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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第四章 一時の再会
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前とは違うから大丈夫

 大魔王、魔王とまともに対抗出来るのは、別の世界から来た俺たちだけだと、槍の神様から教えられた。

 すると、弓の女神様がジッとこちらを見ている事に気付く。


「えっと、何か?」

「………………」


 何かを訴えているような目で見られているのだが、どうしたものか。


⦅必要であれば翻訳を⦆

「あぁ、弓の方はね、君たちの中に弓を使う者が居ないか聞きたいんだよ。もし居るなら、自分が鍛えるつもりなのさ」


 セミナスさんが言う前に、槍の神様がそう言う。


⦅………………チッ。私の言葉を遮るとは……消してしまいましょう⦆


 待って! やめて!

 これから常水を鍛えて貰わないといけないんだから!

 というか、そもそもセミナスさんの声は、俺にしか聞こえていない訳だし、遮らないようにするのは無理があるんじゃない?


⦅……仕方ありません。今回はマスターの懇願に免じて許しましょう。……次はありませんが⦆


 最後に何か呟いたような気がしたけど大丈夫だと思う。

 それよりも弓の女神様の事だ。

 そういえば咲穂が矢を射るとかなんか言っていたような覚えがある。

 確認のために詩夕たちを見ると、頷いていた。


「はい、居ます。咲穂という、僕と同い年の女性ですね」


 詩夕が答える。

 それなら私が教えますと、弓の女神様が頷きを返す。

 ……コミュニケーション大丈夫だろうか?

 ………………でも、咲穂なら大丈夫なような気がする。


 となると、問題が一つ。

 当の咲穂はここに居ないのだ。

 その辺りを見越してか、フィライアさんが言う。


「それでしたら、ラメゼリア王国の無事は確認出来ましたし、私たちはビットル王国に戻りましょうか」


 その言葉に、詩夕たちもそれが最善だと頷いた。


     ◇


 詩夕たちがビットル王国に戻る事になった。

 折角会えたのだが……これも仕方ない。

 互いにやるべき事がある。

 特に詩夕たちは、大魔王、魔王に対抗出来るだけの力を付けるという、新たな目標が出来た。


「……明道は頑張らないの?」

「俺のスキル一覧に『勇者』はないし、そもそも回避防御一択の俺が、大魔王や魔王をどうやって相手取れると?」

「明道ならそれでもどうにかしそうなんだけどなぁ」

「過剰な期待はやめて下さい。出来ても補佐だから」

「多分、それが決め手になるような補佐なんだろうね」


 詩夕はちょっと俺を過大評価し過ぎていると思う。

 常水も頷かない。

 ビットル王国に戻るのは、詩夕、常水、樹さん、フィライアさん、グロリアさんに、追加でオリアナさん、槍の神様、弓の女神様……だけではなく、カノートさんとサーディカさんもビットル王国に向かう事になった。


 これは、カノートさんが槍の神様の鍛錬を受けてみたい、詩夕や常水の鍛錬のお手伝い、という理由だけではなく、もちろんきちんとした理由がある。

 先の混乱の首謀者の一人が、それぞれ担当する国を持っている三人の宰相の内の一人だったのだ。

 しかも、首謀者は本国を担当する宰相。


 直ぐに代わりを用意出来る役職でもないため、今はビットル王国を担当していた宰相が本国も担当しているそうだ。

 その負担を少しでも減らすために、サーディカさんがビットル王国に行って色々行うらしい。

 カノートさんは、その護衛という面もある。

 他にもある目的があるが、それは話が纏まればわかる、という事を、カノートさんから聞いた。


 別に俺に教える必要はないと思うのだが、王都から居なくなるという事で挨拶に来た時に聞かされたのだ。

 ただ、それ以上の詳しい事……たとえばビットル王国に行って何をするか、とかは聞かないでおいた。


 国と国の間で行われる事なんかに関わりたくはない。

 面倒なだけである。

 ただ、もし鍛錬がしたくなったら、カノートさん家の鍛錬場を好きに使って良いと言われる。

 あの老齢の執事さんに話を通しておいてくれるそうだ。

 素直にありがとうございます、とお礼。


 それと、詩夕たちがビットル王国に戻る手段は……馬車になった。

 ………………。

 ………………。


「あれ? 竜で来たんだから、竜で戻るんじゃないの?」

「いやいや、ここに来るついでで乗せて貰っただけだよ。そもそも、誰かの言う事を聞くようなタイプじゃないでしょ」


 詩夕の言う通りである。

 ついでに、王城内にある中庭でなんか練習しているジースくんにも聞いてみた。


「ビットル王国に連れ戻してあげないの?」

「う~ん。そもそも、ついでとアキミチへの義理でここまで乗せてあげただけだからね。それに、俺らのリーダーはDDの兄貴だから、まずはDDの兄貴が動かない事にはね」


 なるほど。

 ならDD……にお願いするのは無理。

 あれこそ、誰かの言う事を聞くとは思えない。

 まぁ、詩夕たちも馬車で戻る事に納得しているようだから、別に良いか。


 ちなみにだが、王城での書類仕事は、本当に翌日には終わっていた。

 あの書類の山で一杯だった部屋の中に、もう書類はない。

 代わりに、武技の神様、商売の神様、弓の女神様が死んだように倒れていて、そんな中、槍の神様だけは元気に屈伸運動をしていたのは……なんとも言えなかった。


「やっ! おはよう!」


 軽い挨拶。

 武技の神様の手元には、「犯人は」と書かれた紙と、商売の神様の手元には「槍の神」と書かれた紙に、弓の女神様の手元には「殺」と書かれた紙があった。

 槍の神様がそれに気付いているかはわからない。


 何故なら、鍛錬のためにそのまま常水のところに向かったからだ。

 ……とりあえず、残された三柱の下に綺麗な花をそっと添えておく。


「「いや、死んでないから!」」

「……」


 元気だった。


 そして、あれよあれよという間に、ビットル王国に戻る準備が整い、出発の日を迎える。

 神様たちはもう居ない。

 さっさとスキル更新の方に行ってしまった。

 槍の神様と弓の女神様も今はそっちの手伝いを行っているが、詩夕たちがビットル王国に戻った時に、呼べば来るそうだ。


 じゃ、俺も一緒にビットル王国に……。


⦅駄目です。私のスケジュール管理によりますと、マスターも予定は一杯ですので⦆


 駄目だった。

 仕方ない。

 わざわざ注意を引く必要もないので、見送りは王城、城門前で行う。


 それぞれが思い思いの人たちと言葉を交わしていく中、俺はもちろん詩夕と常水に声をかける。


「折角会えたのに、また分かれる事になるな」


 そう言うと、詩夕は笑みを浮かべる。


「そうだね。ビットル王国に戻ると決まってから直ぐだったし。……でも、この世界に召喚された時に比べれば、まだマシだよ」

「そうだな」


 常水が詩夕の言葉に同意する。

 もちろん、俺も同じだ。

 あの時はこうして言葉を交わす間もないほどに急だった。

 しかも、安否確認すら出来なかったのだ。


 それに比べれば、まだマシである。


「結局、会えた事で、まだまだお互いにやる事があるってのがわかった。だからこそ、今、俺たちは分かれて行動しなきゃいけない。互いに生き延びるために」


 詩夕と常水が頷く。

 そんな二人を真っ直ぐに見る。


「死ぬなよ。そして、必ず生きてまた会おう」

「もちろん」

「あぁ」


 詩夕、常水と、笑みを浮かべて握手と共にそう約束を交わす。

 大丈夫。俺たちはまた会える。

 だから、今はこれで良い。


「天乃たちにも宜しく言っといて」

「「………………」」


 何故そこで気まずそうな表情を浮かべる?

 解せぬ。

 で、次。


「樹さん」

「おぅ。こっちも頑張るが、明道も頑張れよ」

「はい。ごめんなさい」

「……待て。何故今謝った?」

「いやぁ……なんとなく? まだ増えそうだなって」

「ちょっと王城裏で話し合おうか……」


 連れて行かれる前に、樹さんの傍に居る女性陣に声をかける。


「フィライアさん、グロリアさん、オリアナさん……頑張って!」


 グッと拳を握ってみせる。


「「「任せて!」」」


 グッと拳を握ってみせて応えてくれる。

 空いた手で、樹さんを押さえ込みながら。

 出来ればそのままでお願いします。


「エイトちゃんも頑張って!」

「応援している!」

「いけるいける!」


 フィライアさんたちが、エイトに向かってそう言う。


「はい。全力で取り組みます」


 むんっ! とエイトが拳を握る。

 いつの間にそんな仲に?

 ……何に全力を出すのかは聞かない方が良いと判断した。


 カノートさんとサーディカさんとも、軽くだが挨拶を交わしておく。

 互いの奮闘と再会を願って。


 一通りの挨拶が終われば、出発の時間である。

 詩夕、常水ともう一度挨拶を交わし、馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。

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