最小限の費用で
眩い光を発し続ける宇宙船(滑り台)。今は夜でこの公園駅前だから目立つよ。大騒ぎになる前に止めないと。
「宇宙くん、目立ちすぎ。光るの止めて」
「おお、達成感に気分が高揚してうっかり」そう言うと、パッと輝きが止まった。目がさっきまでの光の洪水にやられて、すぐに暗がりに順応できない。
幸い光が収まると、発光に気づいた人たちも関心を失ったようだ。それでも油断は禁物でしょう。
「宇宙くん、これ中には入れるの」
「うん、入ろうか」
「入ってからもまた光らせないでよ」ちなみに入り口はコンクリートを通り抜けるハリー・ポッターの9と3/4線みたいな感じでしたよ。
「なかひろっ」それが宇宙船の中に入った私の印象だった。形は外見と同じかまくら型ドームなのだがそのスケールは小さな東京ドーム位ある。
「空調効率悪そうだね〜」天井を見上げながらそんな事を口にする。
「こっちにどうぞ」パーティションみたいな壁で仕切られた廊下を通り移動した先は会議室と客間を足して2で割ったような空間。
「ここでお話しよう。何か聞きたいことは?」
「たいそう立派なお家ですね」
「宇宙船だよ」
「お家賃はいかほどで?」
「僕の船だよ」
「分譲ですか。そうですか」そんな事を言っていると。テーブルからの真ん中がパカっと開きそこからスーッとグラスに入った飲み物が現れた。
「良かったらどうぞ?」「中身は何?」「公園の水だよ」公園の水だった。
水を頂いたところで、やっと聞くべきことを思いついた。
「宇宙船の燃料って」
「それは、さっき君が僕にくれた硬貨なのさ。それを自販機を通じて宇宙船に補給したんだ」なるほどそれで宇宙船が光りだのか。
「この宇宙船はソーラーパワーでは飛ばせられないの?」
「生命維持には十分だけど、宇宙船を飛ばすだけ容量を貯められない」
「小銭なんて自販機や公衆電話のお釣り出る所探せば見つかるよね」あるいは自販機の下をかきだすとか。
「地球人の持ち物を勝手に取ったり出来ない」なるほど。
「今まで私以外にあなたにお金をくれる人は居なかったの?」
「確かに今までも数回接待を受けたことはある。けど、お金は貰えなかったり、貰えたとしても紙幣だった」
「その紙幣でなにか買えばよかったのよ」
「貰った紙幣でちょうど買えるものを買った」不器用なんだか律儀なんだか、緊急時なんでしょうに。まぁ、地球人のものさしで判断は出来ないよね。
「じゃぁ、あなたは私が硬貨をあげたおかげで帰れるのね」
「そうです、ありがとうございます」
「ならさ、私に宇宙パワーを貸してくれないかな。あの本の宇宙パワーではなくて、本物の宇宙パワーを」




