父ちゃん東陽町で恐怖ス
母ちゃんから一万円を受け取った父ちゃんは、切符を買い地下鉄東西線で東陽町へ向かった。大切なお店とコレクションそして哲子を追放したフカバスに抗議するためだ。しかし、単身で何の考えも無しに東陽町に向かっても出来ることは限られ、おまけに相手のホームタウンに乗り込むなど自殺行為に等しい。父ちゃんにもそれは解っていた。ただ、解っていても一言文句を言わねば腹の虫が収まらなかったのだ。
「ここが、東陽町か」久しぶりに東陽町にやって来た父ちゃんはその変貌ぶりに感心したが、今はそんな時ではない。父ちゃんは取り敢えず人の流れに乗ってあてど無く東陽町をさまよい歩いた。高校からイースト21あたりまで北上し葛西橋通りを尾高橋まで行って戻って来たり、東陽図書館や東陽橋の方に行ってまた駅に戻ったりしたが、目的の電器屋は見当たらない。父ちゃんはアジトの場所を知らなかったのだ。
「このままおめおめと帰るわけにも行かねぇしなぁ」軍資金も十分残っていたので、駅前の郵便局の隣にあるホテルに泊まることにした。
「いらっしゃいませ」
「今日泊まれる?」
「はい」
受付の褐色の肌にピンクの髪の女の子の笑顔に良いホテルだな〜なんて思いながら部屋に入ってシャワーを浴びビールを飲んでくつろいだ父ちゃんの行いは間違いだった。東陽町に泊まってはいけなかったのだ。あるいは東陽町の他のお店を利用した時にも同じ様な店員だったと気がつくべきだった。東陽町のお店の店員はみんないくるみちゃんなのだから。
その夜、父ちゃんがホテルの部屋からニコ生をしていると突然サイレンが鳴り響いた。
「何事だ」すると次の瞬間、部屋のドアがドンドン叩かれだした。
「ヒィイ」
「開けろ〜開けろ〜」ドアがバールのようなもので叩かれ既に小さな穴が開いている。フカバスはニャルラットホテプ星人も雇っていたのか!いや、バールを持ったいくるみちゃんのようなものなのだが。
「怖くて開けれません、自分ビビりですから〜」父ちゃんは軽く失禁しながらホテルのドアの前で土下座し続けたそうです。
そのまま一晩中ドアの前で土下座を続けた父ちゃんは、フロアから人の気配が無くなると、命からがらホテルから飛び出し、タクシーに乗ろうとするも乗車拒否された為、また東西線に乗って帰って来た。というような顛末をわたしとお母ちゃんは潜伏先のホテルで聞いた。
「だからね、東陽町に乗り込むなんて死にに行くようなものだって」呆れるわたし。
「じゃがしかし」面目ないと父ちゃん。
「これからどうする?」
「確かに、いつまでもホテル生活って訳にもいかないよね」その時ドア近くで物音がした。
「ヒャン」枕を頭の上に乗せて居ないふりをする父ちゃん。
「……」それを哀れな目で見る母と娘。
「まぁ、何処に隠れてもアジトの監視から逃れられないと思うし、いっそ敵さんの懐に飛び込むのも一つの手かしら」
「母ちゃんがそれで良いなら」わたしも北海道やシベリアに高飛びするよりそっちが良い。
「じゃぁ、決まりね」母ちゃんがなさけない父ちゃんのお尻をビタンと叩いてそう言った。
「ひゃん」




