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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第五章 魔族の国
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……嫌いじゃない

「ふ~ん……テメェがあたいの主ねぇ……」


 箱から出て来た赤髪女性が、俺を値踏みしてくる。


「ちょっとひょろっちいが、それなりに鍛えてはいる、ようだね。顔の作りは……言わない方が良いか」


 ちょっと表出ろよ。

 色々と話し合おうか。


「でも、あたいは嫌いじゃないよ」


 ……ふっ。俺も嫌いじゃないぜ。


「ご主人様にキメ顔は似合っていません」


 エイトから駄目だしされた。

 キメてんのに?

 すると、赤髪女性が尋ねてくる。


「なんだい、この可愛い子は?」

「あぁ、エイトっていって……え?」


 いや、可愛い事は可愛いけど……言動的にそういう感情はなくなっていた。

 そうだよな……確かに、エイトって見た目は可愛い少女なんだよな。


「ご主人様。何やら今更ながら気付いた、とでもいうような表情でエイトを見ていますが、詳しい内容をお聞かせ頂けますか?」


 もちろん、言わない。

 代わりに、赤髪女性の問いに答える。


「エイトは、あなたと同じです」

「あたいと?」

「はい。『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器』」

「その八番目。『汎用型』のエイトです」


 エイトが俺の言葉を引き継ぎ、赤髪女性に向かって一礼する。

 赤髪女性は、ニヤリと笑みを浮かべた。


「なるほどね。あたいがどういう存在かを知っていて、目覚めさせたって訳か。それなら話は早い」


 そう言って、赤髪女性は両手で襟をビッと正し、拳を前に突き出すようなポーズを取る。


「『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器・特化型』、対応している属性は『火』。名は『ワン』だ。これから宜しくな、主」


 ……なんか様になっているなぁ。

 ………………。

 ………………。

 はっ! なんかいつの間にか主呼びを受け入れていた!

 今更感が強いけど。

 まぁ、本当に今更だけど。


「これから宜しくお願いします。ワンさん」


 赤髪女性――ワンさんに向けて、これから宜しくと握手するための手を差し出す。

 気分的に「さん」付け。


「やめろやめろ。『さん』付けなんてこそばゆい。主なんだから、あたいの事は呼び捨てで構わないぜ」


 そう言って、ワンさ……ワンは俺の手を横から叩く。

 握手ではなかったが、どこか親愛を感じる。


「まっ、主があいつらみたいなのじゃなくてよかったよ」

「あいつら?」

「あたいを造ったやつら。あいつら、なんでか知らないけど、あたいに名を呼ばせたがるんだよな」

「名を?」

「そう。『自分の名を言ってみて下さい』、『連続して言ってみて下さい』ってさ」


 ………………。

 ………………。

 わかりたくはなかったけど、どうしてそんな事をしたのかわかってしまった。

 ご主人様気分を味わいたかったのかもしれないけど……。


 その神々に対しては、もう、やっぱり……という言葉しか出てこない。


「まぁ、なんか気色悪かったから、速攻でボコったけどな。それ以来、言われなくなったけど」


 よくやった、と心の中で賛美を送る。

 グッ! と親指を上げたい気分だ。

 全力の拍手を心の中で送っていると、ワンはエイトを興味深そうに見る。


「……それにしても、八番目ねぇ」

「エイトに何か?」

「いや、あたいの中にある情報データじゃ、同型は七属性の数だけしか作られていないはずなんだが……八番目を作る必要性があったって事か。一体なんのために?」

「『特化型』だけでは頼りない、という事では?」

「言うねぇ。妹のくせに。姉を敬うって事を覚えさせられていないのかい?」

「妹? 姉?」


 エイトは不思議そうな表情を浮かべるが、ワンは愉快そうな笑みだ。


「そりゃそうだろ。私が最初に作られ、あんたは八番目だ。なら、先に作られたあたいが姉だろ」


 エイトは少し考えたあと、ワンに向けて両腕を広げる。


「姉~!」


 そう言って、エイトがワンに抱き着く。

 ワンは嬉しそうにエイトの頭を撫でる。


「良いね。良いね。他のは体格があたいと大体似ているから可愛げがないけど、これくらい差があると可愛さしかないね」


 ワンの顔が緩みきっている。

 もうでれっでれだ。


 とりあえず、アドルさんたちがこちらに戻って来たので、ワンの相手はエイトに任せる事にした。

 一応、こちらの話は聞こえていたようで、それぞれ返答してくる。


「……新たな創造物ホムンクルスか。少々過激な服装なのは気になるが」

「火属性ですか。文字通り、どれだけの火力を有しているのか気になりますね」

「お腹冷えないのかな? ホムンクルスだから大丈夫なのかな?」


 アドルさん、インジャオさん、ウルルさんの返答。

 なんでもないように受け入れていた。

 エイトで慣れたのかな?


「………………神々の考える事は、人智を超えているという事か」

「そうですね。きっと、私たちでは理解出来ません」


 ゴルドールさん、宰相さんの返答。

 うん。考える事を放棄しないで。

 そもそも、この世界の神々が造ったんだから、この世界の人たちが諦めないで。


「ですよね~」


 でも、気持ちはわかるので同意。

 うんうんと頷いていると、宰相さんから声をかけられる。


「それでアキミチ殿。一つお伺いしたいのですが?」

「なんですか?」

「この場合、アキミチ殿が欲したのは、あの女性という事で宜しいのでしょうか?」


 もう少し言い方に気を遣って欲しいが……。


「え、えぇ、まぁ……そうみたいです」

「ですよね。なら、アレはどうしましょうか?」


 アレ? どれ?

 宰相さんが指し示したのは、ワンが横たわっていた大きな箱。

 ……あぁ、そうですね。

 どっちにとっても、もう必要ない物ですもんね。


⦅問題ありません。再利用出来ます⦆


 そう言うセミナスさんに指示されるまま、再利用方法を宰相さんに伝える。

 ……ほうほう、なるほど。

 どうやらそれなりに希少な金属が使われているようで、分解も出来るようだ。

 分解したモノを熱して溶かして分別すれば、充分使えるらしい。


 この情報に、宰相さんは大喜び。

 なんでも、鍛冶に回せば国宝級の物が、売っても超高額と、色々と幅広い用途のモノらしい。


「これは何か、別の褒賞を用意した方が良いかもしれませんね」

「……だったら」


 セミナスさんが何気なく言っていた、地下遺跡に関係しているというメダルを貰った。

 俺と宰相さん、Win-Winの関係。

 いつか行けると良いな。


⦅まだスケジュールに組み込めるかわかりませんが、覚えておきます⦆


 ありがとうございます。

 宰相さんとの話が終わったので、視線を元に戻すと……。


「へぇ~……狼の獣人かぁ。名は? ウルルね。可愛いじゃん」


 ワンがウルルさんにちょっかいをかけていた。

 もしかしてとは思うけど……女好きなのかな?

 まだそうだと確定した訳じゃないけど……エイトを造った神々なら、他のにも変な属性を盛り込んでいてもおかしくないので、妙に納得してしまう。


 ワンの行動に、インジャオさんはオロオロ、ウルルさんは照れ笑いだ。

 エイトは……なんかワンの行動を真似ている。

 姉妹仲は良いようだ。

 とりあえず、見なかった事にしようかな。


 そう思っていると、アドルさんが話しかけてきた。


「それで、アキミチ。今後の事についてだが」

「あぁ、なんかセミナスさんが、次は魔族の国だって」

「……やはり、か」


 そう言って、アドルさんはゴルドールさんと視線を合わせ、頷く。

 ゴルドールさんも同じように頷いた。


「わかった。準備を進め……恐らく、数日で出発となるだろう」

「わかりました。俺も出来る限りの準備をしておきます」


 必要な物があるかどうかは、あとでセミナスさんに確認だな。

 そこで一旦話は終わり、宝物庫から出た。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次の仲間の名前は“オ”で始まるのかなと思っていましたが、まさかの“ワン”ですか。 ひょっとしてアルファベットの綴りですか?
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