これからやるべき事をやります
セミナスさんからの指示は、詩夕、常水と共に、とある場所に行って欲しい、という事だった。
詩夕と常水に大丈夫か? と尋ねると、大丈夫だと返答。
二人も、前にそれらしい事を言ってから、いつでもいけるように調整していたそうだ。
それと、準備も怠らないように、という注意が飛んできたので、アドルさんたちからいくつか盾を預かり、ポーション類も買い揃えて、アイテム袋の中に仕舞っておく。
……武器は?
⦅マスターの主体は回避防御です。下手に持つよりかは、回避防御に専念した方が得策です⦆
あっても活かせないのなら仕方ない。
向かうのはそれなりに遠い場所らしいので、移動手段は竜。
駄目元で交渉……大丈夫だった。
俺と竜たちの絆は強い。
DDは来ないけど。
ジースくんと他二頭だ。
エイトも来るので、俺と共にジースくんの背に乗る。
他二頭に対して、ジースくんが勝ち誇っていた。
仲良くしてね。
樹さんも連れて行った方が良いような気がするのだが、鍛錬とフィライアさんたちとのデートで忙しそうだ。
これ以上の予定を組み込むのは、酷というモノだろう。
「いやいや、そんな事はないぞ。好きなだけ組み込んでくれ」
「……じゃあ、説得して下さい」
指し示す先には、満面の笑みを浮かべるフィライアさんたち。
大人しく連れて行かれる樹さん。
敬礼して見送った。
まぁ、セミナスさんも、詩夕と常水が居れば大丈夫だと言うので問題はどこにもない。
アドルさんたちにも一旦出て行く事を伝え、ジースくんたちの背に乗って移動。
それなりの時間、空を飛んだ。
セミナスさんが言うのは、馬車でも数日はかかる場所だそうだ。
空を飛ぶって、やっぱり便利。
目的の場所は、近付けば直ぐにわかった。
小高い山の中腹に、黒い神殿が見える。
⦅前回同様、あの中で私の力は著しく低下します。また、汎用型もこの世界の物で造られたため、中に入る事は出来ません。充分以上の警戒でお願いします⦆
セミナスさんから本気の警告が入る。
黒い神殿近くに降ろして貰う。
ジースくんたちも試しにと入ろうとしたが、やはり結界で遮断された。
エイトも同じように試したが、セミナスさんが言っていたように遮断されてしまう。
「………………」
拳を握って本気で悔しそうな表情をしている。
落ち着いて、落ち着いて。
エイトとジースくんたちは、この場で待っていてくれるそうだ。
いってきますと声をかけ、俺、詩夕、常水は、黒い神殿に向かった。
◇
黒い神殿の中は、これといって変なモノはなかった。
なんというか……最初に入った黒い神殿に似ている。
下に向かう階段があるだけなので、罠がないかを一応確認しながら進んでいく。
「こんなところに神様が封印されているんだ」
「材質は普通に石材のようだが……どこか息苦しさを覚えるのは黒色のせいか、それともそういう雰囲気だからか……もしくは作り手が関係している可能性も」
詩夕と常水は初回という事もあり、興味深そうに辺りをキョロキョロ。
随分と余裕そうに見える。
……ふっ。それにしても、もっと落ち着けよ。
俺なんて、ほら、もう三回目だから、慣れたモンさ。
「なんか僕たちを見て、ちょっと勝ち誇っているように見えない?」
「初めてである俺たちを前にして、余裕を見せたいのかもしれない。いや、初めての俺たちが居るからこその余裕か?」
「なるほど。じゃあ、ここからは別行動にしようか?」
やめて!
的確に読むのもそうだけど、こんなところで一人にしないで!
あれだよ? 震えちゃうから!
一人だとガクブルだからね!
「というか、一本道なのに分かれる必要性がどこにある!」
「気付いちゃったか」
「つまり、分かれ道があれば分かれると?」
「分かれ道があったらね! でもアレだよ? 分かれるっていっても、一人で行動するのは詩夕か常水のどちらかで、一人は俺と組んで貰うから!」
「つまり、一人になるのは嫌だ、と」
「しかし、明道には既にセミナスさんが居ると思うのだが?」
⦅今、マスターの友が素晴らしい事を言いました。マスターには既に私が居る、と。つまり、周囲からも認められた関係だという事ですね⦆
くっ、味方が居ない。
とりあえず、常水が言った事と、セミナスさんの言っている事は、多分意味が違うだろうから否定したい。
そこで思い当たる。
ここは、俺たち以外は誰も入れない場所……つまり、証言さえ合わせれば完全犯罪が……。
「あっ、なんか怯えた目になった」
「少しからかい過ぎたかもしれない」
そこから急に、詩夕と常水が俺を甘やかし始めた。
その程度でほだされる俺じゃない!
なんて茶番をしている間に、一本道だった地下通路の奥に辿り着く。
罠は特になかった。
奥にあったのは、門。
この黒い神殿内の造り……一回目と同じような気がする。
……という事は、門の向こうで起こる事は、戦闘の可能性が大。
………………。
………………。
「よし。何もなかった。引き返そう」
「いや、あるよ! 門があるよ!」
「なるほど。明道にとっては嫌な流れかもしれないんだな?」
常水、正解。
でもまぁ、実際に中に入ってみない事にはわからないので、音を立てないようにゆっくりと扉を開けて、こっそりと中の様子を窺う。
そこそこ広い部屋。
特に装飾もなく、他の出入り口はなさそう。
そして、部屋の中央に……ごつい全身鎧が二つ並んでいて、それぞれ槍と弓を持っていた。
特徴的なのは、二つ共に光る玉を首からぶら下げているという事。
光る玉があるという事は、それに神様が封じられているから………………状況的に考えて、あのごつい全身鎧が動くのかな?
⦅恐らく、動く鎧と呼ばれる類のモノと思われます⦆
つまり、中に入ると襲いかかって来るから、撃退しないと光の玉が取れないと?
⦅そうなりますね⦆
………………。
………………。
仕方ない。
ここまで来れば覚悟を固めるか。
詩夕と常水に、得た情報を伝えて共有。
「なので、まずはそのリビングアーマー二体をどうにかしないといけなくなると思う」
「本気の戦闘系だね。あとは……」
「実際にやってみないと、どうにもならないな。対策の練りようもない」
まぁ、そうなるよね。
このままここで考えていても答えは出ない。
やり合ってみないと、強さもわからない訳だし。
「でも、一つだけ決めておこう。いけそうならそのまま……駄目そうなら一旦下がる」
「……そもそも、中に入って下がる事って出来るの?」
詩夕が小さく手を上げて聞いてくる。
「出来る、と思う。これも試してみない事にはわからないけど、少なくとも、最初の戦いの時は下がる事が出来た。それでアドルさんたちと色々相談して……どうにか勝てたんだ」
「なるほど。確かに、初見でどうにかしようとするのはやめた方が良いかもしれないな。仮にも、神様を封じている光る玉を守らせるために居るんだ。それ相応の戦力を有していると考えるべきか」
常水の言葉に、俺はその通りだと頷く。
そして、軽く準備運動をし、詩夕は剣を、常水は槍を持つ。
………………。
………………。
無手ってビジュアル的にアレじゃない?
なんというか、こう……本当の意味で強者が無手だと様になるんだけど、そうじゃないのが無手って相手を舐めているというか、イキっているように見えなくもなくない?
……よし。
アドルさんたちから預かったいくつかの盾の中で、腕に装着するタイプの小型盾があったので、とりあえず装着しておいた。
うん。動きの邪魔にならないし、ビジュアル面でもクリアした……はず。
準備が終わり、俺たちは円を描くように立ち、手を前に出して重ね合う。
「絶対勝つぞ~」
「「おぉー!」」
拍手をして鼓舞。
勢いを保ったまま、俺たちは扉を開けて中に入った。




