第六章:太腹な落ちぶれ魔王と腹黒少主
『ガタゴト……ガタゴト……』
重々しい馬車が、雲を突くほどそびえ立つ雄大な城門へとゆっくりと滑り込んだ。
カーテンがそっと開けられた瞬間、目の前に飛び込んできたあまりの繁華な光景に、先ほどまでぐったりしていたお嬢様——ディアブラは、思わず可愛らしい桜色の唇をぽかんと開けた。
城内は行き交う馬車と人でごった返し、街道の両側に並ぶゴシック様式の建築群は実に気品に満ちあふれ、広々とした石畳の路面すら埃ひとつなくピカピカに磨き上げられていた。
黄金色の陽光が斜めに降り注ぎ、街の住民たちは上質な素材で仕立てられた、汚れ一つない整った衣服をまとっている。誰もがこの上なく穏やかで、甘く、満ち足りた笑顔を浮かべていた。子供たちは透き通る噴水の傍らで無邪気に追いかけっこをしてはしゃぎ、老人たちは花壇の縁で優雅に談笑している。
ここは賑やかで、華やかで、自由と平和に満ちた——まるで現実離れした理想郷のようだった。
だが——この街の極致とも言える幸福と平穏は、城外のわずか数里先で戦乱の嵐が吹き荒れ、流民が溢れ返り、死体が野晒しになっているあの阿鼻叫喚的地獄と、あまりにも残酷で、皮肉で、不気味なほどの強烈な対比を成していたのだ。
◇
「ま、待て……おかしいぞ……」
ディアブラはドレスの裾をキュッと握りしめて馬車の中に座り、先ほどまでの倦怠感が嘘のように、その美しい双眸をわずかに細めて険しい視線を走らせた。
この凡人の肉体の魔力は哀しいほど微々たるものだったが、かつて万魔の頂点に君臨した最高峰の魂の感知能力が、城門をくぐった瞬間に、極めて隠微かつ異様な波動を鋭く察知させていた——
空気中に……ひそやかに、あまりにも純粋で、温かく、だが途途方もなく巨大な『死霊術』と『魔燼』の気配が漂っている!
この街の住民たち……あんなにも穏やかに、何の雑念もなく微笑み合っている彼らの魂の奥底は、あたかも何か極めて高度な死霊の奇跡によって徹底的に洗浄され、すべての憎しみ、苦しみ、焦燥、そして悲しみが強制的に引き抜かれているかのようだった!
千年前、世界を戦慄させた魔王ディアブロとして——彼はこの禍々しくも美しい術式の歪みに、胸を突き刺されるような衝撃を受けた。
そしてこの嬌弱な彼女の肉体は、そのあまりに巨大な異質さに過敏に反応し、柔らかな手のひらに冷や汗をにじませていた。
◇
ディアブラがその驚愕と警戒からまだ立ち直りきらないうちに、馬車は重厚感あふれる、芳醇なヘーゼルナッツと焼き立てパンの香りを漂わせる最高級のロイヤルカフェの前にピタリと停まった。
道中ずっと無言だった農家の少年メシアがひらりと馬車から飛び降り、いかにも慣れた手つきで豪華な金メッキのガラス扉を押し開けて中に入っていく。
ディアブラも慌ててそれに続いた。見れば、メシアは勝手を知っているかのように窓際の最も尊ばれる特等席を選んで腰を下ろし、近づいてきたウェイターに軽くうなずきを見せた。
やがて、目を奪われるほど色鮮やかな最高級の絶品スイーツが、次々とテーブルの上に運ばれてきた——
香ばしく滑らかな生クリームケーキ、焼き立てで甘酸っぱい果実の香りを放つストロベリータルト、幾重にもサクサクと重なる本格的なミルフィーユ、そして湯気を立ちのぼらせ、高貴な柑橘系の香りを漂わせる最高級のアールグレイティー!
さらに驚くべきことに、ウェイターが軽く手を叩いたのを合図に、黒の燕尾服をまとった、いかにも気品あふれる四人の首席バイオリニストがどこからともなく整然と現れたのだ。彼らはテーブルを囲むように立ち、優雅にバイオリンを肩に構えると、まるでおとぎ話の宮廷晩餐会のような、気高く美しいクラシックの生演奏を奏で始めた。
ディアブラの双眸がパッと眩い輝きを放ち、喉の奥からゴクリと生唾を飲み込む音が漏れた。だが、彼女は持ち前のツンデレのプライドに必死にしがみつき、得意満面に高らかに鼻を鳴らした。
「フン……どうせ野蛮で粗野な農夫の分際だと思っていたが、本当に本王のためにスイーツと紅茶を用意してみせるとはな……しかもバイオリンの楽隊まで揃えるとは! 少しは見所があるぞ、本王のこれまでの教育の成果だな!」
◇
優雅なバイオリンの調べに浸りながら、食べたいだけ食べたディアブラは、ハンカチで優雅に口元を拭い去った。そして、『公爵邸の令嬢』そして『元魔王』としての圧倒的な財力を見せつけるべく、懐からずっしりと重みのある、心地よい金属音を響かせる金貨の詰まった袋をバサッと豪快にテーブルの上に叩きつけた!
ディアブラは傲慢に小さな顎をグイッと持ち上げ、傍らに立つウェイターに向けて優雅に手をひらひらと振ると、この上なく尊大な施しを与える口調で言い放った。
「持っていくがいい! 釣りはいらん! 余った金貨は、本王から貴様ら楽隊へのとびきりのチップだと思って受け取るがよい!」
しかし、ウェイターはテーブルの上に置かれた大金が入った袋を一瞥しただけで、ただ穏やかに微笑むと、丁重に両手でそれを押し返した。そして、恭しく深々と頭を下げて言った。
「美しいお嬢様、お気持ちだけで十分でございます。どうぞご遠慮なさらずに。それに、お客様は我が『不夜城』の少主様にとって極めて大切なご友人にあたられますゆえ……本日の極上のスイーツ、アールグレイ、そして宮廷楽士の演奏は、すべて当然の無料ご招待でございます」
「……少主?」
ディアブラは小さなお首をコテンと傾げ、目をパチクリさせて困惑の色を浮かべた。
「少主だと? いったい誰のことだ? この街でそんなに有名なやつなのか?」
ウェイターは少し面食らった様子を見せた後、すぐに向かいの席でどこまでも穏やかにアールグレイティーを啜っている農家の少年へと視線を向け、誇らしげで恭しい笑みを浮かべて答えた。
「お嬢様、ご冗談を……。目の前にいらっしゃるお方こそ、この『不夜城』の城主——偉大なる真竜の勇者コルヴォス様のご子息、メシア少主様にございますよ!」
◇
『プシャーーーッ————!』
ディアブラが口に含んだばかりの最高級アールグレイティーが、向かいに座る少年の顔面に盛大に霧状となって吹き飛んだ!
彼女の身体はまるで天雷にでも撃たれたかのようにその場でピタリと硬直し、瞳孔は激しく震え、目玉がそのまま飛び出さんばかりに見開かれた!
傍らではバイオリンの楽隊が、相変わらず優雅に高揚感あふれる陽気なメロディを奏で続けており、このシュールで気まずい状況をこれ以上ないほど最高潮に演出していた。
(なっ、なんだって——?!)
ディアブラの心の中で、耳をつんざくような絶叫が文字通り爆発した。
目の前にいるこのボロい麻布の服を着て、本王にゲロをぶっかけられ、服の洗濯すら本王に(結局彼が洗ったけど)やらせていたあの農家のガキが……!
(真竜の勇者の実の息子だと?! この巨大な都市の『少主』だって……?!!)
ディアブラはブルブルと震える小さな指を、対面の席で備え付けのハンカチを使って優雅に顔を拭き拭きしているメシアへと突きつけた。真っ赤だった小さなお顔が一瞬で真っ青になり、さらに激しい鉄青色へと変わっていく。
「き、貴様……この無一文のフリをして本王を騙した詐欺師の少主めえええええええ————っ!!」
メシアは顔についた紅茶のしずくを綺麗に拭い取ると、目の前ですっかりブチ切れて暴走しかけているお嬢様を見つめ、どこまでも無実を装った、最高に腹黒く温かい笑みを浮かべてこう言った。
「嘘なんて一度もついていませんよ、お嬢様。最初に言ったはずです……『この近くに大きな街がある』って。それに、生クリームケーキも、アールグレイティーも、バイオリンの楽隊も……今こうして全部、存分に堪能できたじゃないですか」




