神様復活!
………………。
………………何でミノタウロスの下から人の手が?
え? というか、ちょっと怖いんですけど?
ホラーなんですけど。
「すみませ~ん! ほんと、誰か居ないんですか~?」
飛び出ている手がぶんぶんと振られる。
え~と……とりあえず引っ張り出した方が良いかな?
そう思って、飛び出ている手を掴む。
「あぁ、すみません。今、引っ張り出しますね」
「助かった。すみません。宜しくお願いします。ほんと、このまま放置されて、存在が忘れられるのかと思って……」
何やらブツブツと言っているが、その間に引き摺り出していく。
正直、もうほとんど体に力が入らないが、それでも頑張った。
なけなしの力を振り絞っていくと、徐々にその姿を現していく。
足先まで引っ張り出すと、その人は立ち上がって体に付いている埃を払い、片手を上げてニカッと笑みを向けてきた。
「いや~、ほんと助かったよ! ありがとう」
そう言った人は、自分の上に乗っていたミノタウロスの死体を見て、「うわっ!」と驚く。
俺も驚いていた。
その人物は、白髪白目の可愛らしい少年なのだが、肌白く、服装も白のTシャツ短パンと、全体的に白い。
それに、感じる雰囲気が何というか……人間っぽくないというか……何思っているんだろう。
見た目は、人そのものなのに。
「僕って見た目通りの非力だからさ。こんな重いのが上にあったら、もう身動き取れないんだよね~」
「は、はぁ……」
親しみやすい笑顔を向けてくるが、正直誰だろうという困惑が先に来る。
それがわかったのか、白い少年が思い出すように手を打つ。
「あぁ、ごめんごめん。僕が誰だかわからないよね。それと、アキミチくんだよね?」
「え? どうして俺の名前を?」
「どうしてって、予言のから聞いていたからだよ。僕を封印から解放してくれるのは、アキミチって名前の子だって」
「予言の? ……という事は」
「ども! 僕は『武技』の神だよ」
………………。
………………。
「かみ?」
「神」
「……えぇと、俺が解放した?」
「そう」
「……記憶にないんですけど」
「え?」
「え?」
武技の神と名乗る少年と、揃って首を傾げる。
今度は少年が困惑しながら尋ねてきた。
「えぇと、何かこれぐらいの、光る玉を壊さなかった?」
少年が両手を使って、大きさを示すように玉を作る。
………………。
………………あぁ! そういえば、ミノタウロスが首から下げていたヤツ!
合点が得た俺は、ポンと手を打つ。
「ミノタウロスが倒れた時に壊れたのか」
「なるほど。だから僕の上に牛の魔物が居たのか」
揃って、うんうんと頷く。
というか、そんな簡単に壊れるモノだったのか、それともミノタウロスを倒したから壊れたのか、その判断が付かない。
まぁ、今わからない事を考えるのはあとにしよう。
どうせ、他のも俺が壊すようだから、その時に考えれば良いし。
………………。
………………ちょっと待って。
つまり……この目の前の少年は………………本当にこの世界の神様?
………………。
「ははぁ~!」
俺は即座に平伏した。
「いやいやいやいや、平伏なんてしなくて良いから! 寧ろ、僕はこうしてアキミチくんに助けられて感謝しかないから! それに、これから共に大魔王軍と戦う仲間なんだから、そういうのはなし! ほら、立ち上がって、ねっ!」
「あっ、どうも。すみません」
「いえいえ」
少年……武技の神様に立たせて貰う。
「それじゃ、まずはコレを渡しておくね。予言のから預かっていたんだ」
そう言って、武技の神様がどこからか小さな光る玉を取り出し、俺の胸に押し当てる。
すると、吸い込まれるように消えていった。
「今のは?」
「予言のが、君に必要だと色んな神から助力を得て作った、新しいスキルだよ。今は体に馴染んでいる最中だから、ピンと来ないかもしれない。あとでどんなのかわかるよ」
「え? どんなのかわからないんですか?」
「うん。詳細は聞いてない。渡された時は結構切羽詰まっていたからね。でも、予言のが言うには、アキミチくんがこの世界で生きていくために必要らしいよ」
なるほど。
……何かを用意してくれたのは嬉しいが、出来れば最初からにして欲しかったと思わずにはいられない。
でも、心の中でありがとうと呟いておく。
「それと、アキミチくんの得たスキルも更新しておくね。武技の僕じゃ補正は出来ないけど、それぐらいなら出来るから」
「ありがとうございます」
よぉし! これでどんなスキルを得ているかわかるぞ!
ちょっとウキウキしてしまう。
「……って、ウキウキしている場合じゃない! 武技の神様! 親友たちが!」
「大丈夫。予言のが言った通りなら間に合うから。でも、予言のからのメッセージを伝えておくね」
そこで、武技の神様が初めて真剣な表情を見せる。
俺がゴクッと喉を鳴らす。
「……なんですか?」
「未来は流動的ですので、ここから先、この世界がどうなるかは、アキミチくんとその友達次第です。勝手に呼んで、勝手なお願いですけど、どうかこの世界を宜しくお願い致します、だって」
………………。
………………。
「一つ、良いですか?」
「ん? なんだい?」
「今の声真似? で良いのかな? 随分と高い声でしたけど、予言の神様は女性なんですか?」
「うん。そうだよ」
そうなんだ。
ただ、その声真似が上手いかどうかの判断が出来ない。
予言の神様知らないし。
「……でもまぁ、答えとしては、親友たちの性格を考えれば、きっとこの世界を放っておかないと思うから、俺はその助けをするだけ。また会いたいから」
「うん、大丈夫。きっとまた会えるよ」
武技の神様と一緒に笑みを浮かべる。
そうだ。
親友たちと無事に会うために、俺は頑張るだけである。
「それじゃ、僕はそろそろその友達のところに向かわないと」
宜しくお願いしますと頭を下げた。
頭を上げると、武技の神様が任せてよと頷き、手を振り出す。
「暫くは世界中の人のスキルを更新しないといけないから、会えなくなると思う。でも、また会えるはずだから、その時は宜しくね~」
「はい。こちらこそ」
そうして笑みを浮かべながら、武技の神様の姿が段々と薄くなっていき、この場から姿を消した。
同時に、俺の体から一気に力がなくなり、その場にへたり込む。
親友たちの方は、武技の神様に任せるしかない。
きっと大丈夫。
俺はやり遂げたんだ。
少しだけ休んだあと、ここから出るために、俺はゆっくりと外へと向かう。
いつか親友たちと会える日を願って。
……あっ、俺もこっちに来ているって伝えて貰えば良かった。




