……嫌いじゃない
「ふ~ん……テメェがあたいの主ねぇ……」
箱から出て来た赤髪女性が、俺を値踏みしてくる。
「ちょっとひょろっちいが、それなりに鍛えてはいる、ようだね。顔の作りは……言わない方が良いか」
ちょっと表出ろよ。
色々と話し合おうか。
「でも、あたいは嫌いじゃないよ」
……ふっ。俺も嫌いじゃないぜ。
「ご主人様にキメ顔は似合っていません」
エイトから駄目だしされた。
キメてんのに?
すると、赤髪女性が尋ねてくる。
「なんだい、この可愛い子は?」
「あぁ、エイトっていって……え?」
いや、可愛い事は可愛いけど……言動的にそういう感情はなくなっていた。
そうだよな……確かに、エイトって見た目は可愛い少女なんだよな。
「ご主人様。何やら今更ながら気付いた、とでもいうような表情でエイトを見ていますが、詳しい内容をお聞かせ頂けますか?」
もちろん、言わない。
代わりに、赤髪女性の問いに答える。
「エイトは、あなたと同じです」
「あたいと?」
「はい。『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器』」
「その八番目。『汎用型』のエイトです」
エイトが俺の言葉を引き継ぎ、赤髪女性に向かって一礼する。
赤髪女性は、ニヤリと笑みを浮かべた。
「なるほどね。あたいがどういう存在かを知っていて、目覚めさせたって訳か。それなら話は早い」
そう言って、赤髪女性は両手で襟をビッと正し、拳を前に突き出すようなポーズを取る。
「『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器・特化型』、対応している属性は『火』。名は『ワン』だ。これから宜しくな、主」
……なんか様になっているなぁ。
………………。
………………。
はっ! なんかいつの間にか主呼びを受け入れていた!
今更感が強いけど。
まぁ、本当に今更だけど。
「これから宜しくお願いします。ワンさん」
赤髪女性――ワンさんに向けて、これから宜しくと握手するための手を差し出す。
気分的に「さん」付け。
「やめろやめろ。『さん』付けなんてこそばゆい。主なんだから、あたいの事は呼び捨てで構わないぜ」
そう言って、ワンさ……ワンは俺の手を横から叩く。
握手ではなかったが、どこか親愛を感じる。
「まっ、主があいつらみたいなのじゃなくてよかったよ」
「あいつら?」
「あたいを造ったやつら。あいつら、なんでか知らないけど、あたいに名を呼ばせたがるんだよな」
「名を?」
「そう。『自分の名を言ってみて下さい』、『連続して言ってみて下さい』ってさ」
………………。
………………。
わかりたくはなかったけど、どうしてそんな事をしたのかわかってしまった。
ご主人様気分を味わいたかったのかもしれないけど……。
その神々に対しては、もう、やっぱり……という言葉しか出てこない。
「まぁ、なんか気色悪かったから、速攻でボコったけどな。それ以来、言われなくなったけど」
よくやった、と心の中で賛美を送る。
グッ! と親指を上げたい気分だ。
全力の拍手を心の中で送っていると、ワンはエイトを興味深そうに見る。
「……それにしても、八番目ねぇ」
「エイトに何か?」
「いや、あたいの中にある情報じゃ、同型は七属性の数だけしか作られていないはずなんだが……八番目を作る必要性があったって事か。一体なんのために?」
「『特化型』だけでは頼りない、という事では?」
「言うねぇ。妹のくせに。姉を敬うって事を覚えさせられていないのかい?」
「妹? 姉?」
エイトは不思議そうな表情を浮かべるが、ワンは愉快そうな笑みだ。
「そりゃそうだろ。私が最初に作られ、あんたは八番目だ。なら、先に作られたあたいが姉だろ」
エイトは少し考えたあと、ワンに向けて両腕を広げる。
「姉~!」
そう言って、エイトがワンに抱き着く。
ワンは嬉しそうにエイトの頭を撫でる。
「良いね。良いね。他のは体格があたいと大体似ているから可愛げがないけど、これくらい差があると可愛さしかないね」
ワンの顔が緩みきっている。
もうでれっでれだ。
とりあえず、アドルさんたちがこちらに戻って来たので、ワンの相手はエイトに任せる事にした。
一応、こちらの話は聞こえていたようで、それぞれ返答してくる。
「……新たな創造物か。少々過激な服装なのは気になるが」
「火属性ですか。文字通り、どれだけの火力を有しているのか気になりますね」
「お腹冷えないのかな? ホムンクルスだから大丈夫なのかな?」
アドルさん、インジャオさん、ウルルさんの返答。
なんでもないように受け入れていた。
エイトで慣れたのかな?
「………………神々の考える事は、人智を超えているという事か」
「そうですね。きっと、私たちでは理解出来ません」
ゴルドールさん、宰相さんの返答。
うん。考える事を放棄しないで。
そもそも、この世界の神々が造ったんだから、この世界の人たちが諦めないで。
「ですよね~」
でも、気持ちはわかるので同意。
うんうんと頷いていると、宰相さんから声をかけられる。
「それでアキミチ殿。一つお伺いしたいのですが?」
「なんですか?」
「この場合、アキミチ殿が欲したのは、あの女性という事で宜しいのでしょうか?」
もう少し言い方に気を遣って欲しいが……。
「え、えぇ、まぁ……そうみたいです」
「ですよね。なら、アレはどうしましょうか?」
アレ? どれ?
宰相さんが指し示したのは、ワンが横たわっていた大きな箱。
……あぁ、そうですね。
どっちにとっても、もう必要ない物ですもんね。
⦅問題ありません。再利用出来ます⦆
そう言うセミナスさんに指示されるまま、再利用方法を宰相さんに伝える。
……ほうほう、なるほど。
どうやらそれなりに希少な金属が使われているようで、分解も出来るようだ。
分解したモノを熱して溶かして分別すれば、充分使えるらしい。
この情報に、宰相さんは大喜び。
なんでも、鍛冶に回せば国宝級の物が、売っても超高額と、色々と幅広い用途のモノらしい。
「これは何か、別の褒賞を用意した方が良いかもしれませんね」
「……だったら」
セミナスさんが何気なく言っていた、地下遺跡に関係しているというメダルを貰った。
俺と宰相さん、Win-Winの関係。
いつか行けると良いな。
⦅まだスケジュールに組み込めるかわかりませんが、覚えておきます⦆
ありがとうございます。
宰相さんとの話が終わったので、視線を元に戻すと……。
「へぇ~……狼の獣人かぁ。名は? ウルルね。可愛いじゃん」
ワンがウルルさんにちょっかいをかけていた。
もしかしてとは思うけど……女好きなのかな?
まだそうだと確定した訳じゃないけど……エイトを造った神々なら、他のにも変な属性を盛り込んでいてもおかしくないので、妙に納得してしまう。
ワンの行動に、インジャオさんはオロオロ、ウルルさんは照れ笑いだ。
エイトは……なんかワンの行動を真似ている。
姉妹仲は良いようだ。
とりあえず、見なかった事にしようかな。
そう思っていると、アドルさんが話しかけてきた。
「それで、アキミチ。今後の事についてだが」
「あぁ、なんかセミナスさんが、次は魔族の国だって」
「……やはり、か」
そう言って、アドルさんはゴルドールさんと視線を合わせ、頷く。
ゴルドールさんも同じように頷いた。
「わかった。準備を進め……恐らく、数日で出発となるだろう」
「わかりました。俺も出来る限りの準備をしておきます」
必要な物があるかどうかは、あとでセミナスさんに確認だな。
そこで一旦話は終わり、宝物庫から出た。




