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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第五章 魔族の国
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わかってはいるんだけど、やめられなかったんです

 一回で終わらなかった。

 魔族の国に到着するまでにある町はいくつかあるが、今のところ全部寄っている。

 だって仕方ない。

 お風呂とベッドがそこにあるのだから。


 まるで小悪魔に弄ばれているような気分。

 でも、悪い気分じゃない。


「いやぁ~、今回の町は温泉付きでよかったですね」

「ほっこりしました」

「正に疲れが取れたな。また寄っても良いくらいだ」

「ベッドもふかふかで、スッキリとした目覚めですよ」


 進む馬車の中、俺、エイト、アドルさん、ウルルさんの四人は、つい先ほど出発した町での快適さを思い出して、高らかに笑い合う。

 ワンとインジャオさんは、御者台の方に居る。


「それでアドルさん。次の町までどれくらいですか? また温泉があると嬉しいんですけど」

「待て待て。実は先ほどの町で、ここから行ける町の情報を色々と集めてな」


 そう言って、アドルさんが簡易的な地図を広げる。


「ここから先は、三つの道筋がある」

「三つ?」

「まず一つ目。目的地である魔族の国に最短で着く……が、地形の関係で温泉などはなく、これといった特徴もない普通の宿場町があるだけ」


 ふんふん。


「二つ目。最短からは逸れ、正直言って遠回りになるが、天然岩風呂と川魚が美味い町がある」


 ほうほう。


「三つ目。二つ目よりも更に遠回り……というよりは完全に方向が違うが、温泉と名物料理があるだけではなく、大きなカジノがある町を通る」


 ほっほ~う。


「つまり、行くとするなら、二つ目か三つ目という訳ですね?」

「その通りだ」


 エイトとウルルさんも頷く。

 しかし、これは悩むな。

 天然岩風呂も良いけど、カジノなんてフラグにしか聞こえないというか、セミナスさんによって蹂躙される未来しか見えない。


⦅私にとって、カジノはATMです⦆


 冗談に聞こえないから恐ろしい。

 いや、冗談ではないのだろう。

 ……というか、カジノのイメージって映画でしかないけど、そもそも俺って未成年だから入れないんじゃないのかな?


 ………………。

 ………………。

 ここは異世界だし、適応外って事で一つ。

 いや、待てよ。


 この世界なら、俺の年でも成人として扱って貰えるかもしれない。

 そこを確かめてからだな。

 なんて事を考えていると、ウルルさんが挙手。


「両方行くのは駄目なの? たとえば、二つ目に行って、それから三つ目に行くとか?」


 その提案に、俺とアドルさんは黙る。

 エイトも俺に合わせてか、何も言わない。


「………………いや、でも……ねぇ? それはさすがに……ねぇ? アドルさん」

「う、うむ。それはまぁ……ほら……なぁ……アキミチ」


 場の雰囲気的には、そうする? そうしちゃう? そうしよっか? みたいな空気が流れている。

 そこで馬車がとまった。

 あれ? まだ街道ですよ? と思っていると、インジャオさんが馬車の扉をバーンと開ける。

 ……黒いオーラのようなモノが立ち昇っているように見えた。

 くいっと親指で外に出ろと示される。


「ちょっとお外で話し合いをしましょうか」

「「「……はい」」」


 外で正座。

 俺、アドルさん、ウルルさんは、インジャオさんからの説教を受ける。

 人目がなくてよかったけど、小石とかが地味に痛い。


「………………アキミチ。雑念があるようだね」

「いいえ、ありません」

「……疑わしいですが、今は良いでしょう。それよりも、一体どういう事ですか? 本来はもっと進んでいるはずですのに、予定の三分の二ほどしか進んでいません。遅れている理由はわかりますよね?」

「「「………………」」」


 誰も何も答えない。

 答えがわからないからではなく、言いづらいからだ。

 認めたくない、とも言える。

 ……町に寄りまくらず、必要な時にだけ寄って、あとは野宿をしていれば予定通りの行程だっただろう。


「特に、アドル様」

「……はい」

「魔族の国に行きたくない気持ちはわかりますが、いずれ行く事に……いえ、会う事になっていたのは間違いないのですから、いい加減覚悟を固めて下さい」

「………………」


 あれ? アドルさんにはそんな理由があったの?

 てっきり、俺と同じように観光気分で楽しんでいるとばかりに……。

 ウルルさんが驚きの表情を浮かべているけど……もしかして気付いていなかったのかな?

 ……あっ、俺の視線に気付いて、知っていましたと頷き出した。


「ところでインジャオさん」

「……なんですか?」

「どうして俺たちだけ? エイトとワンは良いの?」


 エイトとワンは、インジャオさんに説教される俺たちの様子を、少し離れた位置でただ見ているだけ。

 インジャオさんはチラッとそちらの方に顔を向けたあと、俺の方に顔を向ける。


「逆に聞きますけど、説教して通じると思いますか?」

「思いません」

「そういう事です」


 納得は出来るが、それはズルい、と思った。

 そこからもう少しだけ説教を受けてから出発。

 ルートはもちろん……一つ目の宿場町。

 宿場町に寄るかどうかは、今のところインジャオさん次第である。


 ……これからの野宿、頑張ろう。


     ◇


 魔族の国に着くまでの間にも、当然のように野良の魔物に襲われる時はあった。

 その内の何度かは、戦い方を知るのに丁度良い機会だとワンに戦って貰う。

 物理攻撃だった。

 大体、拳……時々、足……更にレア、膝。


 魔物を一方的にボコボコにしている。

 強いのはわかる……わかるのだが……。


「いやいや、『火』の『特化型』なんだよね? その『火』の部分はどこにいったの?」

「なんだ? あたいの火魔法が見たかったのか? なら、始めからそう言えよ」


 新たな野良の鹿の魔物が現れた際、ワンの火魔法が明らかになる。


「『魔力を糧に 我願うは 心を燃え上がらせるモノ 纏火』」


 拳に火を纏わせ……鹿の魔物をタコ殴り。

 ほんのり肉の焼ける美味しい匂いが漂う。


「どうよ!」


 ワンが自信満々の笑みでそう言う。

 いや、途中から……というか、最初からなんとなくそうじゃないかな? と思っていた。

 でも……。


「普通に格好よかったです」

「だろ!」


 良いよね、火を纏う拳って。


「でも、一応聞いておくけど、火の玉を飛ばすみたいな事は出来ないの?」

「いや、出来るぜ。そもそも、火に関する魔法ならなんでも出来る。ただ、あたいの性に合っているのが、纏う系ってだけさ」


 なるほど。

 妙に納得である。


 そのあとは、特にこれといった事は起きず、順調に進み……数日後。

 アドルさんから、ラメゼリア王国領は出て、既に魔族の国の領内に入っている事を教えられる。


 ちなみにだが、宿場町には寄った。

 インジャオさんの慈悲で。

 どうやら魔族の国は、王都以外は集落くらいしかないそうで、宿屋があるかどうかも怪しいらしい。

 つまり、ここから先は野宿が続く事になるので、宿場町に寄ったのは慈悲なのだ


 その事を魔族の国に入ってから聞かされる。

 ……もっと宿場町を堪能しておけばよかった。

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