このままじゃ肩書き通りって事じゃないか!
ついポロッと出てしまった言葉、「三人共嫁にしちゃえば?」を聞いたロイルさんは、真剣に考え始めた。
小声だったので他の人には聞こえていないようだ。
その事にホッと安堵。
待って。違う。
今のはポロッと出てしまっただけなので、別の意見を考えたいです。
でも……そもそもハーレムって可能なの?
……いや、樹さんが既にそうなっているから、可能は可能なのか。
でも、そういうのって国ごとに可否があるだろうから、確認はしておかないといけない。
なので、隣に居るロイルさんにこそっと確認する。
「考えている最中にすみません。この国って、複数を娶るって可能なんですか?」
「……」
え? という驚きの表情が返された。
今それを聞くの? さっきそういう事を提案したのに? みたいな感じ。
すみません。順序が逆でした。
「……男女共に可能だ。特に、魔族の種の中には、複数を娶る事がその人物の力の象徴、みたいなのもある。もちろん、無理矢理なのはどこも認めてはいないがな」
なるほど。勉強になりました。
つまり、可能、と。
そこら辺も踏まえて、もう一度考えてみるか。
……いや、俺って餌で罠じゃないの?
なんかさっきので決まってしまうと、俺はプレートに書かれているままの影響力って事になるんだけど……違うよね?
確認のために、このプレートを用意した宰相さんに視線を向ける。
わかっています、と頷きが返された。
「では、まずは審査員の皆様に、第一印象で選んで頂きましょう」
違う。進行して欲しい訳じゃない。
ただ、相手の行動は速く、宰相さんがそう言うとメイドさんが数人入って来て、長机の上にある物を置いていく。
それは、それぞれ先端の丸い部分に「1」「2」「3」と書かれている三本の棒。
……これで示せという訳か。
視線を横に向ければ、既に全員掲げていた。
迷いがなさ過ぎる。
ロイルさん - 「1」「2」「3」
いや、ある意味迷っていた。
アドルさん - 「1」
幼馴染だからだろう。もしくは同じ吸血鬼を選んだ?
インジャオさん - 「2」
ウルルさんの影響でメイドを選んだのかもしれない。
ウルルさん - 「2」
自分もメイドだからだろう。
まさかと後ろを見れば、エイトとワンも掲げていた。
エイト - 「2」
二人目に自分に近いモノ――シンパシーを感じている目を向けている。
ワン - 「1」「2」「3」
だと思った。
とりあえず、「2」が多い。
そして視線が集まるのは、未だ掲げていない俺。
逆に目立ってしまっただけじゃなく、最後に出すなんて大物感があり過ぎる。
でも、出さない訳にはいかない。
出遅れた俺のミスだ。
………………。
………………。
バッ! と三本同時に上げる。
一人目、二人目、大喜び。
三人目、複雑そう。
それも仕方ない。
何しろ、本数的には負けている訳だし。
「アンリール嬢とステン嬢が若干優勢でしょうか? ですが、審査はこれからですので、ルシル嬢にも頑張って頂きたい」
宰相さんがそう評す……あっ、また名前覚えるの忘れていた。
「それでは、王妃に求められるモノの一つに、教養があります。そこで、三人にはこれから問題を出していきますので答えていって下さい。解答は早押しです」
早押しは教養と関係ないと思う。
でも、盛り上がった。
さすがというべきか、教養の高さを誇ったのは三人目。
凄いとアドルさんたちから拍手が送られたほどだ。
でも、俺としてはこの世界の事はまだ知らない事の方が多いため、ピンとこない事の方が多かった。
勉強になったかは微妙。
でも、これで三人目が一番の候補に浮上した可能性は高い。
是非ともこのまま頑張って欲しい……あれ? いつの間にか、三人目を応援している?
これが眼鏡に宿る魔性の力だとでもいうのか……。
いや、それだと眼鏡基準になっているから、眼鏡が似合っているからだな、きっと。
………………あれ? 同じ意味?
「続いての審査に移ります。王妃に求められるモノの一つに、ダンスがあります。なので、これから踊って頂きましょう。ロードレイル様、お相手をお願いします」
という訳で、三人分のダンスを見る。
全員そつなくこなしていくが、一人目に優雅さを感じ、二人目と三人目は少し苦手そうな印象を受ける。
アドルさんたちも同じ印象を受けたようだ。
エイトとワンは普通に楽しんでいたが、俺は別の事を考えてしまった。
ダンスといえば、DD。
なんかこの国にも来そうな感じだったけど、その時のロイルさんが心配。
「では、次の審査に移ります。王妃に求められるモノの一つに、美しさがあります。なので、これから水着審査を行います」
へぇ~、この世界にも水着ってあるん――。
「見てはいけません、と判断しました。実力行使を発動」
エイトが目潰ししてきたので、咄嗟に回避!
……危なかった。いきなり何をする!
「安心して下さい。エイトはアフターケアもバッチリです。事後、魔法で治療可でした」
「いや、そもそもとんでもない痛みだよね?」
そこを考えて欲しかった。
治せるからって、気軽にやっちゃいけない。
というか、これは明確な危機だと思う。
なのに、セミナスさんが事前に教えてくれなかったってどういう事?
⦅ここであえて当たる方向に誘導して潰しておけば、マスターの視覚情報を私が握る事になり、更なる依存度に……⦆
何やら怖い事をぶつぶつと呟いていた。
⦅ですが、この企みがバレた場合を想定すると……あぁ!⦆
せめぎ合ってもいる。
というか、今バレたよ。
⦅………………愛故に⦆
それで片付けちゃ駄目だと思う。
とりあえず、自主的に目を瞑り、そのまま手の平を上に置いて……難を逃れた。
アドルさんとインジャオさんもそうしていたからだ。
ロイルさんは当事者だから見ただろうけど、ワンの興奮した声が大きくて、反応を感じ取れなかった。
水着審査が終わってから目を開けて確認すると、ロイルさんの顔が真っ赤っかになっていただけじゃなく、棒が三本とも上がっていたので、どうだったかは聞くまでもない。
……というか、宰相さんも見たの? と思ったのだが、手元にレンズまで真っ黒の眼鏡が握られていたので、それをかけていたんだと思う。
俺にも事前にそれを用意しておいて欲しかったです。
そのあとも色々な審査を行ったが……決まらない。
そりゃそうだ。
審査をやればやるほど、選考基準が増えていくんだから当然迷う。
「……もう三人共娶っちゃえば良いのに」
という結論が俺の中に出る。
全員、俺を見ていた。
……んー、あれ? もしかして、今の声に出ていた?
すると、ロイルさんが真剣な顔つきで言う。
「……そうだな。三人がそれでも良ければ、今後はその方向性で話を進めていこう」
という結論になった。
三人もそれで良いと返答。
……いや、待って。
別にその結論を否定する訳じゃないんだけど、今されると俺はプレートの肩書き通り、という事になるから、あとに出来ない?
ほら、嫁候補者三人共が俺に向かってありがとうございます、と一礼しているし、間違いなく勘違いしているよね?
……しまった。
名前、三人共覚えないといけない。




