地を這うおじさん、異世界へ。最初の現場は少女の救出!
「痛っ! なんだ!?」
突然激しい頭痛が起こり目を開けるも、視界がぼやけてはっきり見えない。
草っぽい臭いやガサガサする音からなんとなく分かるのは、そこが家の中ではないと言うことだけだ。
こうなる前に自分は何をしていたか思い出そうとするも、頭の痛さでそれどころではなかった。
頭を抱えながら倒れ込み頭痛が収まるまで耐える。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
頭の痛さに転がりながらもがき苦しんでいたが、優しい見知らぬ声が聞こえた瞬間、頭痛が嘘みたいに消えてしまった。
十年振りくらいに他人に優しい声を掛けてもらい嬉しかったので、しっかり顔を見てお礼を言おうと目を凝らす。
すると自分に声をかけてくれたのは、目元がぱっちりとした金髪の少女で驚く。
周りを見ると見たことのないデカい植物がいくつかあり、目の前にいる少女の服装も見たことがない。
白い生地を基調とし金の刺しゅうが施されたストールやローブ、それに教会にいる人が被っているようなヴェールを身に付けており、手には大きな玉が先に付いた杖を持っている。
対して自分の服を見ると何度も洗濯して紺が色褪せた、泥と汗が染み付いた作業服にフルハーネス安全帯と使い込まれた革袋、そして鉄芯の入った安全靴という俺にとっての正装だった。
豪華さで言えば天と地の差だが、それ以上に俺の知る現実と彼女はかけ離れている。
ひょっとしてここは日本ではないんじゃないだろうか。いや、もしかしたら地球ですらないかもしれない気がしてきた。
どうして自分がこんなところにいたのか分からないが、学歴などまったくない自分では英語なんてしゃべれる訳がない。
言葉が通じない時にどうすればいいか、とっさに良い方法が思い浮かばず愛想笑いしていると
「ご無事なようで良かったです」
そう言って可愛らしく微笑む。どうやらこちらが分かるように話してくれているらしく、ならばと慌てて正座になり、地面に頭をこすりつけながら感謝の言葉を伝える。
「本当に助かりました、ありがとうございます! お陰で頭痛が無くなり助かりました」
「いえいえ、私は偶然あなたを見つけて声を掛けただけですので」
「おいおいお嬢さんよ。そんな奴放っておいて俺たちと良いことしようや」
彼女に色々聞こうとしたところで割って入ってくる者がいた。
下卑た笑いをするモヒカンでいかにも略奪とか不法行為がお手の物、と言う感じの三人がいて彼女に対し嫌らしい視線を向ける。
とうの彼女はそれを構わず俺の肩に手を置く。何をするのかと思っていたところ、少し間があった後で彼女の掌が光り俺の体が暖かくなるのを感じた。
この少女は優しいだけでなく奇跡も起こせるなんて、ひょっとしたら天使とかそういうに違いない。
よく見れば胸元に木を模したようなペンダントをしており、天使ではなく何か信仰している人なのかもと察する。
いや、そういう関係の人でも普通は掌は光らないだろう、と自分に突っ込みを入れていると
「おほ! こりゃいいや。マナ教のシスターだぜコイツ。きっと生娘に違いねぇ! 高く売れるぞ!?」
「ならさっさとあいつを始末して連れて行こうぜ!」
感動に浸ることも許さず彼女に暴言を吐く連中に対し、堪忍袋の緒が切れる。
育ちが悪く学歴もないことから被害者であっても悪者にされるので、いつもなら抑えて抑えてと自分に堪えるよう促すところだが、優しい彼女に対する暴言は勘弁ならない。
彼女に手を放すよう告げてから立ち上がり、近くにあった愛用の黄色のヘルメットを拾って顎紐を締め、一番近くにいた男に素早く近付き問答無用で腹へ前蹴りを放つ。
「なん……!? ぐぉあ!?」
蹴りの速さに驚いたのか相手は避けることなく鳩尾に決まり、さらに体を曲げなが後ろにあった木にぶつかるまで吹き飛んだ。
毎日家に来るガラの悪いおっさんたちから手解きを受け、中学の頃は強制的にキックボクシング部に入れられ鍛えた成果を、まさかあの子のために発揮できるとは思わず少しうれしい。
「お、おい何しやがるてめぇ!」
前蹴りを入れたやつは伸びてしまい、残りの二人がこちらに対して凄んできたものの、俺にその程度のガンを付けたところで意味はない。
こちとら子供のころから本職の凄みを見てきたので、雑魚と本物の違いくらいわかる。本物を知っている者からしたら、近所にいる猫に唸られた方がまだ怖かった。
恐らくだがこの連中は弱者相手に粋がり、少し強く出れば逃げるタイプだろう。
優しい声をかけてくれた彼女を侮辱するような、汚い言葉を聞かせた罪は重いので逃がすなんてありえない。
残り二人に対して向き直り、近くにいたやつに襲い掛かりながら
「この子の耳に汚い言葉を流し込むんじゃねぇ。彼女に吐いた汚ねぇ言葉の分、俺が痛い目に遭わせてやる!」
そう言って左膝側面へ向けて溜めずに素早く蹴りを入れる。相手は貧弱ではない見た目なのにそれだけでバランスを崩し、前かがみになったところへ顔に膝を入れて地面へ叩きつけた。
「お、おいしっかりしろ! クソッ! 何訳の分からねぇこと言ってんだこの野郎!」
訳が分からないことはないだろうと思いつつ、もはや語ることもないので残りの一人へ続けて攻撃を仕掛ける。
黙って立っていることはなく、慌てて距離を取り腰に佩いた剣を抜いた。剣を佩くなんて昔の日本にもないし、やはりここは日本でない上に現代でないことも確定する。
夢か幻か知らないが今は戦いのことだけを考えよう、そう自らを説き伏せどうするか考えた。素手と刃物ではリーチの差も殺傷能力の差もありすぎる。
何も知らないうちに殺されるかもしれない、という恐怖に足が後ろへ下がりかけたが
―坊主、お前が人生で光物を向けられることがあったとしたら、迷わず全力で逃げろ。ただお前は両親に捨てられたお姉ちゃん子みたいだから、どうしても姉ちゃんを守るために戦うなら、その時は物を投げて妨害するか常に相手の側面を攻撃できるよう動け。
顔は忘れてしまったものの遠い昔の記憶にあった言葉が蘇り、踏ん張ってとどまり素早く見たが投げれるような物はなかった。
二人倒した感じではどうやら俺はここではそこそこ早いらしく、恐らく相手は対応しきれないと考える。
今更相手は彼女を見逃さないだろうから、刃物を見せられたところで引くわけにはいかない。
「なめんじゃねぇぞこの野郎。俺の後ろにはあのお嬢さんがいる。絶対にお前を倒して守り抜く!」
―不屈の完遂者発動
突然抑揚のない声が聞こえた瞬間、相手がどう動くのか予測したような幻が映し出され、更に自分の体が熱くなるのを感じる。
「な、何だ、この力は!?」
作品を読んでくださりありがとうございます!
現場仕事一筋のおじさんが異世界で少女を守るために奮闘する物語です。
第七話からはちょっと口の悪い仲間のカラスも登場し、物語がさらに加速しますので
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