丸投げしようと思います
受けた依頼は、なんて事はない「薬草採取」。
行く場所は近くの森の中。
そう深いところにはなく、直ぐ手に入るようなモノ。
常時貼られているような、緊急でもなんでもなく、別の依頼を受けて、余裕があれば採取する。
それだけで充分な依頼。
実際、指定されている数の薬草は直ぐ手に入ったので、アイテム袋の中に仕舞う。
セミナスさんに言われた通り、綺麗に採取したので査定アップは間違いない。
……でも、本当にこれで良いのだろうか?
魔物とかと一切戦っていないけど?
⦅問題ありません。寧ろ、これからが本番ですので、気を引き締めて下さい⦆
何か起こりそうな予感。
急いで詩夕、常水、エイトに注意喚起すると、少し遠くの方で爆発音。
詩夕、常水、エイトと顔を見合わせて頷き、即座に向かう。
向かった先の光景は、少し開けた場所に馬車が横転していて、その馬車の周囲に数人の男女と、そこを数十人の男性が取り囲んで逃がさないようにしていた。
どちらも武装していて、緊迫した雰囲気が流れている。
なんかどっかで見た光景のような……デジャブ?
横転した馬車の近くに焼け焦げた地面の跡があり、そこから細い黒煙が立ち昇っていた。
爆発は、牽制と目印が目的だと推測出来る。
……王都が近いから、何かしらの助けが来ると算段したのかな?
実際、俺たちが来た訳だけど。
さて、来たは良いけど、どうしたものかな? と思っていると、馬車の周囲に居る数人の男女が俺たちに気付く。
……あからさまにガッカリな表情をされた。
新米冒険者たちとでも思われたのかな?
まぁ、新米なのは間違いないけど。
特に女性の一人、俺たちを呼んだんじゃない、と表情が如実に語っている。
えぇと……お邪魔なら帰った方が良いかな?
いや、帰らないけどね。
というか、素直に逃がしてくれないだろう。
数人の男女の視線で俺たちが居る事に気付いた男たちが、こっちも取り囲んだのだ。
「ははは! また獲物が増えたぞ! おっと、この人数を前にして無駄に歯向かおうとするなよ? 出来れば傷付けたくないからな! これから金になる大事な商品なんだからよ!」
取り囲む男たちのリーダー格っぽいヤツがそう言うので、人攫い……盗賊の類だという事が確定。
こんな王都の近くで……と思った時に、ふと思い当たる。
なので、聞いてみた。
「こんな王都の近くで、こんな派手な事をするなんて……余程捕まらない自信があるんだな」
「そんなドジは踏まねぇよ! それに、もし捕まったとしても、俺たちには強力なコネがあるからな!」
余裕があるからこその口の軽さだろう。
でも、その余裕の元となる強力なコネ……多分もうないよ?
強力なコネって、バッグラウンド商会か、ウラテプの事だよね?
なんか、いくつかの盗賊団を使っていたようだし、その残党が目の前の男たちかな?
⦅その通りです。ですので、遠慮はいりません。マスターとその他たち、やっておしまいなさい!⦆
ノリノリだな、セミナスさん。
ただ、そういう事なら遠慮はしない。
詩夕と常水から、やって良いんだね? と視線を向けられたので、お好きなようにと頷きを返す。
武器を構えた詩夕と常水による殲滅戦が始まった。
相手をほぼ一撃で倒していっている。
しかもなんか余裕そうだし……カノートさんにボコボコにされているイメージが強いけど、実際はこんなに強かったの?
いや、カノートさんクラスは基準にしちゃいけないレベルだったな。
⦅感心している場合ではありません。マスターも行って下さい⦆
おっと、そうだよね。
俺も向かう。
といっても、実際に戦う訳じゃない。
俺にそんな力はないのだ。
振るわれる攻撃を回避しつつ、詩夕と常水の戦いを阻害しないように動く。
倒せはしないけど頭をペシッと叩いたり、足を引っかけて転ばせたり、露骨に冷ややかな視線を向けて溜息を吐いたりと、相手に隙を作らせて、とどめは詩夕と常水に任せた。
何度か攻撃を試してみたけど、やっぱり倒しきれない。
やっぱり俺の攻撃力が足りないのか、相手の耐久力が高いのかで悩む。
もしくは、その両方かな?
俺専用のアイテム袋も手に入ったし、今後のために武器というか、何かしらの秘密兵器でも用意しておいた方が良いかもしれない。
あとでアドルさんたちに相談してみよう。
そんな事を考えている間に、男たちは倒された。
詩夕と常水、エイトによって。
そう、エイト。
魔法じゃなく肉弾戦だった。
周囲が森だから、環境に配慮したのかもしれない。
ただ、リバーブローで体を曲げさせて下がった顎にアッパーカットや、木を使った三角跳びの膝蹴りに、ローキックのラッシュなどなど、妙に手馴れている感に恐ろしさを感じた。
「いつか、エイトを造り出した神共にも食らわせるための、良い練習相手になりました」
自業自得と判断して、俺は何も言わなかった。
好きなだけやってやりなさい。
ただ、その前に、倒した男たちを前みたいに魔力ロープで縛って欲しいんだけど?
「縛るのも縛られるのも、エイトはご主人様だけが良いのですが?」
うん。外でそういう会話はやめようか。
ほら、詩夕と常水が、俺を見ながらひそひそ話し始めたし。
誤解を解くの、大変なんだよ?
男たちを縛るのは、詩夕、常水、エイトに任せ、俺は馬車の周囲に居る数人の男女の方に向かう。
なんか知らんけど、俺が代表っぽい扱いされるんだよね。
向こうも、代表者らしき人が前に出てくる。
……あの、露骨に表情が物語っていた女性だった。
「この度は助けて頂き、ありがとうございます。私に出来る範囲であれば、お礼をしたいと考えております」
そう言って、その女性は一礼した。
ただ、その表情は露骨に残念そうだ。
……何がそんなに気に食わないのだろうか?
気になったので聞いてみる。
「一つ良いですか?」
「はい。なんでしょう?」
「なんでそんなに残念そうなんですか?」
尋ねると、女性は考え込む。
言って良いのか悩んでいるように見える。
その間に、その姿を確認しておく。
長い金髪を後ろで一つに纏め、少々キツい目付きだが、顔立ちは非常に整っている、二十代後半くらいの女性。
スタイルもよく、服装はスカートではなくズボンだが、その姿が妙に様になっているというか、凄く似合っていた。
一言で言えば、やり手のキャリアウーマンって感じ。
確認し終わると同時に、女性もどうするか決めたようだ。
「そうですね。こういうのは正直に言った方が、誤解もなくなるというモノ」
「……はぁ」
「実は私……こういう展開に憧れていたんです。盗賊に襲われたところに、颯爽と助けが入る展開を。折角行商に出ているのに、これまでそういう機会に恵まれず」
なるほど。
変な人だな。
誰か、代わりに相手を……誰もこっちを見ていない。
生贄として差し出された訳じゃないよね?
「漸くその展開になって、内心はワクワクしていました。もちろん、護衛たちの腕を信じてはいますが、絶対ではない事を理解しています。こうして助けられた事を感謝している気持ちに嘘はありません。ですが、実際に助けに来た人たちの中に……私が夢想していた理想の方が居なくて、残念に思っていたのです」
うん。まぁ、それを聞いて、こっちも残念に思っているから、もう気にしなくて良いです。
「あぁ、途中までは完璧だったのに……これで、助けに来たのが、茶髪の男らしい顔付きに、筋肉質な体付きで、他人を思いやれる方であれば、完璧でしたのに」
茶髪……になっていたな。
男らしい……っちゃ男らしい顔付きだと思う。
筋肉質……に見える。
他人を思いやる……結構心配されていたみたいだった。
………………うん。これはアレだな。
と、ピンときていると、目の前の女性が俺に迫る。
「……その顔」
「はい?」
「身近に思い当たる人物が居るのですね?」
「いえ、居ません」
即座に否定してみたけど通じなかった。
「ちなみにですが、私の名は『オリアナ・ドンラグ』です。王都・エアリーで一番の商会を営んでいる一家の者ですので、色々融通が利きますよ?」
いや、もう色々融通して貰っていると思います。
……というか、また微妙に断り難いところがきたな。




