いつも通りって、いつでもという事ではない
王城への門でも、同じような事が起こった。
門番さんがアドルさんに驚き、メダルを見せて跪き、中に通される。
楽で良いんだけど……本格的にアドルさんって何者?
でもそれは、もう少し進めばわかりそうな予感。
すんなり通るのは、王城の中でも同じだった。
「というか、迷う事なく進んでいますけど……合っているんですか?」
「あぁ、問題ない。特に変わっていないからな」
先頭を歩くアドルさんがそう答える。
……それにしても、この国にというか、王城に入ってから、インジャオさんとウルルさんがおかしい。
なんというか、こう気軽な感じではなく……緊張しているような……。
それに、立ち位置がアドルさんに付き従っているように見える。
まるで、護衛騎士とメイドだ。
……なんか良いなぁ。こっちなんて……。
「ご主人様。様々な種が存在しています。どういったのがお好みですか? あちらで窓拭きをしている蜘蛛種の少女メイドですか? それとも王城内を巡回中の三つ目種の妙齢の女性秘書ですか? はたまた外の開けた場所で鍛錬をしている多腕種の筋肉質の女性騎士ですか? 今後の参考に致しますので、是非とも貴重なご意見の提供をお願いします」
提供しません。
「へぇ~……ほぉ~……中々粒揃いじゃないか。皆それぞれに違う特徴があって迷うな。……HEY! そこのWing Girl。あたいと今晩どうだい? 新しい世界の扉を開けてあげるよ」
開けなくて良いから。
いやもうほんと、自由だね、君たち。
ほら、列から離れない!
今は勝手に動いちゃ駄目!
時と場合を少しは選んで!
でもこういう時って不思議だよね。
エイトだけでも手一杯だったはずなのに、もう一人増えても不思議と対処出来るようになっているというのは……。
これも成長かな?
……嬉しくない成長だけど。
とりあえず、アドルさんに謝っておこう。
「なんか騒がしくしてすみません。アドルさん」
「いいや、気にしていない。それに、ああして普段通りに居られるというのは、こちらもどこか気が楽になる。……私も些か緊張しているようだ。だからという訳ではないが、彼女たちに責任は問わない」
「そう言ってくれると助かります」
「そもそもこういう場合の責任は、主人が取るべきモノだ」
なるほど。主人が……。
………………。
………………。
ん? あれ? それってつまり……。
「よぉし! 手を繋いでいこう!」
「「………………」」
「そこで照れるんじゃない!」
俺も照れるでしょうが!
仲良くアドルさんたちのあとに付いていった。
◇
付いていった先にあったのは、騎士さんたちが守っている、大きくて立派な門。
多分、この先は……謁見の間のような気が……しまった!
ここまでの道筋、覚えていない。
多分だけど、またこの王城でお世話になるよね?
そうなると、何度も出入りする事になるのは間違いないから……迷う確率が高い!
いや、違う。
迷ってない。そこに行きたかったから行ったのだ!
「それは勘違いです、ご主人様。自らの非をきちんと認めましょう」
「うん。何も言っていないよね。それに、認めているからこそだ」
もう察せられるのも慣れたモノだ。
「どういう事だ?」
だから、ワンの反応が新鮮。
いや、普通はそっちだよね?
セミナスさんは同体だからわかるけど、エイトの察しの良さが普通じゃなさ過ぎる。
⦅ワンモア!⦆
え? 何が?
……んー、エイトの察しの良さが普通じゃない?
⦅違います。その前⦆
……セミナスさんと同体?
⦅そこです。マスターと私は同体……共に過ごす存在……つまり、切っても切れない、常に繋がっている……ふしだらな日々を過ごす関係という事ですね⦆
なんで最後にそんな言い方を付け加えたの?
「ですので、ご主人様は決して自らがそうだと認めない方向音痴なのです」
「なるほどなぁ。そういう事だったのか」
しまった! こっちはこっちで!
「説明しないで! あと、言葉にしないでというか選んで! せめてオブラートに包んで!」
エイト、ワンと言い争っていると、ポンと肩に手が置かれる。
……笑顔のアドルさん?
「いつも通りで気が楽になるとは言ったが、時と場合を選ぼうか」
その言葉を受けて、周囲を見渡す。
インジャオさんとウルルさんは、他人ですとでもいうように少し離れた位置に陣取り、門を守っている騎士さんたちは、笑いを堪えているように体を震わせている。
……失礼しました。
「もう終わりですか? もっとご主人様とのイチャつきぶりを見せつけたかったのですが?」
「エイトはアレかな? 外堀を埋めようとしたのかな?」
「なるほど。先に周囲に知らしめる事で、当人も認めるしかないという事か」
「ワンも要らぬ知識を覚えないように!」
アドルさんの笑みが更に深くなる。
………………本当、ご迷惑おかけします。
扉を開けて先に進むアドルさんのあとを、大人しく付いて行く。
中は……やっぱり謁見の間だった。
いくつもの柱があり、床は踏み心地の良い絨毯。
壁には垂れ幕がいくつもかけられていて、全部違う柄。
多分、それぞれの種を表しているんだと思う。
そして、向かう先にあるのは数段だけ高くなっている壇上。
その壇上にある立派な玉座に座っていたのは、頭に王冠を載せた色白の若い男性。
青色の髪をオールバックした、端整な顔立ちの細身で、王様というよりは王子様のような服装を、見事に着こなしていた。
壇上には他にも何人か男女が居るようだけど……あとで紹介でもされるのかな?
アドルさんは壇上付近まで行くと、足をとめた。
インジャオさんとウルルさんは跪いたので、俺もそっちだろうと同じように跪く。
エイトとワンは……既に跪いていた。
その空気を読む力を、何故俺に対しては発揮してくれないのだろうか……。
「久しいな、ロードレイル」
「……えぇ、お久し振りです」
そんな事を思っている間に、アドルさんと色白の若い男性が会話を始める。
「それにしても……ここに居ないという事は、まだ、という事ですか?」
「……あぁ。今回の来訪は少々予定外でな」
「そうですか。……残念ですが、忘れた訳ではないのでしょう?」
「当然だ。片時も忘れた事はない。今でも私の主目的は変わらない」
跪いているので表情は見えないけど……雰囲気は伝わってくる。
そう言うアドルさんからは、とても強い気配というか……どこか怖さを感じた。
「それならば、余からその事については何も言いません。忘れていないのならば、それで良いのです。それに、こうして来た頂いた事自体は嬉しい……何故ならば」
ダダダ……と駆けるような音がしたかと思うと、アドルさんから何かを受け止めるような音が聞こえた。
チラッと確認すると、色白の若い男性がアドルさんに縋り付いている。
「あいつ! あいつ! この国の宰相だけど、絶対謀反企んでいるから! 余を玉座から落とそうと画策しているから」
えぇ! なんかどっかで最近聞いた話だけど、そうなの?
思わず顔を見上げて驚くが、アドルさん、インジャオさん、ウルルさんは、露骨な溜息をした。
アドルさんが壇上に居る人たちに向けて声をかける。
「そうなのか?」
「いいえ。欠片も考えていません」
壇上に居る人たちの内、頭に六本の角があって、ローブのような服装の男性がそう答えた。
……別に嘘を吐いているようには見えない。
「だ、そうだが?」
「それならあの多腕の秘書! 俺を殺そうとしている暗殺者に違いない!」
「違います」
即否定が入った。
……えっと、どういう事?
「……全く。まだその被害妄想癖が直っていないのか」
そう言うアドルさんの表情は、やれやれ仕方ないな、みたいな優しさがある。
いや、そういう問題なの? これ。




