どうやら問題ないっぽい
結果、オリアナさんの今後は、樹さんと行動を共にする事になった。
そこでお互いをよく知ってから、結論を出す、という事らしい。
フィライアさんとグロリアさんも同様なんだそうだ。
とりあえず、俺、詩夕、常水で、ブーブーと樹さんにブーイングを送っておく。
でも、よくよく考えてみると、直ぐに答えを出せないのもわかる。
今は大魔王軍との戦いを優先しているというのもあるだろうが、関係を築くという事は、元の世界に戻れる時が来ても、この世界に残る選択をする、という事を示しているのだ。
樹さんは、まだそこが決まっていないのだろう。
……俺も、そこら辺は決めておかないとな。
真面目な事を考えていると、直ぐ寝た。
◇
翌日。
早速、冒険者ギルドに向かう。
薬草採取の報告に行くだけなので、連れはエイトだけ。
詩夕と常水は、カノートさん家で鍛錬だ。
「道案内はエイトに任せて下さい」
「いや、昨日、冒険者ギルドは、王城から続く大通り沿いってわかったから、必要ないでしょ。迷う要素が一切ありません」
そう言ったのに、何故か疑いの目を向けられる。
納得いかない。
なら、無事に冒険者ギルドに辿り着けば、納得してくれるだろう。
「よし、行くぞ!」
俺が先導して行く。
………………。
………………。
「この大通り沿いで良いんだよね?」
「ご主人様。一本向こうの大通りです」
「知ってたよ! うん、そう。知ってた! 今のは、エイトがちゃんと冒険者ギルドの場所を理解しているかどうかを確認しただけだから!」
「………………」
尚一層の疑いの目。
その目を見ないようにしつつ、冒険者ギルドに向かった。
………………。
………………。
無事に着き、ホッと安堵。
「今、ご主人様は安心しましたか?」
「してません! ホッと安堵なんかしていません! 当然だから! 着いて当然だから!」
これ以上の言及を避けるために、さっさと冒険者ギルド内に入る。
まだ早い時間だったのか、依頼ボードの前がわいわいと賑やかだ。
依頼を取り合っているんだろう。
その様子を眺めつつ、受付カウンターに向かい、アイテム袋から採取した薬草を取り出して報告。
渡した薬草の代わりに少ない金銭を貰い、これで終わりだな、と思ったが、そうならなかった。
「ギルドマスターがお呼びです」
受付嬢さんにそう言われる。
……何もしていませんけど?
思い当たる節が一切ない。
まぁ、行けばわかるかと、案内されるまま付いて行く。
受付近くにある階段を上がって二階へ。
そういえば、冒険者ギルドに来たけど、ダオスさんを助けた時に一緒に居た冒険者の人たちはどうしているんだろう?
話を聞こうと思っていたのに。
⦅バッグラウンド商会の件に未だ関わっていますので、面会は難しいです⦆
それなら仕方ない。
そんな会話をしている間に辿り着いた。
二階の通路を一度も曲がる事なく真っ直ぐ進んだ最奥。
「ギルドマスター室」と書かれた小さな看板が貼り付けられている扉を、受付嬢さんがノックする。
「ギルドマスター、件の人物をお連れしました」
おっと、なんか噂が立っているっぽい。
なんだろ………………皆目見当がつかない。
大人しくしていたと思うんだけどなぁ……。
「入れ」
ギルドマスター室内部から入室許可の声が届く。
野太い男性の声だった。
受付嬢さんのあとに入る。
そこそこ広い部屋の中で目立つのは、やっぱり執務机だろう。
書類が山のように積まれていて、当のギルドマスターの姿が見えない。
あれを処理していくのか……大変そうだなぁ。
受付嬢さんの誘導に従って、室内にあるソファーに腰を下ろす。
エイトは当然のように後方に控えた。
では、紅茶を用意してきます、と受付嬢さんが一旦退室。
書類の山の向こうから、ギルドマスターが姿を現した。
スキンヘッドの厳つい顔立ちに眼帯の、四十代くらいの男性。
仕立ての良い服装だが、筋骨隆々なのは一切隠せていない。
正直に言って、普通に見た目が怖い。
書類仕事とか出来そうにないけど……頑張ってんのかな?
そのギルドマスターが、俺と対面する位置にあるソファーに腰を下ろし、一息吐く。
「ふぅー……悪いな。ギルド登録したと聞いてから、一度会ってみたかったんだ。だが、わざわざ呼び出して周囲から変な勘繰りをされ、痛くもない腹を調べられても困るしな。早い内にギルドに来てくれてよかったよ」
「はぁ」
「おっと、まずは名乗りが先だな。『ドルフ・レーム』だ。まぁ、好きなように呼んでくれ」
………………。
………………。
とりあえず、今はギルドマスターで良いか。
もう少し関わらないと、名前を覚えられそうにない。
「それで、えっと……会ってみたかったというのは、どうして?」
「そんなのは当たり前だろ。何しろ、今話題の人物だ。魔法使い部隊を潰し、盗賊を潰し、ドンラグ商会と王家を救い、昨日はドンラグ家の娘まで助けたんだからな」
「……随分と詳しいですね」
「まぁ、この程度はな。でなければ、冒険者ギルド総本部のギルドマスターは出来んよ」
凄いな、冒険者ギルド。
「それに、俺は現王のゴルドールと、それなりの付き合いをしているからな」
ギルドマスターが笑みを浮かべる。
友達付き合いしているって事かな。
確かに、見た目的に気が合いそうである。
でも、そういう事なら詳しい事にも納得だ。
「それで、そんなヤツがわざわざ冒険者登録するなんて、どういう事だ? 何か目的でもあるのか?」
「身元保証です」
「………………」
「………………」
「………………は?」
ギルドマスターが素っ頓狂な声を上げる。
意味がわからないって顔だ。
丁度その時、ノックがして扉が開けられ、受付嬢さんが紅茶を持って戻ってきた。
俺とギルドマスターの前にそれぞれ置かれる。
一口飲もうとしたが、エイトに阻止された。
というか、何故かエイトが先に飲む。
「………………及第点です」
まぁ良いでしょう、という感じ。
いや、自分で淹れてないからかもしれないけど、淹れたであろう受付嬢さんを前にして言う事?
苦笑を浮かべているのが救いだろう。
受付嬢さんはそのまま退室した。
俺も一口飲む。
……普通に美味しいと思うけどなぁ。
エイトの判定が厳しいかどうかはわからない。
「………………いや、身元保証のためって!」
あっ、ギルドマスターが復活した。
「本当にそれだけなのか?」
「それだけですね」
「……はぁ、そうか。あれだけの事をやってのけたのだから、久し振りにSランクが現れるかと期待したんだがな」
「ははは」
過剰な期待だと思います。
「まぁ、こうして顔を繋いだ訳だし、この国とダチを助けてくれた恩もある。もし、なんらかの協力が必要な時があれば、いつでも頼ってこい」
「ありがとうございます」
といっても、そんな時が来るかはわからないけど、一応覚えておこう。
⦅そんな時は今です⦆
今らしい。
どういう事?
⦅登録期間の延長……いえ、無期限を申し出て下さい⦆
あぁ、それがあったね。
なので、申し出てみた。
「登録期間を無期限にしろだ? ランク上げろではなく?」
「あっ、はい。ランクは別に良いです。というのも、移動中に登録期間が切れる可能性が高くて」
「なるほどなぁ。それなら、普通にランクを上げれば」
「それも考えたんですが、いつ出発するかもわからないので」
そこでギルドマスターが考え込む。
「……難しいですかね?」
「出来なくはねぇが、さすがに実績がないヤツのをすると、周囲の反発がなぁ……。抑える事も出来なくはないが、特に今のお前は表に出せない実績が多過ぎて、無期限にした事への説明が難しい」
ですよね。
どうも無理っぽいですけど?
⦅安心して下さい。既に手は考えています⦆
わぁ、頼もしい。




