俺は頑張ったと思います
リビングアーマー二体を相手にして、色々と試してみた。
といっても、試せる事はそう多くない。
そもそも使える武器も決まっているし、他の武器は特にないのだ。
装備の変更がない以上、出来る事は相手を変える事と相対する人数……組み合わせを変えるくらいである。
槍と弓、相対した感想としては、どちらも同じくらいの強さ。
近付いた距離によって、行動に変化が生まれる。
それと、相対する人数に合わせても行動が変化した。
わかりやすい例が、弓。
詩夕と共に挑んだ時はある程度近付くと連射性が増し、一度に放たれる矢が増えるのだが、俺が一人で挑んだ時、連射性は特に変わらなかったが、近付いても矢の数は増えなかったのだ。
槍の方は……よくわからない。
常水が言うには力と攻撃速度が上がっている……らしいけど、そんな事を感じる余裕が俺にはなかった。
だからといって、一人で挑む方が良いと俺は思わない。
少なくとも、槍に対しては。
弓は人数が増えた分、合わせて矢の数が増えるが、槍が一本なのは変わらない。
つまり……槍に対して二人、弓に対して一人、で挑めば勝てる!
………………。
………………。
無理だった。
時間をかけて槍を追い詰めると、普通に矢を増やして援護射撃してくるようだ。
倒すのは、弓を先にしないといけないようである。
それともう一つ、わかった。
「はぁ……はぁ……向こうのリビングアーマー……はぁ……つまり、無機物……」
「ふぅ……スタミナとか……そういう概念がないって事だよね……」
「………………戦いに時間をかけ過ぎると、こちらが先にスタミナ切れを起こす、か」
常水は余裕そうに見えるけど?
詩夕は俺と一緒で少しバテ気味なので、ちょっと親近感。
スタミナ切れないのを相手にするのは疲れるよね。
一息吐いて、そういう事ならと弓に対して三人で向かう。
………………。
………………。
そりゃ、当然、槍が援護に来るよね。
「た、退避! いや、違う! これは後ろに向かって進むだけ! つまり、前を向いて進む事と同義! 負けた訳じゃない! 俺たちは負けた訳じゃないからな!」
「なんかその言い方、負け犬っぽいよ!」
「急に小物臭い感じを出すな、明道」
なんか注意が入るが、なんとか逃げ切った。
門のところまで戻り、一旦休憩しながら話し合い。
ちょっと結論を急ぎ過ぎた。
そして、これまでの事から方針が決まる。
弓に対して二人、詩夕と常水、槍に対して一人、俺。
俺に攻撃力はないため、弓との早期決着を狙っての組み分けである。
詩夕と常水が弓の相手をしている間、槍の相手を俺がして時間を稼ぐ。
弓を撃破次第、詩夕と常水がこちらに合流して、三人で槍を倒す、という事に決まった。
常水は一人で槍の方とやり合いたいみたいけど、ここは安全策でいく。
カノートさんと存分にやり合えば良いさ。
方針が決まったので、もう少し休んで体力を回復させる。
屋台で色々買っといてよかった。
アイテム袋から飲食類を取り出して、更に休憩の効果を高める。
その間に、気になった事をセミナスさんに尋ねた。
えっと、セミナスさん。
⦅はい。なんでしょうか?⦆
詩夕と常水が居たら成功率が上がったって言っていたけど、それって裏を返せば、俺一人でも成功した場合があったって事だよね?
⦅はい。確率的には非常に稀でしたが、確かに成功していました⦆
………………。
………………。
セミナスさんがそう言うなら本当なんだろうけど、ちょっと信じられない。
あのリビングアーマー二体を相手にして、俺が一人で勝てる要素は一切ないと思うんだけど。
⦅推測なら可能ですが、お聞きしますか?⦆
お願いします。
⦅では……鎧もどき二体のこちらの人数に合わせた動きを考慮しますと、恐らくですが、マスターが一人でここに来た場合、二体が同時に襲いかからなかったのだと思われます⦆
一対一かぁ……。
それでも勝てる気がしないのに、更に二連続とか無理じゃない?
⦅それは間違っていますよ、マスター。一体倒せば、自動的に勝利はこちらのモノです⦆
え? なんで?
⦅一体倒せば神の封印を解く事が出来ますので⦆
あぁ、なるほど。
確かにそうだね。
⦅マスターを守る盾くらいの役割は果たしてくれるでしょう⦆
相変わらず、セミナスさんの神様に対する扱いは酷い。
……まぁ、武技の神様や商売の神様、エイトを造った神たちの事を考えると……うん。気持ちはわからないでもない。
そもそも、ここに封印されている神様は、まともに戦えるのだろうか?
というか、俺が一体でも倒すとか、不可能じゃない?
成功率が低いとはいえ、よく勝てたね、俺。
⦅所詮、鎧もどきといえども、関節部分は脆いでしょうから、そこを狙って極めていったのだと思われます。敵を知った今の私なら、マスターが一人で挑んだ場合はそう指示していましたので。ちなみにですが、マスターが一人で挑んで成功していても、重傷を負っていました⦆
……うん。相当頑張ったんだろうね、俺。
⦅まだ終わっていません⦆
だね。
……よし、もう一勝負……頑張りますか!
休憩を終え、俺たちはこれでケリをつけると気合を入れる。
円を描くように立ち、手を前に出して重ね――。
「絶対勝つぞ~!」
「「おぉー!」」
鼓舞するように拍手。
そして、リビングアーマー二体との戦いを始める。
◇
迫る槍を回避。
俺の場合、一撃でもまともに当たればアウト。
かすりでも駄目だ。
傷を負えば、それだけで動きに支障をきたす事になる。
確実に、丁寧に、慎重に、無傷で回避。
それが理想。
ただ、普通はそんな事無理。
相手の戦力が上なら余計に。
でも、それを可能に出来る存在が、俺には付いている。
⦅次、薙ぎ払いが来るので力強くバックステップ。それでギリギリ回避出来ますが、直ぐに距離を詰めて下さい。距離を開け過ぎますと、狙いが向こうに移ってしまいます⦆
了解っ!
セミナスさんが言ったように、槍を持つリビングアーマーが薙ぎ払いを放ってきたのでギリギリで回避し、直ぐに距離を詰める。
といっても、詰めすぎない。
狙いは俺に向けたまま、余裕を持って対処出来る、適切な距離を保つ。
詩夕と常水が、弓を持つリビングアーマーを倒すまでの辛抱だ。
槍を回避しながら、向こうの様子を窺う。
既にかなり距離を詰め、弓のリビングアーマーから猛攻を受けている。
凄いのは、それでも詩夕と常水は回避したり捌いたりして、無傷のまま進んでいる事だ。
改めて、こんなに強かったのか、詩夕と常水は、と思う。
⦅少々近付き過ぎています。少し離れた距離を保って下さい⦆
おっと、了解。
槍のリビングアーマーと少し距離を取って、そこを維持しながら再び向こうの様子を窺うと、決めにかかっていた。
弓のリビングアーマーが同時に放つ矢が一人三本になっているが、詩夕と常水はものともしていない。
多分、もっと矢の一本一本を高威力にするか、もっともっと数を増やさないと、対抗出来ないのでなないかと思う。
⦅前に出て下さい。槍を持つ鎧もどきが援護に向かわないように、これから積極的に動きます。私の注意を聞き逃さないように⦆
もちろん。信じているよ、セミナスさん。
セミナスさんが居るから、俺は強い相手でも恐れず前に進む事が出来る。
⦅……お任せ下さい。マスターは私が必ず守ってみせます⦆
なんかちょっと喜んでいるような声だった。
……なんで?
意味はわからないが、これからやる事はわかっている。
槍のリビングアーマーが猛攻撃を放ってくるが、セミナスさんの指示を聞きながら、俺は全力で回避行動を続けた。
気まぐれに装備した、腕装着型の小盾が以外に良い仕事をする。
槍の穂先を逸らすのに大いに活躍。
……今のは危なかった。
顔面すれすれを槍の穂先が通ったのだ。
そこで気付いた。
詩夕と常水が弓のリビングアーマーを既に倒していて、なんかこっちの様子を見ていたのだ。
急いで戦線を離れ、二人の下へ。
「ちょっ、見てるだけって酷くない?」
「いや、なんというか……見事としか言えないというか……明道の動きが凄過ぎて……」
「思わず見惚れてしまっていた。……明道に一撃を入れるのは、かなり苦労しそうだ」
「いや、何言ってんのかわかんないけど、とりあえず、さっさと槍のをやってきてよ」
「わかっているよ」
「任せておけ」
そう言って、詩夕から弓のリビングアーマーが提げていた光る玉を渡され、二人が槍のリビングアーマーに向けて進む。
あー、疲れた。
一度動きをとめてしまうと立っているのにも疲労を感じたので、その場に腰を下ろし、のんびりと二人の戦いを見守る。
いざという時は介入、もしくは、神様の封印を解いて介入させるつもりだったけど、二人は危な気なく槍のリビングアーマーを倒した。
決め手をあえて言うのであれば……二人の息の合い過ぎたコンビネーションだろうか。




