肩書きがおかしい事に気付いて下さい
ロイルさんの嫁を決める事になった。
その嫁候補は三人居て、既に城内で待機していたらしい。
これから呼んできますので是非会って決めて下さい、と宰相さんが言って部屋から出ていった。
既に準備完了とか、この宰相さん怖い。
でしょ? という視線で俺を見るロイルさんに同意してしまいそうだ。
というか、いきなり面接とか話が早過ぎる。
ワンは、やったぜ! と喜んでいるけど。
候補者三人はこれからここに来るそうなので、特に移動の必要はない。
なので、少しの間だけ待ち時間が出来たという事もあり、その間にどうして決められないのかをロイルさんに聞いてみると――。
「いや……その、それぞれに関わりがあって選べないというか……」
照れ顔でそう答えられた。
おや? これまでにない反応。
「一緒に暮らすと暗殺されるから、とか言わないんですね」
「それはまぁ、さすがに誰にでも言う事ではないと悟ったので……」
その言葉に、アドルさんたちが感慨深そうにしていた。
成長したな……とか呟いているし、前はもっと酷かったのかもしれない。
「でも、それなら宰相さんは関りが深そうだから別に言わなくても」
「いや、あの顔は間違いなく何か企んでいる……」
確かにそう見えるけど……ロイルさんの味方だと思うんだけどなぁ……。
そう思っていると宰相さんが戻って来たので聞いてみた。
「何か企んでいるんですか?」
「この国がロードレイル様の統治下で平和になるように企んでいます」
ニッコリ笑顔の返答。
……うん。怪しさ満点。
ロイルさんが同意を求める視線を向けてくるが、その場所は俺の後ろ。
あの、俺を盾にするのやめて下さい。
それに、これから嫁候補者三人が来るんだから、情けない姿を見せないように。
ロイルさんを引き剥がしていると、宰相さんが準備を終えていた。
テーブルと椅子は即座に片付けられ、代わりに長机と別の椅子が横一列に並べられ、長机には名前が書かれたプレートが等間隔に置かれている。
並びは、俺、ロイルさん、アドルさん、インジャオさん、ウルルさん、の順。
エイトとワンのプレートはないけど、俺の名前が書かれているプレートが置かれている場所には椅子が三脚置かれているので、多分そこだろう。
……それは別に良い。構わない。
問題はプレートの方。
王:ロードレイル
義兄:アドミリアル
審査員:インジャオ
審査員:ウルル
までは良い。
で、その俺のプレート。
審査員長 兼 王の心の友:アキミチ殿
と書かれていた。
いつの間にかロイルさんの心の友になっていて、俺だけ「殿」表記……どう考えても、俺の意見がでかい、みたいに見える。
せめて、ロイルさんのプレートには「様」付けしておくべきじゃなかったのかな?
表記がおかしいですと言いたいが、アドルさんたちは特に気にせず、それぞれ席に座った。
いや、あの……これ、良いんですか? とプレートを指差して目線で訴えてみる。
「何をしている、アキミチ。早く席に座れ」
アドルさんにそう促される。
それに、誰も気にしている様子がない。
これからの事に緊張していて、それどころじゃないとか?
「うぅ……まさか義兄を関わらせる事になるとは」
「安心しろ。しっかりと選んでやる」
「こういうのは、少しワクワクしますね」
「楽しくなってきた~!」
全然緊張してない。
エイトとワンに至っては既に座って待機していた。
俺も諦めて、自分の席に座る。
そして、女性が一人、室内に入って来た。
「ロードレイル様、お后候補一人目……『アンリール・ピーチブラド』嬢」
宰相さんの案内で。
入って来た女性は、煌びやかなドレスを身に纏っている、ピンク色の髪の色白美人。
あの肌の色白具合から察するに。
「アンリール嬢は、魔族の国の建国から今に続くピーチブラド侯爵家のご令嬢。由緒正しき吸血鬼であり、ロードレイル様とは幼少の頃より付き合いがあります」
やっぱり吸血鬼だった。
それと、ロイルさんとは幼馴染という関係か。
アドルさんたちも知り合いなのか、やっぱり、みたいな表情で頷いていた。
その女性――えっと名前聞き逃していたから、今は一人目としておこう。
本決まりしてから全員の名を覚えれば良いか。
という訳で一人目は、ロイルさんに向けて軽く手を振り、アドルさんたちに向けて優雅に一礼して……少し奥で立ち止まって綺麗な立ち姿を見せる。
……立ち位置が決まっているのかな?
「続きまして、ロードレイル様、お后候補二人目……『ステン・イントリー』嬢」
続いて入って来た女性はメイド服を身に纏い、身長が低くてエイトくらいしかない。
顔立ちは美人系で、特徴的なのは、額から角が二本出ている事。
「ステン嬢は、ロードレイル様の専属メイドとして長年支え続けています。また、見てわかる通りの鬼種であり、両親は魔族の国だけではなく、他国でも名が知られている強者です」
俺は知らないけど。
でも、長年支え続けているというのがポイント高いね。
「ちなみにですが、私の従妹です」
……一気に怪しく思えてきた。
でも、アドルさんたちにはそれなりに評価されているのか、ふんふんと頷いている。
ロイルさんは、それさえなければな……みたいな表情だけど。
その女性――二人目は、ロイルさん、アドルさんたちに向けて一礼し、アンリールさんの隣に並んで立つ。
「それでは、ロードレイル様、お后候補三人目……『ルシル・スカイモーク』嬢」
最後の三人目として入って来た女性は、仕立ての良さそうなパンツルックで、身長も高く、お姉さんって感じ。
背からは翼が生えていた。
「ルシル嬢は有翼種で、ロードレイル様の教育係も務められていた大変聡明な方。今も時折相談に乗っており、多種多様な魔族の生態が専門の学者でもあります。また、実家は魔族なら誰もが知り、助けられている医療の名門です」
そんな情報よりも俺が気にするのは、眼鏡がよく似合う美人だという事だ。
………………。
………………。
やっぱ良いね、眼鏡。
その女性――三人目は、ステンさんの隣に並んで立ち、こちらに向けて一礼。
この三人の中から選ぶのか。
ただ、その三人の視線は、ある一点に向けられていた。
俺のプレート、に。
視線がそのまま俺に向けられるので、苦笑気味でニッコリ笑顔を返す。
向こうもニッコリ笑顔を返してきた。
けれど、その目に宿るのは、獲物を見つけた狩人そのもの。
俺を落とせば、みたいな事を考えている訳じゃないよね?
いやいや、実際この中でロイルさんに一番影響を与えるのは、アドルさんだと思うけど。
……そこで気付く。
そうか! 俺は餌で罠か!
俺という明確な餌を用意し、それに対して三人の女性がどのような行動に出るかを見るために!
となると、俺はこのまま大人しくしておけば良い訳か。
ここに座っているだけで、意味がある。
……それとも、難しい顔でも浮かべてみるべき?
悩むけど……コメントくらいは考えておいた方が良いかもしれない。
これまでの事を振り返って、今を見る。
……ロイルさんは選べないと言った。
……実際に見て、俺も選べない。
……なら。
「アキミチはどう思う?」
「三人共嫁にしちゃえば?」
隣に居るロイルさんの問いかけに、ついポロッと出てしまう。
………………。
………………。
ちょっと待って。
聞かれると思わなかったから油断していた。
今の一旦保留。
ちょっと考えさせて。




