24、エルシーがいるから
「よくやってくれた。まあ多少は街と村を襲われはしたが、幸いほとんど被害は出ていない。『炎舞』とユーリくん、エルシーくんには礼をいう。本当にありがとう」
ミーロン・エンカーダが満面の笑みでいう。
彼にしてみれば、雑魔発生から数日で解決、そして『炎舞』と僕、エルシーの助力があったとはいえ、騎士団と衛兵の活躍を領民に見せることができたので大満足のようだった。
僕としては推薦状を書いてもらえるだけでありがたい。
「『炎舞』の活躍は目覚ましいものだった。そして、ユーリ、エルシー、きみたちも素晴らしかった。正直、驚かされたぞ」
「ああ、マジで驚いた。あの八顔狼だったか? あれは俺だけじゃ倒せなかった。マジでたいしたガキだぜ、おまえは」
「エルシーちゃんもすごい活躍だったわよ。できれば『炎舞』にスカウトしたいくらい」
「いえ、僕たちは皆さんのお手伝いをさせていただいただけです。解決できたのは『炎舞』とラグナーさんがいたからこそです」
「ホント、『炎舞』とラグナーさんがいてくれてよかったよね。雑魔があっという間に片付いたもん」
僕とエルシーはとりあえず謙遜しておいた。
それは正解だったらしい。
ラグナーと『炎舞』の皆さんがぱあっと笑顔になった。
「ふたりともいい子ねぇ」
「ナデナデしてあげたいです」
「もっと誇っていいんだぞ。シュグラウスにやられそうになった時は助けられたからな」
「うむ、あの時は驚かされた」
うんうん。
こうやって味方を増やしていくことが未来に繋がる。
「ユーリくん、年上の女はどう思いますですか?」
いきなりエリーズが訊いてきた。
「お、やっぱりきた。童顔でなにも知らないようで、実はかなりの肉食系女子エリーズさんが、こんな優良物件見逃すはずないよな」
「え? え? 年上?」
僕はわけがわからず困惑した。
「二二歳の女は対象外ですか?」
「えっ、二二歳!?」
「ははは、どう見ても同い年くらいだろ? けど、幼い顔に反して、男にはかなり積極的なんだぜ」
『炎舞』のひとたちが楽しげに笑う。
どうやらよくあることらしい。
「あ、あの……対象外ではないですけど……」
「じゃあ、私のことを覚えておいてくださいです。エリーズ・ディアロです。いい仕事しますです」
「仕事? えーと、あの、覚えておきます、はい」
エリーズは童顔巨乳でかなり可愛い女の子だった。
なので、僕は顔を赤らめつつ、そうこたえることしかできなかった。
「いてっ!」
僕はいきなりつねられた脇腹を撫でさすった。
見ると、エルシーがプンプンしている。
こればっかりはどうしようもないんじゃないかな……と思いつつ、エルシーがヤキモチを焼いてくれていることが嬉しくなる。
「ところで、推薦状の方は……」
「ちゃんと用意してある」
ミーロンは机の上の推薦状を差し出した。
僕は受け取り確かめた。
うん、まちがいなく推薦状だ。
これでリウーカ学園に復学できる。
「その実力だったら復学なんかする必要ねーだろ。どうだ? 『炎舞』に入らねーか?」
「このふたりが入ってくれれば一級も夢じゃないな」
「特級も目指せるです!」
「いや、どうせならうちに来ないか? おまえらが来てくれれば炎竜騎士団の将来も安泰だ」
「過大な評価、ありがとうございます。まだ学びたいことも多いので、もう少し学園で頑張ろうと思います」
「そうか、残念だな。冒険者になりたくなったらいつでも『炎舞』を呼んでくれよ」
「騎士になりたければ、エンカーダの許へ来い。歓迎するぞ」
最後は全員と握手をして別れた。
*
転移の魔法陣が描いている修道院の前で降り立つと、エルシーが話しかけてきた。
「変だと思わない?」
「思う」
八顔狼のこと、そして人間も魔族も弱すぎることをいっているのだと、すぐに察した。
「人間も魔族もやけに弱い。腐呪王の再臨が近い。どっちも理由がわからない」
「人間と魔族が弱くなった理由は、魔王が封印されたからで説明がつくかもしれないけど、腐呪王に関してはよくわからないね」
「なんだかやらなきゃいけないことが増えたみたいでうんざりだよ」
「まあ、仕方ないね。それより、早く実家に帰りたいんだけど」
「あ、そうだったね。ふふ、ユーリの両親と兄弟姉妹に会えるのが楽しみだなあ」
そう言って微笑むエルシーをどうやって紹介しよう。
友達?
仕事仲間?
……ま、いいや。
向こうに着いてから考えよう。
*****
夜、客で賑わう酒場に、錬丹術担当のベルク・ガーシュインとケイシー・ディシャナがいた。
「そろそろ話してもらえませんか? 特に仲良くもない私を呼び出したのは、なにか話したいことがあるからでしょう?」
ケイシーがいった。
「ああ、実はリウーカ学園を辞めようと思ってる」
「なぜ?」
「あのふたりが帰ってくる」
「ユーリとエルシーですか?」
「あのふたりに怪しまれて調べられたら、さすがに隠しおおせないだろうからね」
「隠す? さっきからなにをいってるんです?」
ベルクは隠密魔法を自身とケイシーにかけた。
それに対して、ケイシーは誰にも話を聞かれたくないのだろうと思っただけで、なにもいわなかった。
「たしか一年半、いやもっと前だったかな、三身合一の行法をしている時、「いと深き方々」から召命され、俺はそれを拝受した」
「「いと深き方々」とは?」
「魔族に名を付けている存在のことだ」
「名を付けているのは魔王や「災厄の王」ではないのですか?」
「違う。「いと深き方々」は魔族とは別だ。神々みたいなものだと思ってくれればいい。とにかく人間とも魔族とも違う高次元の存在に召命された」
「召命ということは、なにか使命を与えられたのですか?」
「世界を動かすことを、だ。具体的にはエルシー・リウーカの転写魔法を成功させて、魔王を復活させることだ」
「……どんどんわけがわからなくなっていきますね。まさか、ユーリ・エルヴェディを『魔界の顎』へ入れたのはあなただっていうんじゃないでしょうね?」
「そのまさかだ。いろいろと大変だったんだぞ。リンとエイシャ、ルカの幽体に俺の陽身を融けこませたり、トカゲを使って悪想念を集めたりな」
「……詳しく問い質したいところですが、後にしておきます。エルシーの話によると、魔王はいずれ封印を破ることができていたのでしょう? なぜわざわざ敵であるエルシー・リウーカの後継者を生み出す手伝いをしたのですか?」
「「いと深き方々」は魔族の勝利を願っているわけではない。逆に人類の勝利を願っているわけでもない。ただ争わせたいだけだ」
「争わせてなにをするというのですか?」
「さあな。そこらへんは自分で調べてみろ」
ベルクはそういってワインを飲み干した。
「すまんがリンとエイシャ、ルカに謝っといてくれ。おまえたちは悪くないってな。ま、キース・エスヴァインはどうしようもないがな」
「キース? 伝えておきましょう。それより、学園を辞めてどうするつもりなのですか? どうにも悪い予感しかしませんが……」
ケイシーは緊張の面持ちでベルクを見つめた。
収納魔法で杖を取り出し、右手に持った。
「止めろ。この身体は陽身だ。生身じゃない。殺しても中から目蓋と口を縫い合わせたトカゲしか出てこないぞ」
「こたえてください」
「お前の想像どおりだ。俺は名付きの魔族になる」
「魔族になってどうするのです?」
「この世界の真実を教えてもらう」
「真実?」
「それも自分で調べろ。そろそろ俺は行く」
「なぜ私に話したのですか? それほど親しいわけではなかったと思うのですが」
「おまえが一番冷静に話を聞いてくれそうだったからな。これから大変だろうが、ま、頑張ってくれ。じゃあな」
ベルクはそういうなり、煙のように消えてしまった。
テーブルの上には、ワインの入っていたグラスと、それぞれ目蓋と口を縫い合わされたトカゲが一匹ずつ。
トカゲはサササッと動いて、どこへともなく消え去った。
隠密魔法のおかげで、ひと一人が消えたのに誰も騒がなかった。
(なんともややこしいことになったものだ)
だが、こうなってしまったものは仕方がない。
急いだところでベルクを見つけ出せるわけでもないし、明日、学園長に話そう。
「いと深き方々」とやらのことも、エルシー・リウーカに訊けばわかるだろう。
*****
実家では両親も兄弟姉妹も涙ながらに大喜びしてくれた。
再会の後、エルシーを紹介すると、結婚相手を連れてきたと思われて大騒ぎになったのも、それはそれで楽しい出来事だった。
家族全員で夜遅くまで尽きることなく話をし、その日は泊っていった。
翌日、引き留められたが事情を説明し、リウーカ学園へと戻った。
すると、すぐに学園長に呼び出され、ベルク・ガーシュインが名付きの魔族になるといって学園を辞めたことを知らされた。
「「いと深き方々」について、なにか知っているか?」
「そういうのがいるってことは知ってるけど、深くは知らない」
それがエルシーのこたえだった。
嘘ではない。
エルシーに「いと深き方々」とやらと闘った記憶はない。
「ふむ……。で、これを聞いて今後、どうするつもりか聞かせてもらえるかね?」
学園長が僕とエルシーに問うてきた。
僕はエルシーと目を見交わした。
「「いと深き方々」については、これから皆で調べていきましょう。もしかしたら古文献に書かれているかもしれませんし。それ以外については、やることは変わりません。情報収集と魔族の退治、それと大陸全土の冒険者の強化です」
「冒険者の強化?」
「はい」
できるだけ多くの冒険者を鍛え上げて強くする。
そうしないと、また一〇〇年前のように僕とエルシーが大陸中を飛び回って、魔族と闘い続けることになる。
そうならないようにするためには冒険者や騎士たちだけで、せめて八顔狼レベルは対処できるようにならないといけない。
かなり大変な作業になるけど心配はしていない。
なぜなら、僕にはエルシーがいるから。
エルシーとふたりならなんだってできる。
僕は待ち受ける未来に対して、大変だなと思うだけでなく、心からワクワクするのを感じるのだった。
第一部・完
大急ぎの感は否めませんが、とりあえずこれで終了です。
ありがとうございました。




