そこは別に取り合うようなところじゃないと思う
ダオスさんとハオイさんを待っている間に、どこか見て来ようかな? と思ったが、下手に動くと向こうが俺を捜すのに時間が取られると思ったので、大人しく総合受付カウンターで待つ事にした。
それは別に良い。構わない。
ただ、問題があった。
「だからね、最近彼が会ってくれないのよ。どう思う? エイトちゃん」
「浮気している可能性が高いと、エイトは判断します。早急に調査し、確定した場合は速やかに証拠を手に入れて、こちらの立場を優位にする事をオススメします。その男性との関係は、そこから考えれば良いかと」
「やっぱり。友達もエイトちゃんと同じような事を言っていたのよ」
エイトと受付のお姉さんが急速に仲良くなったのだ。
でも、それはもう気にしないでおこう。
……今思うのは、出来れば別の話題にして欲しい、という事である。
ダオスさんとハオイさんが、早急に戻って来てくれる事を切に願う。
………………。
………………。
それから、そう時間がかからず、ダオスさんとハオイさんは戻って来た。
「どうぞ、こちらに」
「我が家に案内します」
案内されるまま付いて行く。
店を出て……隣の宿を過ぎて……その隣。
二階建ての、他のよりは少し大きい庭付き一戸建てがそうだった。
でも、外観だけを見れば、周囲の家とそう大差はない。
「……普通、ですね」
「ははは。広い家は良いですが、広過ぎる家は人を雇った方が良いなど、色々と面倒なだけですからね」
「家族と暮らせるだけで充分です。もちろん、その分の防犯はしっかりしていますが」
目には見えないが、この世界は魔法がある訳だし、そういう処置が施されているんだろう。
現に、ダオスさんが門の前で何やらぶつぶつと唱えてから、中に入った。
もしその防犯に引っかかったらどうなるのか気になる。
元の世界なら、映像に残るとか、大きな音が鳴るとか、点灯するとか、警備会社に連絡がいくとか、そこら辺が一般的だと思う。
でも、魔法がある異世界となると……大量の剣が降る、地面から槍が、突風に飛ばされる、地面から土が盛り上がって閉じ込められる……駄目だ。
可能性があり過ぎて絞れない。
答えを求めて聞いてみた。
「バチッと雷撃が走って痺れを起こし」
「自動的に詰所に連絡がいきます」
なるほど。痺れか。
ただ、これは一番軽い方で、他にも色々とトラップが仕掛けられているそうだが、防犯を兼ねているモノなので、これ以上の説明は聞かなかった。
トラウマになりそうなのもあるかもしれないし。
そんな話をしながら案内されたのはリビング。
まずはそこで、ダオスさんとハオイさんの家族が紹介される。
ダオスさんの奥さん……妙齢の美人。
ハオイさんの奥さん……年相応の美人。
ハオイさんのお子さん……将来美人になる。(ハオイさん談)
あと、ダオスさんの娘で、ハオイさんの妹が居るのだが、今は行商に出ていて居ないそうだ。
かなりの美人。(ドンラグ一家談)
「ノノンです! 十歳です! 助けてくれてありがとうございます!」
ハオイさんのお子さん……ノノンちゃんから、きちんと頭を下げて感謝の言葉が伝えられた。
その姿を見て思う。
「しっかりとした子ですね。将来が楽しみなんじゃないですか?」
「その通りなんです!」
ハオイさん、拳を強く握って強気の断言。
しまった。まさかの親馬鹿だったとは。
このままノノンちゃんの素晴らしさを語り始めると思ったのだが、その前にハオイさんの奥さんが笑いながら動きをとめ、そのまま奥に引き摺っていった。
………………首が締まっていたように見えたけど、大丈夫だよね?
この家の日常的な出来事であって欲しいと思った。
非日常は危険が一杯だからね。
俺とエイトも自己紹介し、ダオスさんが早速とばかりにお礼の品を取りに向かった。
というのも、俺が眠っていた間にアドルさんたちと相談し終えていて、既に準備は終えているそうだ。
あとは渡すだけだった、と。
……あれ? ちょっと待って。
国から貰えるのはセミナスさんが選び終わっているし、ここでもそうだと、あれが良い、これが良いと選ぶ楽しさが一切体験出来ないんだけど。
いやまぁ、ではどれが良いかとか、どんなのが良いのかとか、そういう事を問われると、わからないと答えるしかないんだけどね。
そういうのに対する知識、全くないから。
というか、そういう事ならアドルさんたちに渡しといてくれても良かったような気がしないでもないが……まぁ、様式美みたいなモノなのかもしれない。
直接渡さないと意味がない、みたいな。
なので、このまま受け取る事に問題はない。
アドルさんたちの方がそういうのはよくわかっているだろうし、相談も行ったのなら、そうそう変な物は出てこないと思う。
……フラグじゃない。フラグじゃない。フラグじゃない。
それよりもまず、片付けなければいけない問題が目の前で起こっていた。
「えへへ」
ノノンちゃんが俺に向かって笑みを向ける。
俺も笑みを返す。
それに問題はない。
問題なのは、ノノンちゃんの位置。
ソファに座って待つ俺の、膝の上。
そこにノノンちゃんが座っていた。
まぁ、近所とか親戚の子みたいな感覚なので、膝の上に座られる事は別に問題ない。
⦅ふふふ……マスターと私の愛し子……⦆
セミナスさんはなんか変な妄想しているのに忙しそうなので、特に反応はない。
過剰に反応しているのは、エイトの方だった。
俺の後ろに控える事をやめて正面に回り……怖い目でノノンちゃんを見ている。
まるで、そこは自分の席だとでも言うように。
「そこはエイトの永久指定席です。許可出来ません」
合ってた!
でも、一度も座らせた事ないけど……それでも指定席なの?
「違うよ。ここはノノンの席だよ。だって、ノノンはこのお兄ちゃんに助けられたから、将来ノノンはお兄ちゃんに嫁がないといけません。つまり、将来の嫁。だから、ここに座るのです」
なるほど。
そういう理屈で俺の膝の上に座っているのか。
というか、そこまで重く考えなくても良いんだけど?
ただ、エイトの目は変わらず怖いので、認めていないようだ。
どうしてそこまで……。
「可愛い少女というキャラがエイトと被っているので、強制排除します」
いや、被っていないと思います。
思いっ切り個人的な感情で動いているな。
エイトがノノンちゃんを排除するために、両手を前に突き出す。
対するノノンちゃんは、突き出されたエイトの両手を迎え撃ち、がっぷりと組み合う。
「ぐぬぬ……」
「ふぎぎ……」
おぉ、エイトが勝つと思ったけど、なんか拮抗している。
……ほんとに「対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器」なの?
いや、魔法特化みたいだから、物理的な力は見た目通りに弱いのかもしれない。
でも、このままだと決着が着きそうにないので、どうしたものかと思っていると、何やらガシャンと物が落ちた音がする。
音がした方に視線を向けると、そこに居たのはハオイさん。
手には何も持っていないが、その足元にはトレイとティーポットとカップに、お茶菓子らしきモノがあった。
当然、中身は全て床に零れている。
「えっと……」
「ノノンの指定席はパパの膝の上だったはずなのに……」
ハオイさんがそう言った瞬間、後ろにハオイさんの奥さんが現れて、後頭部をスパンと叩いて奥に引き摺っていく。
落ちたモノの後片付けは、ホホホ……と笑いながらダオスさんの奥さんがササッと行った。
う~ん……なんか手馴れている感があるな。
この家に入ってから段々ハオイさんが壊れていっていると思ったけど、やっぱりこれが日常なのかもしれない。
そう納得して、ダオスさんが戻って来るまで大人しく待つ事にした。
「わかりました。互いに譲歩しましょう。左太ももをエイトの永久指定席にします」
「じゃあ、ノノンは右太ももだね!」
さぁて、立って待とうかな。




