プロローグ
その日哲子が学校からアジトにやって来ると、なんとも言えぬ違和感と、先輩の隣で先輩とべったりしてる見知らぬ少女の存在に気がついた。
「遅れました〜」ちょっとそこ私の席なんだけどと不機嫌な顔をした途端、
「哲子さん、ちょっといいかい」怖い顔をした、みかかさんにそう呼び止められた。
みかかさんはこのアジトのリーダー兼所有者で、ここが何のアジトかというと通称・ポリ容器置き場(入り口にそう書いてある)私達ふかがわばすたーずのアジトです。
ふかがわばすたーずが何かと言うと(説明多いな)東陽町をフカガワの魔の手開放した正義の組織です(たぶん)。先日ひょんなことからふかがわばすたーず(通称・フカバス)の一員となった私は見事にみんなと一緒に活動し、結果的にフカガワの魔の手から東陽町を救い出したのでした。
「そんな栄誉あるメンバーである私に何の話ですか?」
「栄誉?何の話だ、まぁいい。君は私に隠し事をしてないか?」机に両肘を組んで手を組み、そこに顔を添える例の司令ポーズでみかかさんが私にそう言うと。
「あ、冷蔵庫のプリンみかかさんのだったんですね。ごめんなさい」
「そうだ、名前が書いてあっただろう?」
「あ、でもあれ賞味期限ギリギリでしたよ。今度新しいのを買って来ますから」しこたま謝ろうとした刹那。
「そのことじゃない」えっ。私はてっきりプリンの話だと思っていたのであてが外れて当惑する。
「深川哲子くん」
「はい?」私が返事をすると、みかかさんは表情を不気味な笑顔に変え、
「そう、君の苗字は深川だったんだな」
「えっと、それはその」うろたえる私。先輩に最初にこのアジトに連れてこられる時、苗字のことは内緒だゾと言われていたのでした。それがなんでバレたんだろう。救いを求めるように先輩の方に眼をやると。
「イチャイチャしてんじゃね〜っ」二人は一瞬キョトンとしたがまたイチャつき始めた。
「哲子、私は本当に残念だ」
「えっ苗字が深川ってだけで今更私をどうこうしたりしませんよね?」
「追放します」
「マジで?」無言で頷くみかかさん。首でいくるみちゃんに指示を出すと、ビキニにピンク髪の黒服役が馬鹿力で私と荷物を猫のようにつまみ上げ階段を上がり、道路に私と荷物を放り出すと鋼鉄のポリ容器置き場のドアを締めた。
私は立ち上がるとスカートの埃を叩き、散らばった荷物をカバンにまとめてトボトボと駅に向かって歩き出す。駄目だ、何も考えられない。突然の事だもんね。駅から東西線に乗って家に向かう。取り敢えず家に帰ってゆっくりしよう。もしかして明日になれば先輩がみかかさんを懐柔してくれてるかもしれない。その可能性があった。そんな持ち前の楽観的な性格でやや立ち直り、お腹をすかし家路につく哲子。電車を降りて駅から出ると何やら騒がしい、野次馬やら消防車やらで辺りは騒然としていた。
「火事?まさかね〜」私の嫌な予感は的中した。もしかして火元はうち!?
「すいません、通して下さい」野次馬をかき分けて前に出ると、呆然と立ち尽くすお父さんとお母さんを見つけた。
「何があったの」私は声をかける。
「突然プラズマテレビが火を吹いて、よよよ」そこまでするかー。
「哲子、お前の友達がプレゼントしてくれたテレビだ」う、うん。訳知り顔な私を見てお母さんは、
「何かあったのね」
「ちょっとね。苗字がみかかさんにバレちゃって」
「あっ(察し)」
「わしの店が、わしの宝が〜」ブルセラショップが全焼した現場ではお父さんの悲痛な叫び声が響いた。
アジトから追い出された上に哲子は路頭に迷ってしまった。




