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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第四章 一時の再会
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ワザとやったら、もう天然じゃない

 カノートさん家の中は、さすがここら辺で一番という感じの豪華さだった。

 でっかくて広い玄関。

 天井から吊り下げられているシャンデリア。

 ふかふかの絨毯。


 置かれている物も高そう。

 今もそうだけど、案内してくれている初老の執事さんとは別の、執事さんやメイドさんたちが綺麗に掃除している。

 というか、あるメイドさんが気になった、というか、妙に目に付く。


 乱雑……じゃないな。

 高いと知っているからこそ乱暴に扱えないというか、気にし過ぎて逆に危なっかしい感じ。

 あぁ、そんな震える手で触ると……。


 そのメイドさんは、棚の上に置かれている燭台を落としたが、落ちきる前になんとかキャッチして、事なきを得ていた。

 俺も一緒にホッと安堵。


「あの者は先日仕え始めたばかりでして。お見苦しいところを見せましたが、どうかご容赦を」


 案内してくれている執事さんが、俺にだけ聞こえるようにそう言う。

 気にしていませんと、小声で返す。

 執事さんが小さく一礼したように見えた。


 というか、本当に気にしていないし、別に見苦しいとも思っていない。

 というのも、俺はそのメイドさんを見て、別の事を考えていたのだ。


 ……なんか将来、ドジっ子メイドに覚醒クラスアップするんじゃないのかな? と。


 ただ、そう思っていたのは俺だけではなかった。


「……ふむ。ご主人様はああいうメイドが好みなのでしょうか? でしたら、エイトも同じような行動をすれば、ご主人様の寵愛を更に受ける事が出来ます。いえ、同じようではご主人様に飽きられてしまいます。エイト的ひねりを加えて……なんでもないところで躓いてご主人様のズボンを掴み、下着ごとずり下ろしながら前転して、勢い余ってそのまま急所にかかと落としを」


 死ぬわっ! 普通に死ぬわっ!

 詩夕と常水にもエイトのその呟きが聞こえていたのか、ちょっとキュッてなっているし、それに、わざとやったらドジっ子じゃねぇよ!

 あれは天然、無意識でやるからこそ輝くんだ!


 ……あれ? なんかそれ以外にも何かあったような。

 ………………あっ、そうだよ!

 寵愛を更にって、一度もねぇよ!


 でも、俺は突っ込まない。

 そう。ここは余所様の家。

 大人しく。礼儀正しく。


「もしくは、ご主人様の秘密の引き出しから、二冊の本を発見。ロリ系とメイド系。まさか、エイトの事を……と、その二冊の本をご主人様のベッドの上に並べてムラムラしていると、当のご主人様に見つかってしまうというドジを」

「エイトは、少しは自重しろぉ! あとそれは、ドジっ子じゃない! 絶対確信してやっているから!」


 エイトの口を封じようとしたが、抵抗されて取っ組み合いを始める。

 くっ、まさか防がれるとは。

 学習しているな、エイト。

 詩夕と常水から同情するような視線を向けられているような気がするが、今はそれどころではない。


 それに俺は引き出しじゃない! 本棚派だ!


 詩夕と常水が仲裁に入るまで続いた。


     ◇


 俺とエイトは、お騒がせしましたと、揃って頭を下げる。

 サーディカさんと初老の執事さんは、笑って許してくれた。

 ほんと、申し訳ない。

 すると、サーディカさんがエイトを興味深そうに見る。


「アドル様たちからお聞きしましたけど、この子が、神様たちが造り出した魔導兵器ですか」

「そうです。エイト」

「エイトと申します。ご主人様の妻の一人を兼ねたメイドです」

「さらっと嘘を事実のように言うんじゃない」

「ふふっ、なんか良いですね、そういうの」


 あれ? なんか好感触?


「そういう気軽に付き合えるメイドが傍に居て、少し羨ましいです」


 サーディカさんが苦笑を浮かべる。

 色々大変なのかもしれない。

 だって、王族だしね。

 面倒そうなしがらみとか、色々ありそうだ。


 ただ、ここはまだ廊下。

 このまま足をとめておく訳にもいかないので、カノートさんのところに向かう。

 カノートさんは執務室に居る、と初老の執事さんが教えてくれる。


 そのまま執務室まで案内されて、中に入った。

 さすがに昨日入った王様の執務室と比べるのはアレだけど、それでも充分立派な部屋だと思う。

 ただ、武具類が多く飾られているのは……趣味かな?


 カノートさんは執務机で何やら書類仕事をしていたようだが、サーディカさんの姿を視界に捉えると、嬉しそうに笑みを浮かべて腰を上げ、こちらに歩み寄って来る。


「やぁ、サーディカ。よく来てくれたね。いつものやつかな?」

「えぇ、そうよ。カノート」

「それに、アキミチくんとエイトさんに……そちらは確か、ビットル王国から来た勇者の二人、でしたよね?」

「「ども」」


 俺とエイトは気軽に返事をするが、詩夕と常水はその通りですと一礼していた。

 カノートさんが偉い立場の貴族だというのはわかっているんだけど、俺もどちらかといえば戦友のような感覚の方が強い。

 まぁ、カノートさんもそうだからこそ、こうして気軽に接する事が出来るのだ。


 カノートさんに勧められるまま、執務室内にあるソファに腰を下ろす。

 こちら側には俺、詩夕、常水が並んで座り、エイトが後方に控え、テーブルを挟んで、カノートさんとサーディカさんが並んで座る。


 初老の執事さんが持って来た紅茶を一口飲む。

 ……美味っ!

 何これ、紅茶ってこんな美味しいのがあるの?

 なんかこれまで飲んでいたのと全然違――。


「それで、サーディカさんはいつものだけど、アキミチくんたちはどうしてここに?」

「あっ、この紅茶の茶葉はどこ……じゃなくて、カノートさんにお願いあって来ました。といっても、それは俺じゃなくて」


 詩夕と常水の方に視線を向けた。

 カノートさんも俺の視線のあとを追う。

 二人はカノートさんに自己紹介を兼ねた挨拶をして、カノートさんも同じように返す。

 それから、本題に入った。


「僕たちがこの国に、ここに来たのはフィライアさんの護衛も兼ねていますが、もう一つ目的があります。カノートさんが槍の達人だと、シャインさんから聞きました」

「シャイン? あの、狂戦士、もしくは凶戦士と書いてシャインと読む、エルフのシャインの事かい?」


 俺、詩夕、常水、揃って苦笑しながら頷いた。

 そして、詩夕と常水は、シャインから鍛錬を受けている事を話す。


「……なるほど。あれが身内以外の誰かを鍛えているのは驚きだけど、君たちの目的は理解出来た。つまり、君たちの両方、もしくはどちらかが槍を使い、私の教えを受けたいという事だね?」


 その問いかけに、常水が立ち上がって頭を下げる。


「槍を使うのは俺です。どうか、ご教授をお願い出来ませんか?」

「………………」


 カノートさんが腕を組んで沈黙する。

 なんか音を発しちゃいけない雰囲気だ。


「……一つ、聞いても良いですか? 既にそれなりの強さを持ち、鍛錬を怠らなければその月日の分の強さを得る事は出来ると思います。そうまで性急に強さを求めるのはどうしてですか?」

「この世界を知り、大魔王軍との戦いを経て……どのような者が相手でも生き抜き、友たちを守り抜くために」


 常水の返答を聞いて、カノートさんが笑みを浮かべる。


「良いでしょう。あなたの言葉から、大きな愛を感じました。私が一流の……いえ、超一流の槍の使い手に鍛えてあげましょう」

「ありがとうございます」


 なんか新たな師弟関係が出来たような感じ。

 雰囲気的に、この場に居る全員で拍手をしておく。

 この流れで詩夕も鍛錬をお願いした。

 なんでも、シャインさんから色々経験してこいと言われているそうだ。


 カノートさんは、それならとサーディカさんにお願いする。

 なんでも、サーディカさんは細剣の使い手で、腕も超一流らしい。

 だったらウラテプの時は……いや、あれはそもそものジャンルが違うし、武器も持っていなかったような覚えが……まぁ、もう終わった事だ。


 それで、今日こうしてサーディカさんがここに来たのは、カノートさんとバチバチやり合うため。

 何を? 模擬戦を。

 要は、体を動かしてのストレス発散。

 詩夕はそういう事なら是非にと了承。


 早速とばかりに、カノートさん家の庭にある鍛錬場に向かう事になった。

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