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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第五章 魔族の国
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そこは物を入れる場所ではありません

 部屋に戻ってから気付く。


「あっ、そういえば、ワンに聞きたい事があった」

「ん? 何をだい?」


 ワンは椅子にドカッと座り、膝の上にエイトを乗せながら頭を撫でていた。

 ……可愛がっているのかな?


「離してくれませんか? エイトはメイドとして、ご主人様の後方に控える義務が」

「大丈夫大丈夫。外でならまだしも、身内しか居ないところで、そんなちんけな事を気にするような主には見えないから安心しなって。妹は大人しく姉の膝の上に収まってな」


 いや、確かに気にしないけど……待てよ。

 これはもしかして、ワンは日頃暴走気味なエイトを抑えてくれる存在になるかもしれない。

 その存在の通り、姉として!


「それに、エイトはご主人様のお世話もしなければいけません」

「大丈夫大丈夫。それも姉として一緒にやってやるから」


 ……駄目かもしれない。

 ただただ妹に甘いだけの姉でしかなさそうだ。


「で、主。あたいに聞きたい事ってなんだ?」


 エイトの頭を撫でる手をとめずに、ワンが聞いてくる。

 あっ、そうそう。聞く事があるんだった。

 まずは前提として、俺の中にあるスキル――セミナスさんの事を教えてから。


「というスキルが俺の中に」

「で、その超絶出来る女は、いつ体を手に入れるんだ? 早くあたいの前に現れて欲しいんだけど?」


 なるほど。

 こいつ、間違いなく女好きだな。


⦅身はありませんが、身の危険を覚えます。ですが、私を超絶出来る女と評価している部分に関しては認めましょう。良い女であると⦆


 セミナスさんはセミナスさんで、よくわからない事を言っている。

 そういう事を話し合いたい訳じゃないんだけど。


「とりあえず、そのセミナスさんが、ワンが持っている物も褒賞の一つだって言うんだけど、何か持っている?」


 その問いに、ワンはエイトを離して、自分の服を上から触っていく。

 どこにあるかわからないのかな?

 エイトはエイトで、たたたっと俺を盾にするように後方に移動。

 いや、実際、俺の服を強く掴んで盾にしている。


 ……構い過ぎた事が逆効果になっていないか、これ?


「あっ、ここか!」


 ワンの声に反応して、視線をエイトからワンに。

 すると、ワンは胸元のサラシの中から、手の平サイズの青く輝く石を取り出した。

 なんてところに入れているんだ!


「『仮初の生命石』か。なるほど。確かに必要だな」


 そう言って、ワンは俺に向かってその石を投げてきたので受け取る。

 ……ちょっといけない気持ちになるのは何故だろう。

 て、違う違う。

 この石、なんなの?


⦅『仮初の生命石』。一度だけですが、死を防ぐ事が出来ます。ただし、その時に身に付けておかなければいけないという制約があるため、アイテム袋などに入れていますと効果はありません⦆


 これまた凄いのが出て来たな。

 お金に換算すれば相当なモノなんじゃない?


⦅そうですね。この世界に現存しているのは数個のみと伝わっていますので、マスターが想像している以上の高額です。ですので、所持している事は他言無用をオススメします⦆


 セミナスさんが他言無用をオススメするって事は、相当なんだと思う。

 そんな高額な物は持ちたくないが……その効果が破格である以上、持たない訳にはいかないか。

 高額な事は忘れておくとして、絶対バレないようにしないと。

 エイトとワンに言わないように言っておくとして、アドルさんたちには?


⦅言って構いません。ですが、そこで話はとめておくように、きちんと言って下さい⦆


 わかった。

 でも、セミナスさんなら、こういうのを狙って乱獲出来そうだね。


⦅もちろんやろうと思えば出来ますが、本当に数個しか現存していない上に、マスターが所持した一個以外は全て竜の領域にありますので、取りに行くのは難しいとしか言えません⦆


 なるほど。それは無理だ。

 この一個で満足しておこう……でも、一つ疑問がある。

 これって、別に必要なくない?

 そもそも、セミナスさんが居れば即死級とか関係ないと思うんだけど?


⦅………………⦆


 おっと、沈黙が返ってきましたよ。

 つまりこれは、別の意図があると察せ――。


⦅そのような事はございません⦆


 さっきと違って速い反応ですね。


⦅そのような事はございません。それに、黒い神殿内では私の力が大きく制限されるという事が確認出来ている以上、マスターのための対策は必要です。それこそ、対策はいくつあっても、いえ、いくつも用意すべきなのです。これはその一つだと考えて頂ければ――⦆


 ………………めっちゃ早口で言われた。

 言いたい事はわかるけど……なんか言い訳っぽく聞こえる。

 ……で、本音は?


⦅ありません⦆


 さすがにセミナスさんは引っかからないようだ。

 大抵の人はこれで正直に話してくれるのだが。

 ……でもまぁ、セミナスさんのやる事は、俺にとって悪い事じゃないと知っているし、信じている。

 聞いても答えないって事は、まだその時じゃないという事だ。

 多分、セミナスさんの言葉を借りるのであれば、まだそれが必要だと確定はしていないけど、準備だけはしておく事にした、みたいな感じかな。


⦅正にその通りです⦆


 うん。他の意図があると認めたって事だね。


⦅……謀りましたね? マスター⦆


 はっはっはっ。

 というか、なんでワンは俺を見てニヤニヤしているの?


「……なんか言いたそうだね」

「いや、良い主だなって思ってさ」


 うん。意味がわからない。

 いや、多分だけど、ワンはその他の意図ってヤツに見当があるっぽい。


「ワンは、なんか知っていそうだね?」

「あたいに聞くって事は、そのセミナスさんってのは話してない訳だ。なら、たとえ知っていたとしても、あたいの口からは言えないね。そういうのは本人の口から言うべきさ」


 駄目か。

 まぁ、期待した訳じゃないから別に良い。

 とりあえず、この石はどう身に付ければ……。


⦅アイテム袋は別扱いですが、身に付けている衣服のポケットは問題ありませんので⦆


 なら、とりあえずポケットに入れておこう。

 と、思ったけど、エイトが見たそうにしていたので渡す。

 ちゃんと返してね。


 それで、俺たちは出発に向けて何か準備する事ってあるの?


⦅特にありません⦆


 なら、挨拶回りくらいはしておこうかな。

 ……ドンラグ商会の人たちと、カノートさん家の執事さんくらいだけど。

 いや、屋台の人たちもいける……か?

 アドルさんたちの準備が整うまで数日あるようだが、翌日から挨拶だけはしておこうと向かう。


 ドンラグ商会では、ダオスさんとハオイさんから、ドンラグ商会の商店は各地に点在しているので、困った時はお寄り下さいと言われる。

 ワンに可愛がられていたノノンちゃんにも旅立つ事を伝えるが、大泣き。

 行かないで、と俺の服を掴んで離さない。


 更に付いて行くと駄々を捏ね始める。

 いや、さすがに連れて行くのは無理。

 ハオイさんも断固拒否の構え。


「……待って下さい。ノノンが付いて行くのなら、私も付いて行けば今よりも一緒に居られるのでは?」


 ……商会長じゃなかったでしたっけ? ハオイさんって。

 ドンラグ一家が総出でハオイさんを力ずくでとめる。

 ノノンちゃんをとめたのは、エイトだった。


「決着は次の機会に持ち越しですね、ライバルよ。まぁ、そのような泣き顔では、エイトの勝利は確実ですが」

「うっ、ぐす……負けないもん。今度……会った時、驚くのはエイトちゃんの方だから。ノノンの溢れる魅力で、負けを認めさせてあげるんだから!」


 そう言って俺の服を離すノノンちゃんの笑みは、少しだけ色気を滲ませていた。

 将来が怖い子の誕生である。

 ワン、ちょっと興奮しないように。


 カノートさん家の執事さんは普通に別れを惜しんでくれて、またいつでもお立ち寄り下さい、と一礼された。

 俺たちも一礼を返す。


 屋台の人たちは、覚えられている自信がないのでやめた。

 せめて詩夕と常水が居たら、違っていたかもしれない。


 DDとジースくんたちは、まだまだラメゼリア王国で興行をしたいから残る、と逆に言われる。

 ……はぁ、頑張って下さい。

 でも、代わりという訳ではないだろうが、俺たちがこれから向かう場所を聞かれたので、魔族の国ですと正直に答えておく。

 ……まさか、来る気なのだろうか?


 出発を翌日に控えると、当日は見送れないとの事で、ゴルドールさんとも挨拶を交わしておく。

 考えてみれば、一国の王様と挨拶を交わすなんて、なんか変な感じだ。

 ただ、最後に。


「また会おう、アキミチ殿」

「は、はぁ……はい」


 なんか妙に確信を持って言われる。

 そんな予定があるのかな?


 そして翌日。

 俺たちは、ラメゼリア王国の王都から旅立った。

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