スタンピード 序
「ひぇっくショォイおらァボケぇ……ズビッ……」
「ハッブショい!! お前のクシャミのクセ凄いなキヤ……」
「サツキコワイ、カレンコワイ。エリナオボエタ」
ニケの力やキヤの魔法で服を乾かし、乾いたところで改めてエリナの紹介に移る。自己紹介は終えたが、サツキはエリナを雇うことはあまり乗り気ではないようだ。一応工房トップであるキヤもサツキと同じだ。魔女ったらホント自由人というか傍若無人である。
「ぶっちゃけ、人手自体はそれほど困ってないんだよね」
「まーなー。設計からひな形は俺が作って、ゴルドさんとヤグル兄妹で再現や量産は可能かを検証して、さっちゃんが必要な金を動かす。カレンやマーシュンは諸事全般をやってくれてるけど、どうよカレン? 人手足りてる?」
「正直今でも割と体力は余り気味ですね……慣れるごとに効率も上がっているようで、どんどん余りの時間が増えてます。というより、エリナさんくらいの魔術師ならわざわざウチの工房に就職せずともいくらでもパトロンは現れるのでは?」
カレンが正論を言うとエリナはドヤ顔でチッチッチッと指を動かす
「確かに効率を考えれば私はいらないかもしれない。でも私にはキヤたちが必要とするであろう知識がある。前に見せてくれた魔道バイク。あの欠点を解決しうる素材の心当たりとか。キヤの作った物のさらなる進化を私は出来る」
聞けばエリナは以前冒険者で生計を立てていてその時に培った経験が生かせるという。キヤは大きく心を揺らされた。以前ギルバと義手を作っていた時にも思っていたのだが、キヤはあくまで職人であり魔物と戦ったりはしない。故に扱う魔物素材の知識には限界があった。
だがエリナは違う。キヤの知らない魔物素材の知識や、場合によっては素材を採取してきてくれることもあるかもしれない。ギルバは冒険者ゆえに各地を転々としているし、ギルドに依頼を出せば正直アタリハズレの差が大きすぎるのだ。ちょくちょく依頼を出しているものの、入手できる素材の量も質もピンキリが多い。
「そしてなにより。私はキヤがこれから作り出すであろうものに興味を惹かれている。知識欲の塊である魔術師をその気にさせたのだから、キヤはもう逃げられない」
もはや逃げ場はなかった。キヤとサツキは目を合わせ、諦めたようにため息をつく。その様子にドヤ顔で胸を張るエリナ。ちなみに割と豊満だ。
「キヤさん!!」
何とも言えない雰囲気を突如切り裂いたカレンの鋭い声。一瞬にして空気がピリつき、座っていた他のメンバーも一斉に立ち上がった。そしてエリナ、サツキの順で何かを感じ取ったらしい、エリナはローブを翻し一瞬で着替えを済ませ、置いていた自分の杖を引き寄せる。サツキはダッシュで荷物を纏め始める。それを見たマーシュンがサツキに追従して荷物まとめの手伝いに入った。
「なんだ?! 何が起こってる?!」
「キヤさん、魔物です! 魔物が接近しています、すぐに服を着てください!!」
カレンの鋭い一言にキヤはギアボックスに飛びつき、カレンの得物『水明』と『縹渺』、を投げ渡すと、自分は爆速で着替えを済ませる。そして同じく着替え終わったマーソウに両腕につける二つのパイルバンカーを投げ渡し、ゴルドワーフには金属の籠手を、自分には蒸気銃を取り出した。
「サツキ、荷物はこれに入れろ! 皆下流の道があるとこまで走って行くぞ!!」
サツキとマーシュンが纏めてくれた荷物を全てギアボックスに放り込み、メンバーは下流にある帰り道へと走り出す。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
フクィーカツ有数の観光地であるこの川は下流もなかなかにぎわっている。上流は体力がありそして静かな場所を求める観光客が多いが、下流は浅く大きく広がっているので家族連れが非常に多い。ガヤガヤと笑い声や談笑の声が絶えないこの場所に似つかわしくない悲鳴が上がった。
そこに居た観光客が悲鳴のした方向に顔を向けると、そこにはゴブリンやコボルトの群れが現れ走ってくるところだった。下流は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変わり、逃げ惑う観光客で一杯になった。
さらに悪いことは重なる。先ほど記述したように下流は家族連れが非常に多い、そんな中パニックが起こるとどうなるか? 親と子が人の波で分断されはぐれてしまう最悪の事態が発生するのだ。
「ママどこーー?! ママァーーーー!!!」
「おいどけ邪魔だ!!」
「助けてくれ!! 助けてくれぇぇぇ!!」
「坊や?! 坊やぁぁぁーー!!!」
そしてそんな状況を魔物は見逃さない。はぐれてパニックになり泣き出した子どもは魔物の格好のエサだ。親とはぐれ、泣いて座り込んでしまった二人の兄妹にゴブリンが拾ってきたナマクラの剣を振りかざして襲いかかる
『ゲシャシャシャシャ!!』
「そこまでです子鬼ども」
刹那、ゴブリンの視界を強烈な熱を持った煙が塞ぎ、ゴブリンの喉や鼻を焼いた意識外からの粘膜に対する攻撃に思わず後ろに転んでジタバタするゴブリン達。煙が晴れたそこに居たのは、見慣れぬ服を着た金髪の麗人だった
「カレン・フェアリス、征きます」
手に持つ武器を合体させ薙刀にし、舞い踊るように薙刀を振るう。ゴブリン達の武器を柄でハジき、向こうが見えるほど透明な刃で一刀両断に斬り裂き、時に蹴りや掌底で大きく吹き飛ばして援軍のゴブリン達に肉弾として叩きつける。
「いざや舞え、火仙炎舞!」
カレンが薙刀のグリップを捻ると透明な刃は熱を放ち、やがて赤色に染まる。まるで炎がそのまま宝石になったかような美しさだ。そしてカレンは再び舞う。先ほどよりもさらに流麗で、それでいて苛烈。まるでそれは戦いの女神のようで、その姿は幼い兄妹の脳裏に生涯焼き付いていたという
遂に始まってしまった大災害。生き残りたければ戦うしかない。たとえそれが非戦闘員でも。




