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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第五章 魔族の国
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肩書きがおかしい事に気付いて下さい

 ロイルさんの嫁を決める事になった。

 その嫁候補は三人居て、既に城内で待機していたらしい。

 これから呼んできますので是非会って決めて下さい、と宰相さんが言って部屋から出ていった。


 既に準備完了とか、この宰相さん怖い。

 でしょ? という視線で俺を見るロイルさんに同意してしまいそうだ。

 というか、いきなり面接とか話が早過ぎる。

 ワンは、やったぜ! と喜んでいるけど。


 候補者三人はこれからここに来るそうなので、特に移動の必要はない。

 なので、少しの間だけ待ち時間が出来たという事もあり、その間にどうして決められないのかをロイルさんに聞いてみると――。


「いや……その、それぞれに関わりがあって選べないというか……」


 照れ顔でそう答えられた。

 おや? これまでにない反応。


「一緒に暮らすと暗殺されるから、とか言わないんですね」

「それはまぁ、さすがに誰にでも言う事ではないと悟ったので……」


 その言葉に、アドルさんたちが感慨深そうにしていた。

 成長したな……とか呟いているし、前はもっと酷かったのかもしれない。


「でも、それなら宰相さんは関りが深そうだから別に言わなくても」

「いや、あの顔は間違いなく何か企んでいる……」


 確かにそう見えるけど……ロイルさんの味方だと思うんだけどなぁ……。

 そう思っていると宰相さんが戻って来たので聞いてみた。


「何か企んでいるんですか?」

「この国がロードレイル様の統治下で平和になるように企んでいます」


 ニッコリ笑顔の返答。

 ……うん。怪しさ満点。

 ロイルさんが同意を求める視線を向けてくるが、その場所は俺の後ろ。

 あの、俺を盾にするのやめて下さい。


 それに、これから嫁候補者三人が来るんだから、情けない姿を見せないように。

 ロイルさんを引き剥がしていると、宰相さんが準備を終えていた。

 テーブルと椅子は即座に片付けられ、代わりに長机と別の椅子が横一列に並べられ、長机には名前が書かれたプレートが等間隔に置かれている。


 並びは、俺、ロイルさん、アドルさん、インジャオさん、ウルルさん、の順。

 エイトとワンのプレートはないけど、俺の名前が書かれているプレートが置かれている場所には椅子が三脚置かれているので、多分そこだろう。

 ……それは別に良い。構わない。


 問題はプレートの方。


 王:ロードレイル

 義兄:アドミリアル

 審査員:インジャオ

 審査員:ウルル


 までは良い。

 で、その俺のプレート。


 審査員長 兼 王の心の友:アキミチ殿


 と書かれていた。

 いつの間にかロイルさんの心の友になっていて、俺だけ「殿」表記……どう考えても、俺の意見がでかい、みたいに見える。

 せめて、ロイルさんのプレートには「様」付けしておくべきじゃなかったのかな?


 表記がおかしいですと言いたいが、アドルさんたちは特に気にせず、それぞれ席に座った。

 いや、あの……これ、良いんですか? とプレートを指差して目線で訴えてみる。


「何をしている、アキミチ。早く席に座れ」


 アドルさんにそう促される。

 それに、誰も気にしている様子がない。

 これからの事に緊張していて、それどころじゃないとか?


「うぅ……まさか義兄を関わらせる事になるとは」

「安心しろ。しっかりと選んでやる」

「こういうのは、少しワクワクしますね」

「楽しくなってきた~!」


 全然緊張してない。

 エイトとワンに至っては既に座って待機していた。

 俺も諦めて、自分の席に座る。


 そして、女性が一人、室内に入って来た。


「ロードレイル様、お后候補一人目……『アンリール・ピーチブラド』嬢」


 宰相さんの案内アナウンスで。

 入って来た女性は、煌びやかなドレスを身に纏っている、ピンク色の髪の色白美人。

 あの肌の色白具合から察するに。


「アンリール嬢は、魔族の国の建国から今に続くピーチブラド侯爵家のご令嬢。由緒正しき吸血鬼であり、ロードレイル様とは幼少の頃より付き合いがあります」


 やっぱり吸血鬼だった。

 それと、ロイルさんとは幼馴染という関係か。

 アドルさんたちも知り合いなのか、やっぱり、みたいな表情で頷いていた。


 その女性――えっと名前聞き逃していたから、今は一人目としておこう。

 本決まりしてから全員の名を覚えれば良いか。

 という訳で一人目は、ロイルさんに向けて軽く手を振り、アドルさんたちに向けて優雅に一礼して……少し奥で立ち止まって綺麗な立ち姿を見せる。

 ……立ち位置が決まっているのかな?


「続きまして、ロードレイル様、お后候補二人目……『ステン・イントリー』嬢」


 続いて入って来た女性はメイド服を身に纏い、身長が低くてエイトくらいしかない。

 顔立ちは美人系で、特徴的なのは、額から角が二本出ている事。


「ステン嬢は、ロードレイル様の専属メイドとして長年支え続けています。また、見てわかる通りの鬼種であり、両親は魔族の国だけではなく、他国でも名が知られている強者です」


 俺は知らないけど。

 でも、長年支え続けているというのがポイント高いね。


「ちなみにですが、私の従妹です」


 ……一気に怪しく思えてきた。

 でも、アドルさんたちにはそれなりに評価されているのか、ふんふんと頷いている。

 ロイルさんは、それさえなければな……みたいな表情だけど。


 その女性――二人目は、ロイルさん、アドルさんたちに向けて一礼し、アンリールさんの隣に並んで立つ。


「それでは、ロードレイル様、お后候補三人目……『ルシル・スカイモーク』嬢」


 最後の三人目として入って来た女性は、仕立ての良さそうなパンツルックで、身長も高く、お姉さんって感じ。

 背からは翼が生えていた。


「ルシル嬢は有翼種で、ロードレイル様の教育係も務められていた大変聡明な方。今も時折相談に乗っており、多種多様な魔族の生態が専門の学者でもあります。また、実家は魔族なら誰もが知り、助けられている医療の名門です」


 そんな情報よりも俺が気にするのは、眼鏡がよく似合う美人だという事だ。

 ………………。

 ………………。

 やっぱ良いね、眼鏡。


 その女性――三人目は、ステンさんの隣に並んで立ち、こちらに向けて一礼。

 この三人の中から選ぶのか。

 ただ、その三人の視線は、ある一点に向けられていた。

 俺のプレート、に。


 視線がそのまま俺に向けられるので、苦笑気味でニッコリ笑顔を返す。

 向こうもニッコリ笑顔を返してきた。

 けれど、その目に宿るのは、獲物を見つけた狩人そのもの。

 俺を落とせば、みたいな事を考えている訳じゃないよね?


 いやいや、実際この中でロイルさんに一番影響を与えるのは、アドルさんだと思うけど。

 ……そこで気付く。

 そうか! 俺は餌で罠か!

 俺という明確な餌を用意し、それに対して三人の女性がどのような行動に出るかを見るために!


 となると、俺はこのまま大人しくしておけば良い訳か。

 ここに座っているだけで、意味がある。

 ……それとも、難しい顔でも浮かべてみるべき?

 悩むけど……コメントくらいは考えておいた方が良いかもしれない。


 これまでの事を振り返って、今を見る。

 ……ロイルさんは選べないと言った。

 ……実際に見て、俺も選べない。

 ……なら。


「アキミチはどう思う?」

「三人共嫁にしちゃえば?」


 隣に居るロイルさんの問いかけに、ついポロッと出てしまう。

 ………………。

 ………………。

 ちょっと待って。


 聞かれると思わなかったから油断していた。

 今の一旦保留。

 ちょっと考えさせて。

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