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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第四章 一時の再会
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そういう事は早く言ってよ

 翌朝。

 起きると同時に気付く。

 体調万全。

 最後まで残っていた頑固な疲れが取れたような感じ。


 という訳で、俺も鍛錬を始めようと思う。

 エイト、詩夕、常水、樹さんと共にカノートさん家に行く。


「言っておいてなんですけど、樹さんはフィライアさんの護衛をしなくて大丈夫なんですか?」

「鍛錬したい理由を正直に話したら、笑いながらグロリアが請け負ってくれたので大丈夫だ。フィライアも同じように笑いながら同意してくれた」


 それはよかったですね。

 でもなんだろう……なんか裏があるように感じてしまうのは何故。

 ……こういう時は、相手の立場で考えてみると、見えてくるモノがある……はず。


 ………………。

 ………………わかった。

 これはアレだ。

 このまま樹さんが戻ると、シャインさんからの鍛錬に多くの時間を取られてしまうと考えて、少しでもその時間を減らして、自分たちと居る時間を増やそう……という思惑が働いている可能性が高い。


 ピーンと来たね、俺。

 でもそれって、樹さんにとってはどっちが良いんだろうか……。

 うん。深く考えるのはよそう。

 どうにかするのは樹さんである。

 俺が考える事じゃない。


「何故だろう。今、何か、俺の未来を決めるような選択から逃げられたような気がする」


 そんな呟きは聞かなかった事にした。

 詩夕と常水も、そんな事はありませんと笑っているし、俺も笑っておいた。


     ◇


 詩夕、常水、樹さんは、カノートさんとガッツリ鍛錬だが、俺はまず鈍っていた体を解す事から始めた。

 というか、三対一で余裕なカノートさんって、本調子だとやっぱり化け物なんじゃないかと思う。


「化け物は失礼じゃないかな? そもそも、私程度はまだ可愛い方だよ。上には上が居る。それこそ、君たちがよく知る狂暴エルフは私より強いしね」


 まずは、とランニングをしていたら、カノートさんからいきなり声をかけられた。

 少し遠くを見れば、詩夕たちは鍛錬場の真ん中で寝ている。

 ……お疲れ。


 ただ、狂暴エルフというのが誰の事を指しているのかは、言うまでもないだろう。


「シャインさんの方が強いんですね」

「あれは本当に化け物レベルだからね」


 俺からすれば、どっちもどっちの強さだけど。

 詩夕たちがある程度回復するまで、カノートさんはエイトと戦っていた。

 素材別で作られた槍を用意していたので、内容は言うまでもない。


「全て砕きます」

「やれるモノならやって欲しいですね」


 ピリピリするの、やめて欲しい。


 そして、そろそろ午前中の鍛錬が終わりそうな時、セミナスさんから声をかけられる。


⦅マスター⦆


 ……ん? 何?


⦅本日、これからの行動についてですが……⦆


 セミナスさんの話は、これから詩夕、常水と共に、冒険者ギルドに行って、特定の依頼を受けてこい、というモノだった。

 おぉ! 冒険者ギルド。

 ていうか、詩夕と常水も連れて行くの?


⦅荒事がありますので⦆


 荒事? 前に言っていた、詩夕と常水が必要な事ってこれ?


⦅いえ、違いますが、その前哨戦とでも思って下さい⦆


 そういう事ならと、詩夕、常水に打診し、了承を得る。


「……あれ? 俺は?」


 樹さんは不思議そうに尋ねてくる。

 そうだよね、仲間外れはいけないよね。


⦅では、後方斜め45度をご確認下さい⦆


 言われた通りに確認。

 ………………。

 ………………。

 俺はその方向を指差しながら、樹さんに言う。


「お迎えが来ています」


 樹さんが俺の指し示した方向を確認。

 そこに居たのは、満面の笑みを浮かべるフィライアさんとグロリアさん。

 こちらに向けて手を振っている……いや、こっちに来いと招いている?

 よくわからない。


「今日はもうちょっと鍛錬し」

「それじゃ、今日はもう終わりにしようか」


 カノートさんが無情にもそう告げる。

 しかし、カノートさんが終わりと言えば終わりなのだ。

 肩を落とした樹さんがフィライアさんとグロリアさんのところに向かい、そのまま連れ去られていく。


 俺、詩夕、常水は、樹さんに向かって敬礼して見送った。

 エイトは、どうでもよさそうに無表情である。


 そのあとは、カノートさん家で昼食を頂き、冒険者ギルドに向かう。


     ◇


 カノートさん家から冒険者ギルドへ。

 迷うなんてありえない。

 何故なら、冒険者ギルドまでの地図を、カノートさん家の執事さんに描いて貰ったからだ。

 もうこれで迷う事はない。


「それじゃ、僕が地図を預かるよ」

「俺が先頭に立とう」


 あれ? 地図が俺の手元にない。

 常水が普通に前に居る。

 何この流れるような動きは……俺が反応出来なかったとは……。

 これが勇者と一般人との違いか。


「違うからね」


 サラッと心を読まないで、詩夕。


「というか、なんで俺に地図を渡してくれないの?」

「あれ? 覚えてない? 前に、年一のゲームの祭典に行った時、明道に案内を任せると目的の企業のところに辿り着けなかったよね? 出入り口の番号も間違えたし」

「いや、あれはね、人が多くて真っ直ぐに進めなかっただけだよ。それにほら、なんていうか全体的に照明が暗かったからであって」

「あれ以来、明道には方向音痴の疑いがある」


 常水、お前もか。

 くっ。それにしても、まさか俺にそんな疑いがあるなんて……。


「………………」


 さっきからエイトが無言で俺を見ているのも気になる。

 何か言いたい事でもあるのかもしれないが、詩夕と常水の味方をしそうな予感があるので、聞くのはやめておこう。

 その代わり、地図と先頭は詩夕と常水に任せた。


 俺とエイトは大人しく付いていくだけである。


「……何やら、ご主人様からサラッと同類扱いされているような気がします。エイトは違いますよ、と否定したい気分になりました」


 味方が居ない。


⦅ですが、賢い判断であると告げておきます⦆


 本当に味方が居ない。

 ……別に方向音痴って訳じゃないと思うんだけどなぁ。

 ゲームの祭典の時だって、興味を惹くモノが多過ぎるのだ。

 配布物も欲しいし。


⦅安心して下さい。私が付いていますので、マスターが人生に迷う事はありません⦆


 うん。いや、今は……うん。

 ありがとう。


「それじゃ、行くよ」

「は~い」


 大人しく詩夕と常水に付いて行く。

 ところでセミナスさん。


⦅はい。なんでしょうか?⦆


 そもそもの疑問だけど、なんで冒険者ギルドに?

 コンビネーションとか、鍛錬中でも確認出来ると思うけど?


⦅そうですね。冒険者ギルドに行くのは、マスターのためです⦆


 ……俺?


⦅はい。何しろ、そこの二人は既にビットル王国から、この世界での身元証明書を貰っていますが、マスターはそういうのを持っていません。今後、村ならまだしも都市や町に入る場合、必要になりますので今の内に作っておきます。冒険者ギルドが一番手っ取り早いので⦆


 なるほど。

 セミナスさんが必要だと言うなら必要なのだろう。

 でも、それだったらエイトは?


⦅既に神々が用意したモノを持っています⦆


 そういうところは準備が良いんだな。

 ……あれ? でも待って。

 そういう事なら、王都に入る時に言われていそうだけど?

 でも俺は、もうこうして王都に入っているけど?


⦅あの時は、マスターが吸血鬼と組み合っている内に、骸骨騎士が上手くやっていました。それで、そのあとに今回の出来事でしたから、今は頭の中から抜け落ちてしまっているのです⦆


 ………………。

 ………………。

 もう一回待って。

 それって、つまり……今の俺って……世間的に言えば……。


⦅不法侵入中です⦆


 よし。

 さっさと作ろう。

 それで事後だけど、万事解決である。

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