き添っているので大丈夫だと思うけど。
それと、一泊で済むかどうかはちょっと微妙。
アドルさんたちもロイルさんに対して色々と話す事もあるだろうし、もう何日か居ても構わない、とも思う。
セミナスさんも先を急がせないし。
そこら辺は明日聞いてみよう。
食事が終われば、案内されるまま俺が泊まる部屋に。
……豪華な部屋だった。
風呂トイレ付きの上、ベッドはふっかふか。
……どうしよう。野宿にまた慣れ始めたのに、このままだと逆戻りになってしまう。
部屋も広いし、隅っこの方でテントでも張って無難に過ごすべきかもしれない。
……無理。
目の前に風呂とベッドがあって、耐えられる自信がない。
それに、折角こうして用意してくれた訳だし、使わない方が失礼だ。
うんうん……うん?
エイトが俺の隣で待機していた。
「……もう寝るだけだから、自分の部屋に戻って良いよ。宰相さんが、この部屋の隣に用意してくれたでしょ」
「ご主人様は勘違いしています」
「勘違い?」
「この国の宰相が用意したのは、ご友人たちの各部屋と、ご主人様とエイトの部屋。つまり、同室です」
うん。それは言い方の問題だよね。
俺の部屋とエイトの部屋……つまり二部屋だから。
そう言うとしたら、エイトの姿が見えない。
……あれ? どこに? と捜せば、ベッドの上に腰かけて、両手を俺に向けて突き出している。
「あれだけの美女美少女を見たあとのご主人様の事です。きっとムラムラして発散の場を求めているのは間違いありません。どうぞ、エイトの体を貪るようにお使い下さい」
求めていません。
その前にムラムラもしていません。
⦅……くっ。私にも体があれば、ムラムラしたマスターの獣の部分を受け入れる事が出来るのに⦆
セミナスさんも、さもそれがあるように言わないで下さい。
ムラムラしていない事をわかっていると思いますけど?
⦅ですが、ふと思い出して……ムラムラっとしてしまう場合もありますし⦆
そんな事はない……と思いたい。
いや、そもそもそういう話ではなくて――。
「事前に確認しておきますが、ご主人様は、恥じらいの表情と共に脱いでタオルなどで隠しておいて欲しい派ですか? それとも、自分で気の向くままにたっぷりと時間をかけて脱がしたい派ですか?」
⦅是非、お答え下さい⦆
予言じゃなくて願望だよね、それ。
「とりあえず、どっちでもない」
「なるほど。残しているからこそより際立つ着衣派。それがご主人様の美学という事ですね」
⦅靴下は必ず残すという事ですね⦆
駄目だ。
この二人が勝手に意思疎通しだすととめられない。
なので、実力行使でエイトを部屋の外に連れ出す。
といっても手を繋いで引っ張っていっただけだけど。
「わかってはいても避けられない力があります」
⦅わかります⦆
わかりません。
そんな力もありません。
もう眠いから本当に寝させて。
エイトにおやすみと言って、そのままベッドにダイブして寝た。
翌日、アドルさんたちに確認すると、数日は居たいそうなので、そうする事にした。




