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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第四章 一時の再会
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丸投げしようと思います

 受けた依頼は、なんて事はない「薬草採取」。

 行く場所は近くの森の中。

 そう深いところにはなく、直ぐ手に入るようなモノ。

 常時貼られているような、緊急でもなんでもなく、別の依頼を受けて、余裕があれば採取する。

 それだけで充分な依頼。


 実際、指定されている数の薬草は直ぐ手に入ったので、アイテム袋の中に仕舞う。

 セミナスさんに言われた通り、綺麗に採取したので査定アップは間違いない。

 ……でも、本当にこれで良いのだろうか?

 魔物とかと一切戦っていないけど?


⦅問題ありません。寧ろ、これからが本番ですので、気を引き締めて下さい⦆


 何か起こりそうな予感。

 急いで詩夕、常水、エイトに注意喚起すると、少し遠くの方で爆発音。

 詩夕、常水、エイトと顔を見合わせて頷き、即座に向かう。


 向かった先の光景は、少し開けた場所に馬車が横転していて、その馬車の周囲に数人の男女と、そこを数十人の男性が取り囲んで逃がさないようにしていた。

 どちらも武装していて、緊迫した雰囲気が流れている。

 なんかどっかで見た光景のような……デジャブ?


 横転した馬車の近くに焼け焦げた地面の跡があり、そこから細い黒煙が立ち昇っていた。

 爆発は、牽制と目印が目的だと推測出来る。

 ……王都が近いから、何かしらの助けが来ると算段したのかな?

 実際、俺たちが来た訳だけど。


 さて、来たは良いけど、どうしたものかな? と思っていると、馬車の周囲に居る数人の男女が俺たちに気付く。

 ……あからさまにガッカリな表情をされた。


 新米冒険者たちとでも思われたのかな?

 まぁ、新米なのは間違いないけど。

 特に女性の一人、俺たちを呼んだんじゃない、と表情が如実に語っている。


 えぇと……お邪魔なら帰った方が良いかな?

 いや、帰らないけどね。

 というか、素直に逃がしてくれないだろう。

 数人の男女の視線で俺たちが居る事に気付いた男たちが、こっちも取り囲んだのだ。


「ははは! また獲物が増えたぞ! おっと、この人数を前にして無駄に歯向かおうとするなよ? 出来れば傷付けたくないからな! これから金になる大事な商品なんだからよ!」


 取り囲む男たちのリーダー格っぽいヤツがそう言うので、人攫い……盗賊の類だという事が確定。

 こんな王都の近くで……と思った時に、ふと思い当たる。

 なので、聞いてみた。


「こんな王都の近くで、こんな派手な事をするなんて……余程捕まらない自信があるんだな」

「そんなドジは踏まねぇよ! それに、もし捕まったとしても、俺たちには強力なコネがあるからな!」


 余裕があるからこその口の軽さだろう。

 でも、その余裕の元となる強力なコネ……多分もうないよ?

 強力なコネって、バッグラウンド商会か、ウラテプの事だよね?

 なんか、いくつかの盗賊団を使っていたようだし、その残党が目の前の男たちかな?


⦅その通りです。ですので、遠慮はいりません。マスターとその他たち、やっておしまいなさい!⦆


 ノリノリだな、セミナスさん。

 ただ、そういう事なら遠慮はしない。

 詩夕と常水から、やって良いんだね? と視線を向けられたので、お好きなようにと頷きを返す。


 武器を構えた詩夕と常水による殲滅戦が始まった。

 相手をほぼ一撃で倒していっている。

 しかもなんか余裕そうだし……カノートさんにボコボコにされているイメージが強いけど、実際はこんなに強かったの?


 いや、カノートさんクラスは基準にしちゃいけないレベルだったな。


⦅感心している場合ではありません。マスターも行って下さい⦆


 おっと、そうだよね。

 俺も向かう。

 といっても、実際に戦う訳じゃない。

 俺にそんな力はないのだ。


 振るわれる攻撃を回避しつつ、詩夕と常水の戦いを阻害しないように動く。

 倒せはしないけど頭をペシッと叩いたり、足を引っかけて転ばせたり、露骨に冷ややかな視線を向けて溜息を吐いたりと、相手に隙を作らせて、とどめは詩夕と常水に任せた。

 何度か攻撃を試してみたけど、やっぱり倒しきれない。


 やっぱり俺の攻撃力が足りないのか、相手の耐久力が高いのかで悩む。

 もしくは、その両方かな?

 俺専用のアイテム袋も手に入ったし、今後のために武器というか、何かしらの秘密兵器でも用意しておいた方が良いかもしれない。


 あとでアドルさんたちに相談してみよう。

 そんな事を考えている間に、男たちは倒された。

 詩夕と常水、エイトによって。

 そう、エイト。


 魔法じゃなく肉弾戦だった。

 周囲が森だから、環境に配慮したのかもしれない。

 ただ、リバーブローで体を曲げさせて下がった顎にアッパーカットや、木を使った三角跳びの膝蹴りに、ローキックのラッシュなどなど、妙に手馴れている感に恐ろしさを感じた。


「いつか、エイトを造り出した神共にも食らわせるための、良い練習相手になりました」


 自業自得と判断して、俺は何も言わなかった。

 好きなだけやってやりなさい。

 ただ、その前に、倒した男たちを前みたいに魔力ロープで縛って欲しいんだけど?


「縛るのも縛られるのも、エイトはご主人様だけが良いのですが?」


 うん。外でそういう会話はやめようか。

 ほら、詩夕と常水が、俺を見ながらひそひそ話し始めたし。

 誤解を解くの、大変なんだよ?


 男たちを縛るのは、詩夕、常水、エイトに任せ、俺は馬車の周囲に居る数人の男女の方に向かう。

 なんか知らんけど、俺が代表っぽい扱いされるんだよね。

 向こうも、代表者らしき人が前に出てくる。


 ……あの、露骨に表情が物語っていた女性だった。


「この度は助けて頂き、ありがとうございます。私に出来る範囲であれば、お礼をしたいと考えております」


 そう言って、その女性は一礼した。

 ただ、その表情は露骨に残念そうだ。

 ……何がそんなに気に食わないのだろうか?

 気になったので聞いてみる。


「一つ良いですか?」

「はい。なんでしょう?」

「なんでそんなに残念そうなんですか?」


 尋ねると、女性は考え込む。

 言って良いのか悩んでいるように見える。

 その間に、その姿を確認しておく。


 長い金髪を後ろで一つに纏め、少々キツい目付きだが、顔立ちは非常に整っている、二十代後半くらいの女性。

 スタイルもよく、服装はスカートではなくズボンだが、その姿が妙に様になっているというか、凄く似合っていた。

 一言で言えば、やり手のキャリアウーマンって感じ。


 確認し終わると同時に、女性もどうするか決めたようだ。


「そうですね。こういうのは正直に言った方が、誤解もなくなるというモノ」

「……はぁ」

「実は私……こういう展開に憧れていたんです。盗賊に襲われたところに、颯爽と助けが入る展開を。折角行商に出ているのに、これまでそういう機会に恵まれず」


 なるほど。

 変な人だな。

 誰か、代わりに相手を……誰もこっちを見ていない。

 生贄として差し出された訳じゃないよね?


「漸くその展開になって、内心はワクワクしていました。もちろん、護衛たちの腕を信じてはいますが、絶対ではない事を理解しています。こうして助けられた事を感謝している気持ちに嘘はありません。ですが、実際に助けに来た人たちの中に……私が夢想していた理想の方が居なくて、残念に思っていたのです」


 うん。まぁ、それを聞いて、こっちも残念に思っているから、もう気にしなくて良いです。


「あぁ、途中までは完璧だったのに……これで、助けに来たのが、茶髪の男らしい顔付きに、筋肉質な体付きで、他人を思いやれる方であれば、完璧でしたのに」


 茶髪……になっていたな。

 男らしい……っちゃ男らしい顔付きだと思う。

 筋肉質……に見える。

 他人を思いやる……結構心配されていたみたいだった。


 ………………うん。これはアレだな。

 と、ピンときていると、目の前の女性が俺に迫る。


「……その顔」

「はい?」

「身近に思い当たる人物が居るのですね?」

「いえ、居ません」


 即座に否定してみたけど通じなかった。


「ちなみにですが、私の名は『オリアナ・ドンラグ』です。王都・エアリーで一番の商会を営んでいる一家の者ですので、色々融通が利きますよ?」


 いや、もう色々融通して貰っていると思います。

 ……というか、また微妙に断り難いところがきたな。

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