成長著し過ぎないですか?
早朝。まだ陽も昇っていないので薄暗い。
もう少し寝ていたかったのに、何故か詩夕と常水に連れ出される。
……あれ? エイトは良いの?
もう準備を終えている?
そっか……なんの準備?
答えてはくれなかったが、今から見せたいモノがある、とだけ言われて連れて行かれた場所は、背景に王城が見える広場。
なんかこう、野外ステージとかがあれば、利用者が多そうな感じ。
何故かポツンと置かれている椅子に座らされ、詩夕と常水は後ろに待機。
……座ってから気付いた。
なんか少し離れた位置に三人居る。
薄暗いので、背丈くらいしか見えない。
左、普通。
真ん中、小さい。
右、大きい。
……なんか、ポーズを取っているように見えなくもない。
誰だろう……と思っていると、王城の背後から陽が昇り、漏れた陽の光が広場を照らす。
照らされた事で三人が誰かわかった。
左、アドルさん。
真ん中、エイト。
右、DD(人の姿)。
何をするかもわかった。
同時に、軽快な音楽が鳴り響き始め……ダンスバトルが始まる。
アドルさん対DD、再び。
因縁の対決……かどうかはわからない。
音楽はもちろんジースくんたちだろう。
やっている事というか動きは、前回と同じように見える。
鳴り響いている音楽も同じだし。
エイトの立ち位置は……審判かな?
ただ、なんというか、これで終わりじゃない感が強い。
何故かそう思える。
前と違って余裕そうというか、楽しんでいるように見えるからかもしれない。
事実、それは正しかった。
曲調が段々と早く激しくなり、それに合わせてアドルさんとDDの動きも激しいモノに。
すると、広場奥の左右から、大勢の人が出てくる。
老若男女問わず、騎士や兵士、貴族っぽい人、冒険者っぽい人も交ざっているので、統一性はない。
今、この王都に居る人たちって感じ。
……というか、よく見ると、インジャオさんとウルルさんだけじゃなく、フィライアさんとグロリアさん、ゴルドールさんやサーディカさん、カノートさんだけじゃなく、ドンラグ一家にギルドマスターも交じっている。
何やってんの、この人たち。
現れた大勢の人は、それぞれが思い思いにアドルさん、もしくはDDの後ろに陣取っていく。
……オーディエンスかな?
なんか盛り上がっているというか、応援しているように見えるし。
と思って見ていたら、アドルさんとDDがポーズを決めて動きをとめる。
音楽も合わせてとまり、オーディエンスも静かに。
これで終わり? ……ではなかった。
チッチッチッ、とタイミングを計るようにスティックを叩き合う音が鳴り、一斉に新たな音楽が始まる。
それは、アップテンポが激しいのは変わらないが、これまでとは違って、奏でる音が増えた事で厚みが増したような気がした。
元の世界の音楽に近付いたような感じ。
おぉ! と驚くと共に、ダンスバトルも再び始まる。
ただ、先ほどとは明らかに違う点がある。
アドルさんとDDのダンスは、先ほどまでのような激しさはなくなっているが、代わりにテーマのようなモノが表現されているように見えた。
アドルさんは、スマートに。
DDは、パワフルに。
また、それぞれのオーディエンスが、アドルさんとDDのダンスの動きと全く同じ、シンクロダンスを踊り出した。
なんというか、スマートなダンスのアドル軍 対 パワフルなダンスのDD団という構図に見える。
曲に合わせて互いのダンスを見せ合い始めたのだが……ミスがない。
細かい部分や奥の方に居る人とかはわからないが、俺の位置から見えている範囲内で、ミスっている人は見当たらなかった。
段々と曲が盛り上がっていき、ダンスも少し激しくなると、遂に全員が一斉に踊り出す。
単純に凄くて迫力がある。
曲は盛り上がりが最高潮に達すると終わり、合わせて全員がピタッと動きをとめた。
アドルさんとDDは、腕相撲をする時のように手を組んでとまっている。
………………喧嘩後の和解?
戦って友情が芽生えた的な?
これで終わりかな? と腰を上げようとした瞬間、再び曲が流れ始める。
今度は、全員でシンクロダンス。
一体感が凄い。
そのまま見ていると、エイトが前に出て……ソロパート!
お前もか、エイト!
一体いつの間に……って、今度は樹さんのソロ!
やっぱり居たのね。
呆れていると、俺の両隣から前に出て行く二人が居た。
詩夕と常水である。
そうくるだろうなって思っていた。
詩夕と常水のそれぞれのソロが終わると、アドルさんとDDが、甘い甘いとでも言うように、チッチッチッと指を振りながら最前面に。
この二人のダンスは、他とは一線を画した、正に圧巻の一言。
そして、再び全員でシンクロダンスを行い、フィニッシュ。
ポーズを決めると同時に、どこからか紙吹雪が舞ってきた。
見終わってから気付く。
最初は二人で戦っていたが、仲間が増えて大きくなり、最後は仲良くなって一つに……みたいな物語かな?
………………ストーリー性を盛り込んできたの?
ダンスや音楽のレベルが上がっただけじゃなく、それ以外にも力を入れ始めたのだろうか?
ただ躍るだけじゃなく、シチュエーションにもこだわりを持つように?
……DDやジースくんたちは、一体何を目指しているのだろう。
トータルマネジメント的な何か?
意味がわから、ちょっと待って。
なんでポーズを決めたまま動かないの?
動く気配が一切ない。
……えぇと、もしかして、俺の反応待ち、なのかな?
………………。
………………。
「ブ、ブラボー……」
パチパチと乾いた拍手もしておく。
なんかちょっと衝撃の方が強過ぎて、上手く反応が出来ない。
それでも、間違っていなかったようだ。
『YEAH~!』
一斉に歓声が上がり、口笛が鳴り響き、誰彼構わず手を叩き合い出す。
………………。
………………。
あの、踊ってないけど、俺もそっちに行った方が良いかな?
拍手の音なんてもう聞こえてないだろうし、俺の存在も忘れてない?
なんかこう一人だけ観客に回ると、疎外感が半端ないんだけど……。
◇
基本、王城でゆっくり目覚めていた俺は知らなかったのだが、少し前から一日の始まりにダンス、を行っていたらしい。
エルフの里のよう、え? ビットル王国もなの?
……竜というか、DDやジースくんたちの影響力が凄まじいな。
それで、日々上達していくダンスを披露したくなり……今回の事が起こった、と。
ソロパートがあった、詩夕、常水、樹さん、エイト、アドルさん、DDが、主導で動いたそうだ。
いや、それは別に構わない。
問題なのはどうして観客を俺一人にしたか、なのだが、今回のはリハーサル、もしくはチェックのつもりだったようだ。
なので、色んな人からどうだったと問われ、答えていくのが辛かった。
そういう事は事前に言ってくれないと困る。
全員を全員見ていた訳じゃないんだからさ。
今度は、沈んでいく夕日をバックにして、王都内の別の場所で行うらしい。
いや、だったら俺も交ぜてよ。
疎外感が凄かったんだから。
「練習時間は、今日みたいな早朝だけど大丈夫?」
じゃあ、大丈夫です。
起きれません、というか、起きません。
夕方の公演を楽しみにしています。




