観光ガイドって、あると助かる
ここ、ラメゼリア王国に居る間だけだろうけど、詩夕、常水と一緒に行動する事になった。
あの場はとりあえず解散となった時、思い出す。
そういえば、ウルルさんにアイテム袋を返さないと、と。
………………うん。手元にない。
あれ? どこに置いていたっけ?
いや、そもそも、気絶から目覚めた時、もう既に手元になかったような……。
「エイトが返しておきました」
エイトに確認すると、そんな返答だった。
……ありがとう。
でも、そういう事は教えていて欲しかった。
解散したあとは、俺、詩夕、常水、エイトで今後の予定を立てるために、俺が寝ていた部屋に戻る。
自力で向かえないので、もちろんメイドさんに案内して貰った。
この部屋を利用する間に、せめて城の入り口から部屋まで自力で行けるようにしたい。
密かな目標である。
「もちろん、エイトもご主人様に同行します」
そこだけは譲りません、と俺の前に立ったエイトは頑なだ。
「いや、そもそも、別に連れて行かないとは言っていないけど?」
「え?」
「え?」
「エイトも連れて行って頂けるのですか?」
「うん」
頷く。
いや、エイトを放っておくと何をするかわからないから、目の届く場所に居て欲しいだけなんだけど……それだけ嬉しそうな表情を浮かべられると、そういう理由は言いにくい。
まぁ、喜んでいるんだから、それで良いじゃないか。
「詩夕と常水も、良いよね?」
「うん。構わないよ」
「問題ない」
という訳で、この四人での行動である。
それと一つ確認。
「エイトの部屋もあるんだよね?」
「ご主人様と同じ部屋です」
詩夕と常水がヒソヒソと話し出した。
やめて! 誤解だから!
「……本当は?」
「ご主人様と同じ部屋です」
詩夕と常水が俺を指差しながらヒソヒソと話し出した。
人を指差すのはやめなさいって言われなかった?
「……予め言っておくと、そう言い続けても俺に折れる気は一切ないから」
「ご主人様と同室を強く希望したのですが、却下されてしまいましたので、呼び出しベルの音が聞こえる向かいの部屋が確保されています」
詩夕と常水は笑みを浮かべている。
誤解は解けたようでホッと一安心。
「最初からそう言ってくれれば」
「エイトは特に睡眠も必要ではありませんので、いつでもお呼び下さい。夜中、ムラムラする夢を見て発散したい時など、エイトを使っ」
「せいっ!」
急いでエイトの口を手で塞ぐ。
詩夕と常水から向けられる、疑惑の眼差し。
誤解とはいえ、さすがに二度目の疑惑となると、解くのが大変だった。
あと、エイトに手を甘噛みされた。
一旦この場を落ち着かせるのに、少々時間がかかる。
………………。
………………。
「よし。もう大丈夫だな?」
「「「はい」」」
いや、エイトはそうだけど、詩夕と常水は普段そんな返事しないよね?
うん、とか、あぁ、とかだったような……。
ここで合わせてくる感じが、どことなく不安なんだけど。
主にこれからの事で。
いや、違う。
そう思って決め付けるのはよくない。
それだけエイトと、詩夕と常水が仲良くなったという事だ。
この短時間で?
気が合ったから、だな。
うんうん。それ以外にはない。
「で、これからの事なんだけど……どうする?」
まずは漠然と尋ねてみる。
すると、常水が挙手した。
「はい、常水」
「実はこの国に来た目的の一つに、俺の鍛錬がある。シャインさんに、カノート殿から槍の鍛錬をお願いしてこいと」
そうなの?
いや、シャインさんならどんな無茶でも言いそうだから、別に不思議ではないか。
……カノートさんに槍の鍛錬のお願いか。
そういや、セミナスさんが、カノートさんの槍の扱いは世界一、みたいな事を言っていたような……。
「つまり、常水は、カノートさんから槍を習いたいんだ?」
「そうだ」
まぁ、そういう事なら、大丈夫かな?
これもセミナスさん曰く、カノートさんの俺への信頼度は高いらしいし、俺も一緒に頼めば受けてくれるかもしれない。
……もしかして、セミナスさんはこのために高くした……なんて?
否定出来ないけど。
「あっ、僕もそうだよ。といっても、こっちは剣だけどね。シャインさんが言うには、それなりに武器を扱えるから、ついでにお願いしてこいと」
詩夕が挙手して、そう付け足してくる。
そういう事なら、早目にお伺いしておいた方が良いかもしれない。
こうして一緒に居られるのがいつまでかわからないし、協力出来る事は協力出来る内にしておこう。
強くなれば、その分、生存率が上がる。
俺も色々勉強になる……かもしれない。
「わかった。それはこのあと確認しに行こう。他には何かある?」
「「……」」
二人揃って首を傾げる。
何も思い付かないようだ。
……ちょっと待って。
詩夕も常水も、そんな戦闘よりの考え方をするようなタイプじゃなかったよね?
いや、わかるよ。
大魔王軍と戦争中の世界だし、強くないと生きていくのは難しい。
強さを求めるのは寧ろ自然な事だ。
でも、もう少し心にゆとりを持って欲しい……と言いつつも、俺も他に何かあるか? と問われると、ピンとこない。
同じように首を傾げるだろう。
「エイトは思うのですが、普通にこの王都を観光すれば良いではありませんか?」
「「「……」」」
俺たちは揃って俯く。
まさか、エイトに諭されるとは……。
でも、確かにエイトの言う通りだ。
もっとよく考えてみれば、冒険者ギルドとか行ってみたい。
ただ、直ぐに思い付かなくても仕方ないと思う。
何しろ、元の世界と違って、この世界に観光ガイドとかない、ん………………そういや、似たようなパンフレットを、ドンラグ商会に着いた時に見せられたな。
となると……普通に自分のせいか。
……よし。
「それは良い案だ、エイト!」
「素敵な案だね! そうだよね。折角の王都なんだし!」
「素晴らしいメイドだ」
全力で褒めた。
ふんっ! と鼻息を荒くして、胸を張るエイト。
おおー! と俺たちは揃って拍手した。
と、そこで思い出す。
「あっ、そうそう。具体的に何をするかはわからないけど、多分、どこかで二人の力を借りる事になると思う」
「それは別に構わないけど、随分とアバウトだね」
「……それも、セミナスさん、というスキルからの話か?」
常水の言葉に頷きを返す。
「うん。そう。なんか、必要だったから……って言っていたと思う。何に、かは教えてくれなかったけど。それがあるから、こうして再会出来たんだと、俺は思う」
「う~ん、なんだろ? 僕たちが揃っていた方が良いって事だよね」
「協力するのは別に良いが、それは俺たち二人だけを指し示しているのか? 具体的には、樹さんも必要な事なのか?」
ん~、それはわからん。
まぁ、必要だったら、セミナスさんが先生も連れて行けと言うでしょ。
それに、なんとなくだけど予想は出来る。
多分、神様解放関連。
寧ろ、それ以外の事だったら、エイトやアドルさんたちに協力をお願いする方向に話を進めるはずだし。
神様封印場所の結界は、詩夕たちにも反応しないはずだしね。
で、人数が必要となると……やっぱり戦闘関連なのかなぁ。
いやでも、もしそうだとしても、今回は人数が違う。
俺一人じゃない。
……一人じゃないって、なんて素晴らしいんだ!
けど、まだ確定した訳じゃないので、とりあえず、そういう覚悟だけはしておく……という感じで、今は詩夕、常水との再会を楽しむ事を優先しよう。
ガッチリ予定を組んでも、間違いなくその通りに進行はしないので、俺たちは絶対に外せない部分以外は、緩く予定を組んでいった。




