新たなる進歩と不穏な進歩
シュリシュリと金属がスレ合う音。現在キヤの前には五十センチほどの金属製のロボットが立っている。そのロボットの背中から伸びる魔力伝達糸を通して魔水圧シリンダーの中の魔力水に魔力を通すと、シリンダーはキヤの望む通りの動きを見せる。
そしてロボットは片足を上げ、偉大なる第一歩を
ガゴン!
踏み出せなかった。無様に転倒しロボットにキズが増えた。最初は傷一つない姿だったが最早その影はなく、土埃と傷で一周回って歴戦の戦士っぽくなってしまっている。第一歩も踏み出せていないのに、塗装テクニックの『ウェザリング』だけはご立派に出来てしまった。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
「っだー!! くっそムズいなこれ!!」
「傍から見ててもこれは難しすぎると思うぞ? 僕もこれほど複雑な魔力操作が出来る人間は見たことがない」
失敗による己への失望と高い集中力を使っていた為かキヤはその場にしゃがみこむ。ナルニィエスはさもありなんと腕を組みながら頭を振っている。実験機として製作されたこの変形ロボット(小)だが、全体的な出来はいいものの実際に動かしてみると操作が非常に難しいのだ。ロボットの背部からは操作用のいつものシルキーワームの糸束が繋がっており、そこを介して全身の魔水シリンダーを操作する。
まず一歩を踏み出すのに稼働させるシリンダーを複数操らなければならない。それだけでなくそれぞれ体の各部のシリンダーを伸ばしたり縮めたりする長さが違う上に、さらにロボット自身の重心の調整もある。ロボコンなどに使われるようなロボットと違いレバーを倒したりするだけで思うとおりの動きをさせることが出来ないのだ。と、エリナがくいくいとキヤの袖を引っ張る
「ねぇ、キヤ」
「なんスか?」
「もしかしたら。力になれるかもしれない」
意外なところから助け船が出た。無表情でむふーと胸を張っているエリナはてぇてぇものがあるがそれは置いておいて。
「私秘伝の魔法を使えばその操作は簡単になる。キヤが弟子だからこそ教える」
「それはありがた…………なにをお望みで?」
女性は強かということを骨身に染みるほど知っているキヤはジト目でエリナを睨む。案の定頭の後ろで手を組んでそっぽ向いてヘッタクソな口笛を吹くエリナがいた。両頬をつまんでムニムニさせて吐かせようとするキヤ
「コッチヲミロォォォ~~~!! 隠してることを全部吐けぇぇぇぇ!!」
「ほにゃにゃほにゃほにゃ」
傍から見ればバカップルである。ナルニィエスもきっと苦笑いしてる。見えないけど。殴る壁がないのでとりあえず地面を殴っておこう。地震をも止める作用があるし。邪っっ!!!!!
そしてロボット(小)の四肢や背部に増設された小さな鉄板群。これがエリナの秘伝の秘策である
「この小さな鉄板には、命令された一つの動きに対して稼働するシリンダーの動きを記録してある。これに魔力を流せば関連付けされたシリンダーがその通りの動きをする。本来ならずっと大きい鉄板に複雑な術式を刻むけど、私ならそれを圧縮して縮小化できる。これなら必要な魔力操作を簡略化できる。褒めて」
タイヘンなものが出来てしまった。要はこれ、ロボットの構成パーツである一種の電気回路のような働きをするものだ。
電気回路とは電気を利用するために電源、負荷などの回路素子を導体で接続したもの。 引用Wikipediaより
今回エリナが提案したものは上記の説明の電気の部分が魔力に代わる。
ロボットの全身に張り巡らされた魔力の通路、シルキーワームの糸束に魔力を通し鉄板に刻まれたプログラムを魔力で刺激しその信号をアクチュエータ、信号を物理的運動に変換する部分、であるシリンダーを介してプログラム通りの動きを再現させる。これがロボットを動かすための一連の流れだ。
シルキーワームの糸束のみだと一応は問題はないものの、モノを大型化したときの糸の消費量がエラいことになってしまい、さらに糸束だけでは金属の重量を支え切れない。ちなみにギルバの義手に使っているものはギルバの凄まじい魔力によって変質強化され上位版であるキングシルキーワームの糸束レベルの強度になっている。無論出力もケタ違いだ。普通に生活する分には普通の糸束で十分なのだが
難しいこと全部引っこ抜いて言うと、ロボットを動かすためのパーツが揃ったのだ。やったぜ★。キヤがロボットを動かし、それに対応した刻印をエリナが鉄板に刻む。
「すげぇ!! めっちゃ操作が楽だコレ! 流石師匠ッス!! パネェっす!」
「もっと褒めて崇めて奉るがよいキヤ」
「ウッス。で、師匠の要求はなんですか?」
「いきなりしょっぱい対応やめて。私の新しい仮説理論を利用した、新しい武器の制作を手伝ってほしい」
「どらどらドララ……拝見しますね」
エリナは懐から羊皮紙を取り出し広げた。キヤが受け取りざっと見ると、みるみるキヤの表情が曇り出す。そんなキヤのようすをどこか満足気に見やるエリナ
「オイオイ……もしかしなくてもアンタヤベェもん俺に作らそうとしてンな。これがもし出回ったら戦争が変わるぞ」
「大丈夫、これはキヤの蒸気銃と違って広めるつもりはない。この為にセキュリティ用の魔法も開発してある。キヤは優しい子。何かあっても責任は全部私が持つから。お願い」
エリナが渡してきた羊皮紙には『簡易呪文発射装置・魔導杖銃』と書かれていた。




