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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第五章 魔族の国
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言葉だけで危険じゃないって伝えるのは難しい?

 一旦、場を変える事になった。

 さすがにあのまま謁見の間で続ける訳にはいかないと、宰相さんが判断したからだ。

 その判断が妙に即決の的確で手馴れていたと感じたのは……うん。きっと気のせい。

 日常的な出来事じゃないよね?

 なので、その場が出来るまでの少しの間、このまま待つ事になった。

 それは良いのだが……。


「えっと、その刃はそっと懐に仕舞ってくれませんか?」

「ですが、あなた様は初対面ですので、この警戒は必要な事だと理解して頂きたいです」


 そう言って俺の喉元に短刀を当てているのは、いつの間にか背後に立っていた、さっき暗殺者と言われていた多腕の女性。

 ……ガチで暗殺者じゃないの? しかも過激なタイプの。

 このままでは不味いので、まずは敵じゃない事を伝える。


「害意敵意は一切ありまでん」


 しまった。噛んだ。


「信じられません」


 その返答は、噛んだからだよね?

 俺自身が怪しいからとかじゃないよね?


 アドルさんに助けを求めようとするが、この国の王様の相手で手一杯。

 インジャオさんとウルルさんは、何やら宰相さんと話している。

 ……これは不味いんじゃないか?


 いや、その前に、そもそもなんで警告してくれなかったの? セミナスさん!


⦅すみません。捕まったマスターをどう辱めようかと妄想をしていまして……⦆


 捕まったというその結果を教えておいて欲しかったんですけど!


⦅やはりここは……恥辱に塗れて頂くのが良いと思いませんか?⦆


 本人に聞いちゃ駄目でしょ、それは!

 駄目だ。このままだと、何か間違えたら頭と胴体の確かな絆が斬られてしまう。

 ……頼るしかない。

 エイト!


「ご主人様。エイトはそう都合の良い女ではありません。メイドです」


 意味がわからない!

 いや、俺をご主人様だと思うのなら、寧ろ助けてよ!


「でしたら、『今晩はエイトを縛りたい』もしくは『縛られたい』と仰って下さい」


 ここぞとばかりに!


「……こんな幼い子を……殺しましょう。それが世界のため。私が手を汚す事で世界が平和になるのなら……」

「待って! 待って! ちょっと待って!」


 逆効果じゃないか!

 なんか変な覚悟を固めようとしているし!

 このままじゃ不味い。

 しかし、俺にはまだワンが居る。


 ワ、ワン!

 そう思った時には、既にワンは動いていた。

 暗殺者の女性の顎を、クイッと持ち上げる。


「良い女だな……腕が多くて色々楽しめそうじゃねぇか。どうだ? 今晩。お互い全てを忘れて……」

「え、えっと……その……本気ですか?」

「当たり前だろ。あたいは常に本気だ」


 暗殺者の女性を口説き出した。

 いや、その前にこの状況をどうにかしてよ!

 正直に言えば、俺を助け……いや、待てよ。

 ワンが口説き落としてしまえば、俺は解放されるんじゃないだろうか?


 いや、そうに違いない。

 よし、好きなだけ口説きなさい!

 ……なるほど。ワンの狙いはそれか。

 全く……察しの良い俺じゃなかったら、見捨てられたと勘違いしていてもおかしくないんだからね。


 ただ、問題なのは、一向に短刀が引かれない事だ。

 あれ? これ……どうなってます?

 寧ろ、ワンの言葉に照れて反応しているのか、短刀の切っ先が動きまくって逆に怖い。

 ………………すみませ~ん! 誰か! 誰かぁ~!

 ここに危険人物が居ます!


「あぁ、すまない。伝え忘れていたな。彼は私の仲間だ。信頼出来る者たちなので問題ない」


 アドルさんのその一声で、短刀は下げられて解放された。

 多腕の暗殺者から、「失礼しました」と謝罪される。

 もう少し早めに解放して欲しかったです。

 ただ、何かを言う前に、多腕の暗殺者はスススッとワンの下に。


「あの……今晩……空けておきますので。私の部屋は……」

「OK。わかった。楽しみに待っていな」


 ……なんかあそこだけアダルティな空気が流れている気がする。

 近寄らないでおこう。


 そう思った辺りで準備が出来たそうなので、早速移動した。


     ◇


 移動した先は、この国の王様の私室。

 入って来た扉以外にもいくつか扉があって……寝室とかに繋がっているのかな?

 大きなテーブルとかソファが置かれているし、ここはリビング的な?

 ……のはずなんだけど、なんか荒れている、物が散らかっている、じゃないな。


 物が多いけど、必要なモノが必要な場所に置かれているような感じ?

 でも……あれ? 王様の私室なのに掃除されていない? と思ったのだが違った。

 インジャオさんから、この方が落ち着くからこうしていて、計算された物の配置で、王様のこだわりらしい、と教えられる。

 ……なんか気が合いそうな感じ。


 それで、大きなテーブルの上には、人数分の紅茶と茶菓子が用意されていた、

 どうやら、これを準備していたようである。

 思い思いに座り、まずは紅茶を一く――。


「失礼します」


 エイトに横から掻っ攫われた。

 いや、飲みたいならエイトの分も用意してくれているけど?

 エイトが一口飲む。


「……及第点を与えましょう」


 どういう立ち位置で判断しているんだろう。

 というか、行く先々で確認を繰り返すのかな?

 ……手間を考えると……これからはエイトに淹れて貰う方が良いのかもしれない。

 そんな事を考えていると、まずは紹介が始まる。


 といっても、初対面なのは俺、エイト、ワンだけなので、まずはアドルさんが俺たちの事を紹介した。

 簡単なこれまでの経緯を加えて。

 あれ? いくら一国の王様が相手とはいえ、簡単に話し過ぎじゃない? と思ったが、アドルさんからその王様の事を紹介されて納得した。


 この国の王様……色白の若い男性は、アドルさんの義弟。

 名は、「ロードレイル・ピースビルド」。

 アドルさんと同じく、吸血鬼。


「宜しく。『ロイル』と呼んでくれて構わない」


 手を差し出されたので、ロードレイル――ロイルさんと握手を交わす。

 ………………普通に握手出来てしまったな。


「えっと……ぎゃー! 殺されるー! 的な事は言わないんですか?」

「……何故だろうね。君は寧ろ落ち着く。無害だからだろうか?」


 それは喜んで良いのかどうか悩む。

 まぁ、下手に被害妄想を発揮されるのも話が面倒なので、別に良いか。

 とりあえずこちらも、普通に名で呼んで下さいと返しておく。

 ちなみにだが、エイトとワンに対してはハッキリと被害妄想が発揮していた。

 ……いや、確かにそうだけど……エイトやワンの方が脅威なのか。


 挨拶が終わってから気付く。


「あれ? アドルさんが義兄という事は……」

「そうだ。ロイルには姉が居て……『ロザミリアナ』という名で、私の妻だ」


 アドルさんがそう教えてくれる。

 あっ、だから、ロイルさんが義弟で、この国の人たちはその事を知っているから、アドルさんに対して跪いて………………ん? 跪くのが普通かな?

 いや、普通か。

 アドルさんが王族の人と結ばれたという事は、王族一家の仲間入りって事だし。


 でも、それならそれで疑問がある。


「……えっと、もしかしてですけど、アドルさんたちの目的って、そのアドルさんの妻でロイルさんの姉という人に関係あります?」


 そう尋ねると、アドルさんはどこか悲痛な表情を浮かべる。


「そうだな……どこから話したモノか」


 そう言って、アドルさんは語り出した。

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