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元伝説の迷宮踏破者、今は過疎配信おじさん ――魔王が幼女に転生して来たので、再び迷宮の最深部へ  作者:
一章 おじさん、宿敵と再開する

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四十話 おじさん、池袋に挑む①

 【娯楽都市迷宮(ダンジョン)池袋】、その真奥にて、【第四戯魔王マキナ】はたった1体で踊っていた。


 紫と赤の混じり気のある長髪をサラサラと靡かせながら、両眼を真っ白なアイマスクで覆った150cmほどの少女は1人楽しげに、それでいて儚げに舞を誰に見せることなく披露する。


 クルクルと、そして、時折、跳ねながら、美しい一連の流れを淡々と機械的に繰り返した。


 何度も何度も繰り返す最中、そんなマキナの前に鹿の頭の形のデザインで、機械仕掛けの無骨な被り物をつけ、全長は約3mほどの巨体をゆっくりと動かし、近付く、怪物は彼女へと喋りかけた。


「セイレンスよ? いつまで、死を悼んでいる」


 独特で、重厚かつ渋い声色から放たれた一言に対して、マキナはピタリと動きを止め、真っ白なスカートの縁を指で挟み、お辞儀をした。


「ご機嫌麗しゅう、私のショヴァン。私のお父様。私に意見なんて、いいご身分ね」


 マキナは淡々とした返事を返し、直ぐにまた踊り始めるとショヴァンと呼ばれた巨体は呆れたのか、彼女へとその手に握りしめた巨大な戦斧を突如として、振り下ろした。


 それを無視しながら、マキナは踊り続けるもその一撃を()()()の存在が食い止め、ショヴァンは自身の攻撃が防がれたことで再び何処からか声を出した。


「彼らは解除していない様だな、セイレンスよ。それどころか以前に増して、操作が上手くなっている」


「当たり前よ、ショヴァン。私は【第四戯魔王マキナ】。最初から最後まで抜かり無く、やるって決めていたから」


「そうか、我が娘よ。お前であればそれが出来るのであろう。だが、我が娘よ、その力の強まりは、彼女の死による物か?」


 ショヴァンの言葉に対して、マキナは踊るのを止め、彼を睨みつけた。


「私が、誰の死を悼もうがお父様には関係ないでしょう?」


「関係ある。私はお前に使える騎士であり、父である。お前が【第五獣魔王ケルヌンノス】へと想いを寄せていたことも、私は知っている」


「あら、お父様。それ以上は良して、たとえ、それは貴方であっても()()してしまいたくなるから」


 マキナは手を翳す。

 その瞬間、彼女の背後より、不可視の存在は顕現し、ショヴァンの巨体を掴み上げた。


 不可視の存在、それは機械仕掛けの肉体を持った巨大な何か。それの背後には糸の様な物が伸びており、辺り人形の様にゆったりと動いていた。


 ショヴァンの巨大な体を簡単に掴み上げる程の力を持ちながら、マキナはゆっくりと彼の目の前に立つ。


「ねえ、ショヴァン。私の騎士、私のお父様。貴方を支配しないのは、私が貴方を支配できないからじゃない。貴方は私の父であるから、尊重しているから。そのことを理解してる?」


 ギチギチと音を立てて、肉体が軋む音が鳴り響くほどの力で圧迫されるが、その肉体の軋みをショヴァンは気にすることなく、声を出した。


「理解している。当たり前に、私はお前の手の上で生きていることを。だが、それとこれは別だ。あれは敵対する【魔王】であったのだろう? ならば、我々はその死を悼む思いはあってはならない。敵は踏み躙る物。そうであるとかつて覚悟を決めていた筈だろうに」


 その言葉によって、マキナは自身の過去が脳裏に過ぎる。


 世界で初めて人類と()()した【魔王】、父の姿を思い浮かべ、彼が無惨に毒殺された記憶を鮮明に思い出し、直ぐに機械的に思考を切り替えた。


 マキナは合理主義の【魔王】であり、自他共に認めるほど機械的(システマチック)な生き方をしている。


 故に、【第五獣魔王ケルヌンノス】、彼女の死を割り切ろうとした。弱いから負けた、そう判断しようとした。


 だが、出来なかった。

 ケルヌンノス、彼女だけがマキナの孤独を、勝手に癒してくれていたから。


「ショヴァン、私はどうしても、彼女の死を割り切れない。敵ではある。けれど、私はあの子が、あの子だけが、私の埋まらなかった穴を埋めてくれたの。だから、私は彼女の弔いの合戦をするわ」


 地面から宙に浮かんだ状態のショヴァンに向けて、マキナは踊りを見せた。


 何度も同じ動きを反復して、華麗に舞う姿をショヴァンへ見せながら、マキナは口を開く。


「これより、【第四戯魔王マキナ】は人類に、ゲームを持ち掛ける」


 跳ねると同時に、言葉を紡ぐ。


「この地を借りて、多くのユーザーを誘き寄せ、それら全てを血の海に染め上げる。ショヴァン、私のお父様、私の騎士。これから、私が地獄を作り出す。その道を、貴方が先を歩き、踏み潰すのよ」


 マキナはそういうとショヴァンの目の前で踊り続ける。


 クルクルと。

 世界が自分の物かの様に。


***


 【娯楽都市迷宮(ダンジョン)池袋、その地にレンジ一行は足を運んでいた。


「いいですか、特にカーマ。あなたに言っておきますね」


 【魔導】機関車の中で、3人は【認知阻害】の【魔術】が込められたサングラスをかけながら、ミリアはカーマに喋りかけた。


「【池袋】は、今、【東響】に顕現してる迷宮(ダンジョン)の中でも最も簡単故に、人気の高い場所です」


「踏破されてないのに、簡単なんて言っていいのかい?」


 ミリアの言葉に違和感を持ったレンジが口を挟むとそれに対して、彼女は丁寧に答えた。


「踏破されない、のではなく、してないが正しいですね。迷宮(ダンジョン)は踏破すると魔物の出現率が低くなります。今でも出現率が高いまま魔物を定期的に狩る必要があるのは【ゲヘナ】だけです」


 【第六天魔王マーラ】、彼女が現れた最初の迷宮(ダンジョン)、【ゲヘナ】。


 そこだけが今尚、魔物の出現が治ることを知らずに、年々数を増しているため、WAAは定期的に、A級以上の【冒険者】に【ダンジョン配信】を行わせ、その数を減らしていた。


「なるほど。あ! じゃあ、【池袋】は魔物の出現率が高くて【魔石】が落ちやすいってことか!」


「正解です、師匠、流石ですね。初心者、雑魚専、【魔石】の転売、【魔石】商売、様々な目的で【冒険者】が集うのが、【池袋】という迷宮(ダンジョン)なのです。僕が渋い顔をしたのは、ここを立ち入り禁止には出来ないので、どうにか早めに【魔王】を討伐しなければなりません」


「それで〜? なんで俺が気をつけなきゃ行けないんだよ」


 マーラは【魔導】機関車のウキウキしながら、横に流れる外の景色を眺めており、ミリアに尋ねた。


「あなた、目立ちたがり屋でしょう」


「そりゃそうだな」


「そういうところです。僕達はあくまで、隠密で【魔王】を討伐することが目的なので、そこのところ分かって下さいね」


「あいあいさー、ミリアお姉ちゃん硬いね~」


 ミリアの言葉を軽く流しつつ、マーラは外の景色を眺め始めた。


(動画の【配信】なんてやってる時点で、隠密にもクソもあるかっての。やっぱり、WAAの上には、ゲーテがいるな。上手いこと、【権能】で人間の認知を歪ませて全く。これだから、ゲームは面白い)


 マーラは彼らの意識の矛盾点に気付いていたが、それについて口を噤んでいる。


 何故、彼らにそのことを伝えないのか。

 それはその方が面白いからという、利己極まりない理由。


 そんなことをレンジとミリアは知る由もない。


 【魔王】の魔の手が迫り寄る、混沌蠢く【池袋】の地、レンジ達はそこへ自らの意志で踏み込んでいく。

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