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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第一章 始まりの始まり
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ミノタウロスとの戦い

「グオオオオオッ!」


 ミノタウロスが叫びながら、斧を振り下ろしてくる。

 俺は焦らず冷静に、体の半分くらいが隠れそうな大きな盾を両手で構えて、受け止めた。

 衝撃で体ごと吹き飛びそうになるが、その前に自らも後方へと跳ぶ事で威力を緩和させる。


 この技術は、インジャオさんに教わった。

 いや、これまでのインジャオさんとの鍛錬がなければ、こうして動く事も出来なかったと思うので、心の中で感謝しておく。

 それでもかなり跳ばされるが、俺は直ぐに盾を構え直す。


「おいおい、そんなモノか? ミノタウロスってのも大した事ないな!」

「グワオオオッ!」


 俺の安い挑発にのって、ミノタウロスが激昂する。

 言葉が通じているとは思えないので、多分雰囲気的に察したんだと思う。

 先程の衝撃によって若干痺れる両手で、盾の持ち手をしっかりと握り締め、ミノタウロスの攻撃の瞬間を見極める。

 横薙ぎに振るわれる斧を受け止め、そのまま弾き飛ばされた。

 即座に立て直し、もう一度……何度でも来い! と盾を構える。


 この作戦は簡単だ。

 逃げ回るのではなく、動かず、ミノタウロスの攻撃を耐えて、耐えて、耐え続けて、体力を削るのと同時に、攻撃手段を奪っていくつもりである。

 要は、俺の根気次第。

 力が足りないなら、根性である。


 最初に狙うのは、斧。

 俺を簡単に両断出来そうな斧を、強固な盾で受け続け、最終的に破壊する事が今の目的だ。

 いや、だって、リーチあるし……一発アウトだし……最も危険だからね。

 ちなみに、この強固な盾の提供は、もちろんアドルさん達である。

 持っている盾の中で、一番固いのを貸して貰った。

 というか、他にも色々、物語の終盤とかに手に入りそうな一級品の武具が用意されている。


 くれは……しないと思う。

 一応、この盾もインジャオさんが使用する時用なので。

 ………………。

 ………………お願いしたらくれないかな?

 ………………いやいや、待て待て。

 よく考えろ、俺。


 こんな大きな盾、持って歩くだけで疲れる事間違いなし。

 こうして移動の必要がない場面であれば問題無いけど、普段から持ち歩いていたくない。

 ………………やっぱ返そう。


 そもそも、この戦いで壊れるかもしれないし、そうなったら弁償案件だ。

 ………………持ち合わせありません。

 居るかどうかわからないが、奴隷に向かってまっしぐらである。

 ……よし、壊さないように気を付けよう。


「グワアアアッ!」


 ミノタウロスの叫び声で思考が戻り、迫る斧をギリギリで防いで飛ばされる。

 今のは危なかった。

 集中……集中……。

 余計な事を考えないようにし、今だけはこの戦いに集中していく……。


 そして、斧の破壊だけを目的に行動する。

 耐久度は盾の方が高そうなので、俺がミスして一発アウトしなければ、先に壊れるのは斧の方だろう。

 ただ、最初の作戦のように、体力はミノタウロスの方が圧倒的に上なのだ。


 アドルさんたちの指示で、ほんの僅かでも危険を感じたり、盾を持つ両手に不安を覚えたら戻って来いと言われているので、適度に戻って休憩を挟んでいく。


 休憩時間は、インジャオさんが汗を拭いてくれたり、ウルルさんがマッサージしてくれたりと、至れり尽くせりである。

 ……あぁ、駄目になりそう。


「……昇天しそうな顔だな」


 アドルさんからの呆れた目を受け流しつつ、中に液体の入った小瓶を手渡される。


「これは?」

「回復薬だ。傷はもちろんだが、体力も若干回復するから飲んでおけ」

「ありがとう」


 感謝の言葉を述べ、一気に煽る。

 ………………。


「……ほんのり甘くて美味しい」


 例えるなら、牛乳っぽい。


「何だ? 不満気な表情だが、不味いとでも思っていたのか?」

「いやだって、こういうのは不味いのが基本でしょ? 傷を回復出来るのは良いが、不味いのだけが難点だ、とか何とか言っていて、そこを俺や親友達がババ~ン! と美味しい回復薬を作る……という感じになるんじゃないの?」

「何を期待していたのかは知らないが、よく考えてみろ。この世界は大魔王軍によって危機的状況なんだぞ。不味い回復薬なんか使用して、士気が下がったら目も当てられない」


 ……言われてみれば、その通りだ。

 何事も美味しいに越した事はないという事だな。

 というか、美味しいからこそ、こうして安らかな休憩が取れる訳で………………美味しい回復薬を作った人に感謝しておこう。

 これで頑張れます、と。


「ちなみに、先ほど渡した『ミルク味』の他にも、『リンゴ味』と『オレンジ味』があるから、好きなのを選べば良い。ちなみに、『イチゴ味』や『マスカット味』も存在はしているが、今は時期的に手に入らないから諦めろ」


 ジュースかっ!

 いや、確かにそんな感じだったけど。

 この世界はこんな感じなのだと思う事にして、考える事を放棄した。

 とりあえず、今はミノタウロスに集中である。


 そうして、何度も何度も挑み、何度も休憩を取りながらも、決して諦めずに挑んでいく。

 陽が落ち、夜になろうとも、やる事は変わらない。

 もう何度目か数えるにも億劫になった頃、ミノタウロスにも疲れが見え始め、動きも悪くなっていく。

 そんな状態では満足に斧を振るう事も出来なくなり、雑な大振りが振るわれた瞬間、俺は力を振り絞って盾を前に出す。


 盾と斧がぶつかる。


 バキィンッ! という音と共に……斧が砕けた。


「グオッ!」


 ミノタウロスが焦りと驚きの声を上げるが、俺は喜びそうな心を必死に抑えて集中する。

 まだ武器しか破壊していない。

 あっちも疲れてはいるが、それは俺も同様。

 寧ろ、俺の方が疲れているだろうし、身体能力の差は変わらないのだ。

 だからこそ、集中を切らしちゃいけない。


「グオオオオオオオオオオッ!」


 ミノタウロスが怒りの咆哮と共に襲いかかってくる。

 ただし、武器はなくなったので、肉体による乱打だ。

 それでも、俺のやる事は変わらない。

 地力じゃ勝てないし、装備品頼りの戦いだけど、今度はその肉体を破壊してやる!


 そして、ミノタウロスの両手足から血が滴り落ちるようになったのは、陽が昇り始める頃だった。


「はぁー……はぁー……はぁー……」


 ただ、俺も既に限界が近く、荒い呼吸が一向に落ち着かない。


「良いか。アキミチは既に限界が近い。動けている方が不思議なくらいに」

「期限は昼までと曖昧ですし、決めるなら、次という訳ですね」

「もうひと踏ん張りですよ。頑張って下さい」


 アドルさん達の言葉に答える余力も無い。

 今は力を少しでも取り戻すため、体を休ませないと。


「良いか? 聞いた限りだと、ミノタウロスの方も満身創痍なのは間違いない。決めるなら一撃……頭部を狙え。ただ、体格が違い過ぎるから」

「策を授けます」


 そうして、アドルさんとインジャオさんから策を貰い、ある程度動けるようになった事を確認すると、再度神殿地下へと向かう。

 今度は、盾だけではなく、長剣を腰に下げて。


 そして、ミノタウロスと最後の対峙。

 俺が死ぬか、ミノタウロスが死ぬか、そのどちらかである。


「いくぞっ!」

「グオオオオオッ!」


 俺のかけ声に、ミノタウロスが反応して襲いかかってきた。

 向こうも思うところがあるのか、最初から全開で俺を殺しにきている。

 既に傷付いている両手足が更に傷付こうが、お構いなしだ。

 それでも俺は耐える……その時が来るまで。


 一体どれ程の時間が経ったのかわからない。

 数秒か……数分か……数時間か……。

 それでも、俺は耐え続けた。

 そして、その時が来る。


「グゥッ!」


 傷付いた両手足からの痛みによって、ミノタウロスが少し怯む。

 そこを狙って、俺は盾を大きく振り上げ、一気に振り下ろす。

 振り下ろした場所は、ミノタウロスの足先。

 そこに盾が突き刺さる。

 身を裂く痛みに、ミノタウロスが片膝をついた。

 なけなしの力をそこで振り絞る。

 突き刺さった盾を足場にしてミノタウロスの頭上へと飛び上がり、鞘から長剣を抜いて両手で持つ。

 そのままミノタウロスの頭部へ、思いっ切り突き刺した。


「ギャグワアアアアアッ!」


 断末魔のような叫び声を上げて、ミノタウロスが暴れながら前のめりに倒れる。

 その際に拳が当たり、俺は壁まで吹っ飛ばされた。

 ……まだだ……気を失うな。

 痛む体を我慢して、壁を支えにゆっくりと起き上がる。

 閉じそうになる目に力を入れて開き、ミノタウロスへと視線を向けた。


「………………」


 ……ミノタウロスは全く動かない。

 ゆっくりと近付き、体を揺すって起きないかを確認した。

 ………………。

 反応がない。既に事切れている。

 沸々と、勝利を実感していく。


「……う……うおおおおおっ!」


 俺は勝利の雄叫びを上げた。











「すいませ~ん! 何か上が重くて出られないんだけど! 誰か居るなら手伝ってくれない?」


 声が聞こえた方へと視線を向ければ、ミノタウロスの下から人の手が出ていた。

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