神様って業が深いんだろうか?
箱の中で横たわっている女性。
目を閉じているので正しくはわからないが、赤い長髪がよく似合う美人だと思う。
ただ……服装がおかしい。
まず、靴。
なんか先が尖っていて、そこで蹴られると刺さりそう。
ズボン。
ゆったり……し過ぎている上に、なんかゴツいベルトを巻き付けている。
上半身。
大きな胸を締め付けるサラシのみ。
下乳とへそが見える。
あと、襟付きローブ。
その襟付きローブの右腕部分に「大魔王軍上等」って書かれている。
ここからは見えないが、もしかしたら左腕部分と背中にも、何か書かれているのかもしれない。
その容姿を簡単に言えば……異世界風、特攻服を着たヤンキー女性。
………………。
………………。
間違いなく、エイトを造った神々が関わっている。
俺はそう確信した。
「……ご主人様。この者はエイトと同種の存在ではないかと推測します」
箱の中を見たエイトがそう言う。
いや、推測じゃなく、俺はもう確信を得ているよ。
見守っていたアドルさんたちも近寄って来て、ほうほうと観察し出した。
……つまり、この女性も「対大魔王軍戦用殲滅……うんたらかんたら」のホムンクルスって事で良いんだよね?
⦅はい。その通りです⦆
つまり、これがセミナスさんの選んだ褒賞?
⦅はい。その通りです⦆
……なんか思っていたのと違う。
セミナスさんが選んだ、という部分ではなく、褒賞、という部分で。
もっとこう、序盤はありがたいけど、中盤に行く前に役立たずになる売れない武器とか、防御力はそれなりに高いけど、なんの追加効果もないから結局装備しなくなる防具とか、結局最後まで、いや最後でも使わない道具とか、その時は嬉しいけど、よくよく考えると後半だったらはした金のような金額しか貰えないってどういう事? みたいな、そこら辺の物だと思っていた。
⦅私がマスターにその程度のどうでもよさそうな物を与えるとでも?⦆
いや、そうは思わないけど。
⦅それに、少々訂正させて頂きます。正確には、そこのヤンキーはおまけです。マスターの好きなようにお使い下さい⦆
好きなようにして良いの?
じゃあ、このまま眠らせて。
⦅私がマスターのためにと選んだ物は、ヤンキーが持っていますので、まずは起こして下さい⦆
やっぱり起こさないといけないのね。
……それじゃあ、どうせアレでしょ?
エイトの時みたいに、起動するのに詠唱が必要なんでしょ?
⦅はい。もしくは、イエス⦆
一緒。
じゃあ、お願いします。
⦅かしこまりました。では、まずは先ほどと同じ文から始まります⦆
大きな箱を開くのと一緒か。
了解。で?
⦅次は、『あぁ~……なんかこう、ヤンキー系が見せる純な愛って良いよね』です⦆
………………。
………………。
本当に、それ?
⦅これまで、私が間違った事を言いましたか?⦆
いや、それはそうだけど……。
セミナスさんにお願いして、この件に関わっている神々の解放を優先して貰おうかな。
で、殴る。
⦅物事には流れというモノがありますので、それを乱すと予測が大きく外れてしまいます⦆
駄目か。
でも、別の意味で神様解放を頑張って続けていこうと思った。
⦅それと、周囲の者たちは別に構わないのですが、詠唱者が途中で別の言葉を発してしまうと失敗になり、また最初からになりますので注意して下さい⦆
まぁ、そんな事は起こらないと思うけど、了解。
……よし、それじゃ、言うか。
の前に、別の事を周囲の人たちに言っておく。
「予め言っておきます。これから言う事は、この女性を目覚めさせる詠唱であって、俺の意思ではありません。誤解しないように………………予め言っておきますが――」
念のため、二回言っておく。
エイトの時にアドルさんたちは居なかったので、変な誤解をされても困る。
……全員頷いたな? ……よし。
「では、『我が心に刻み誓うは、紳士淑女のオリハルコンの掟』……『あぁ~……なんかこう、ヤンキー系が見せる純な愛って良いよね』」
俺とエイト以外の全員が一歩下がった。
ちょっ! 誤解しないようにって言ったでしょ! 二回も!
頷いたんだから、理解したって事じゃないの?
⦅次は、『不器用な愛を全力でぶつけられたい』です⦆
待って! 次に行かないで!
なんか騙された! 頷き詐欺!
このままだと俺の尊厳がなくなりそうだから、まずがこの状況をどうにか――。
「ご主人様の願望は、以上で終わりですか?」
「………………」
うん。俺の願望だなんて、一言も言っていないよね! と危うく言いそうになった。
というか、エイトも頷いていたよね?
くっ……突っ込みたい。
でも、我慢。
まだ言う訳にはいかない。
「……『不器用な愛を全力でぶつけられたい』」
エイトがふんふんと頷く。
納得しなくて良いから。
それに……誰も下がっていない、だと。
そういう願望を持っている、という事だろうか?
……いや、別に知りたくないので、次。
⦅はい。『でも、偶にはこういう女性に組み敷かれたいと思う時がある』です⦆
………………。
………………。
「……『でも、偶にはこういう女性に組み敷かれたいと思う時がある』」
エイト以外の全員が、ザッ! ザッ! と二歩下がる。
ちょっ、今、大股だったよね!
それはズルい!
⦅次は⦆
「まだあるのかよ! ……あっ」
失敗した。
原因は、つい勢いで……。
いや、良いように考えよう。
確かにもう一回最初からになったが、これで誤解を解く事が出来る。
……頑張って解いた……と思う。
「そうですか。違うのですか」
エイトが残念そうに言う。
いや、最初にそう言ったと思うんだけど?
さて、やり直すか。
⦅ちなみにですが、次の『そこから見える下乳は……きっと絶景』と言えていれば終わっていたのですが……⦆
………………大丈夫。
………………大丈夫。
よし、よし。
きっと言える。
もう一度最初から言っていき……言えなかった文を最後に付け足す。
「『そこから見える下乳は……きっと絶景』」
頑張って言い切った。
わかるわかると、皆の優しい笑顔が辛い。
絶対わかっていないヤツだよね、その笑顔。
「エイトの下」
確認しようとするんじゃありません!
エイトの動きをとめようとすると、箱の中から女性の声が響く。
「起動詠唱を確認しました。声紋によるマスター登録をしました。同時にマスターの魔力波形も登録しました。条件オールクリア。『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器・特化型』……『ワン』。起動します……んぁ?」
……んぁ?
最後の何? と思っていると、箱の中で横たわっていた女性が体を起こした。
両腕を上げて伸びをし……キョロキョロと周囲を確認する。
「どこだ? ここ?」
そう言って、俺と目が合い、上から下まで確認してくる。
同時に、女性の顔立ちが発覚。
寝ていた時の顔は美人だったのに、起きたら目付きの悪いジト目に、ギザ歯だった。
「魔力波形からして……テメェがあたいの主か?」
とりあえず、こくりと頷いた。




