高威力って使い勝手が悪い時がある
中に入る。
………………リビングアーマー二体に動きはない。
もう少し近付く。
………………同じく動きはない。
更に近付く。
突然黒い靄を立ち昇らせ、動き出した。
それぞれ槍と弓を俺たちに向けて構える。
そこで一旦足をとめた。
「どうやら、これ以上進むと攻撃が開始されるっぽいな」
「そうみたいだね。となると、今の内に決めておこうか。誰がどっちの相手をするのか」
「……一先ず、様子見も兼ねて、俺に槍を持っている方の相手を一人でやらせてくれないか?」
常水がそう言ってくる。
多分、相手が槍を使うからこそ、自分がどれだけ強くなったのかを確かめてみたいのかもしれない。
……そんな戦闘系の考え方していたっけ?
この世界に染まったのかな?
でも、手探りなのは俺も同じ。
やってみなければわからないのだ。
という訳で、まずは、俺と詩夕が弓を持つリビングアーマーを、常水が槍を持つリビングアーマーを受け持つ事になった。
わかりやすくリビングアーマー二体を挟むように左右にわかれ、タイミングを合わせて前に出る。
予想通りと言うべきか、こちらが前に出るとリビングアーマー二体も対応するように動き出した。
というか、俺と詩夕が相手取る予定のリビングアーマーは弓だけしか持っていない。
それに、よく見ると弓に弦が付いていない事に気付く。
詩夕も気付いたようで「あれ? どういう事?」と目線で訴えてくるので、「さぁ? わかりかねます」と俺も視線で返しておく。
ただ、答えは直ぐにわかった。
弓を持つリビングアーマーが矢を放つように腕を引くと、キラキラと光る弦と輝く矢が現れ……放ってくる。
「「うわっ!」」
突然の事だったが、俺も詩夕もなんとか回避。
多分、魔力で作られた弦と矢みたいなモノかな?
びっくりした、と思って前を向くと、弓を構えたままのリビングアーマーの手元には輝く矢が既にあった。
弓を引く動作は最初だけで、あとはそのままで放てるのかな?
予備動作が一切ないまま、そのまま輝く矢が連続で放たれる。
………………連射機能はずるいと思う。
それでも、所詮は一直線に進むだけだし、連射といっても矢が一本ずつ来るだけなので、余裕で回避する事が出来た。
また、俺か詩夕、前に出ている方に攻撃が集中するので交互に前に出て行き、リビングアーマーとの距離を詰めていく。
ある程度まで近付くと、再び行動が変化した。
構えた時の矢が二本になって、俺と詩夕を同時攻撃。
その上、連射速度が上がり、息を吐かせない感じになる。
狙いも正確で、的確に急所を狙ってくる……かと思えば、急所以外も適度に狙って牽制してくるようになってきた。
小癪な!
回避防御が主体の俺が、そうそう当たる訳にはいかない。
時折セミナスさんの指示が入るので、俺の判断だけで全てを避けるのはまだ無理みたいだけど。
それでも、そのセミナスさんのおかげで、俺はどうにか余裕がある。
詩夕の方が辛い……訳ではないように見えた。
避けるだけではなく、剣で斬ってもいる。
……普通に凄い。
俺もそういう事をしてみたかった。
とりあえず、余裕そうなので今の内に声をかける。
「余裕そうだね、詩夕」
「明道ほどじゃないけどね! これでも鍛えられているから!」
思い返してみれば、詩夕たちの方には、シャインさんも認める弓の名手、グロリアさんが居るのである。
相手が弓に対しての動きについても、色々学んでいるのかもしれない。
「何しろ、最近……咲穂が敵認定したメイドさんを射るようになってね。あっ、ロロナスさんっていうんだけど。そのロロナスさんがね、射られるようになったら、僕たちを盾にするように移動し出したんだ。流れ矢を避けている内に自然とね。ああいう時の咲穂の矢はエグい」
「えっ! 何その話! 俺、初耳なんだけど! というか、あれだけフレンドリーな咲穂に敵認定されるって、一体その人は何をやったの!」
「もちろん、グロリアさんにも弓に対して色々教わったよ」
「今はそういう事を聞いているんじゃない!」
いや、ちょっ!
そういう時じゃないってのはわかっているけど、もっと詳しく!
⦅集中して下さい!⦆
あっ、すみま――。
⦅マスターが集中して考えるのは、他の女の事ではなく、私の事だけにして欲しいとお願いしてみます⦆
こっちもこっちで余裕ですね!
けれど、近付けば近付くほどに連射性が増していき、更に一度に放たれる矢の数が倍になった。
どうやって狙いを付けているのか不思議なほどに的確だ。
これはもう避けてどうにかなるモノじゃない。
先ほどから前に進めていないのがその証拠。
完全に足止めを食らっている。
詩夕の方はまだ少しは余裕がありそうに見えた。
その詩夕と一瞬、目が合う。
わかった、と頷き……タイミングを合わせて後退。
リビングアーマーと距離を開けた分、攻撃の勢いが弱まる。
「で、このまま後退で良いんだよな?」
「そうしよう。ちょっと何かしらの対策を練らないと……無策で突き進むのは不味い気がする」
「同意見」
放たれ続ける矢を避けながら後退していく。
すると、弓を持つリビングアーマーが、突然体ごと向きを変える。
矢が向けられた方向に居るのは……槍を持つリビングアーマーとやり合い中の、常水!
俺と詩夕の距離が開いた事で、常水の方が近くなったからか!
「詩夕!」
「任せて!」
俺は前に、詩夕は常水の方に向かう。
常水に向かって矢が放たれる。
「常水!」
詩夕の叫ぶような声が響き、届いた常水が槍をくるりと回して矢を弾き壊す。
一発は許したけど、次は許さない!
一気に前に出た事で、弓を持つリビングアーマーの狙いが再び俺に切り替わった。
余裕を持てるところで足をとめ、矢を回避し続ける。
視線をもう一方に向ければ、詩夕が剣でリビングアーマーの槍を弾き、常水と共に後退するところだった。
向こうも視線をこちらに向け、タイミングを合わせて一斉に後退。
ある程度距離が離れれば、リビングアーマーは二体共攻勢をやめて、こちらに向けて構えたまま動きをとめた。
こちらも一度合流。
門のところまで下がる。
「……ふぅ」
一息吐いたところで、常水が感謝の言葉を口にする。
「先ほどは助かった。ありがとう。あの注意がなければ、食らっていたかもしれない」
詩夕が笑みを浮かべながら答える。
「良いよ、良いよ。寧ろ、よく反応してくれたって感じだったし。それにしても、あの槍のリビングアーマー、そんなに強いの?」
「さすがにカノートさんほどではないが、今の俺では、少しでも気を抜けば一気にやられかねないな」
「……一人で勝てそうか?」
そう常水に尋ねた。
常水は少し考えたあとに答える。
「……時間はかかるが、恐らく勝てる」
「そっか。となると、勝ち筋の一つとして、槍のリビングアーマーは常水に任せた場合、問題なのは弓の方か」
「………………あの連射性はないよね」
「………………矢が増えるのもね」
詩夕と一緒に、うんうんと唸る。
さて、どうしたモノか。
武技で防げるのも僅かな時間だろうし………………ん?
「詩夕、常水。なんかこの局面をどうにか出来そうな武技はないの?」
そう尋ねると、二人は苦笑いを浮かべた。
「いや、特殊武技ってのが使えるんだけど……」
「大規模破壊級だからか、使い勝手が悪いんだ……」
「だからもしここで使った場合……」
「恐らく、建物ごと埋められてしまう」
使えねー……じゃなくて。
いや、特殊武技ってのも気になるけど、それはあとだ。
「いや、だったら普通の武技の方で」
「「………………」」
いきなり二人が黙った。
「………………え? もしかして……普通の、使えない? というか修得してない?」
詩夕と常水は、俺から視線を逸らして小さく頷いた。
えぇ~、何それ……普通は、普通の方を覚えて特殊とかじゃないの?
順番逆じゃない?
「まぁ、アレだよね。そう結論を急がなくても良いんじゃない?」
「そうだな。一番効果的な行動を探るためにも、色々と試してみるべきだ」
……なんか誤魔化そうとしているけど、二人の言う事ももっともだ。
まずは、リビングアーマー二体をどうするかを考えていこう。




