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23/24

23、戦闘終了

「うわあっ、雑魔が降ってきた!」

「助けて!」

「皆、家の中へ非難しろ!」

「嫌あっ!」


 村では突如降ってきた数十匹もの雑魔の群れから、人々が逃げ惑っていた。

 駐在していた騎士たちが必死に応戦していたが、雑魔の数があまりに多く、混乱は増すばかりだった。


「いったい、なにがどうなってるんだ!?」


 魔物と闘いなれた騎士たちも雑魔との乱戦は初めてで、どう対処すれば良いのか計りかねている様子だった。


「ぐういぃぃぃい……」


 スライム状の身体に、所々、人間の手足や目、耳、口などを纏わせている雑魔がなにやら呻いたかと思うと、いきなり、


 ボンッ!


 破裂した。


 周囲に粘液が飛び散り、村人と騎士の皮膚に張りついた。


「嫌っ、痛いっ!」

「ううっ、皮膚が、溶ける!」


 粘液に触れた部分が、ジュウッと音を立てて溶け始めた。

 そして、溶けた皮膚や肉を粘液が喰らっていた。


「えーん、助けてー、ママー!」


 まだ一〇歳にも満たない少女が、全身が眼球だけでできた雑魔に抱きつかれ、泣き叫んでいた。


「その娘から離れろ!」


 若い騎士が眼球雑魔に斬りかかったが、剣が届く前に別の雑魔の腕が、騎士の首に絡みついた。


「ぐうっ、このっ、くああっ!」


 腕を引き剥がそうとしている間に、両足に噛みつかれてその場に倒れてしまった。


「ダメだ、数が多過ぎる……」

「バカ野郎! 俺たちが弱気になってどうする!」


 そうやって鼓舞する年配の騎士もまた、不安の色が隠せないでいた。

 村人たちを守るために駐在していた二〇人の騎士全員に、守り切れないかもしれないという恐れを抱いた。


 と、その時、


「『火柱』!」

「「『神霊憑依』!」」


 ラグナーとエルシー、『炎舞』が到着した。


「おお、ラグナーさん!」

「『炎舞』も来てくれたぞ!」


「おまえら、よく頑張った、あとはまかせろ!」

「「「「「「「「「おおっ!」」」」」」」」」


 騎士だけでなく村人たちも一気に活気づいた。

 皆の顔に希望の火が灯った。


「うおおお!」


 カラムの剣が雑魔を斬り裂き、キリトの短剣が息の根を止める。


「えーん、助けてー!」

「もう大丈夫よ」


 先ほど、眼球雑魔に襲われていた少女を、アレシアが抱きしめた。

 眼球はすべて火に焼かれていた。


「『治療』!」

「す、すみません、助かりました」


 両足を噛みつかれた騎士が安堵の表情を浮かべる。

 どちらも着いた早々に、アレシアとエリーズの魔法で助けられていたのだ。


 一方、エルシーはキョロキョロと周囲を見回していた。

 彼女も到着するなり、雑魔へ神霊憑依をかけていた。

 が、それはここから少し離れた場所で村人を襲おうとしていた雑魔数匹にかけたものだった。


「ここは『炎舞』にまかせて大丈夫かな?」

「ああ、これくらいならなんとかなる。いや、してみせるさ」

「だったら、私は街の方へ行くよ」

「きみが? 大丈夫か? いや、たしかに山童を倒した手並みはたいしたもんだったが……」


 ラグナーが疑問を呈した。

 それも無理はない。

 エルシーはどう見ても強さとは無縁の、ごく普通の少女なのだから。


「だったら私も行くわ」


 そういったのはアレシアだった。


「え?」

「この分じゃ街も大混乱だろうし、ひとりでも多くいた方がいいでしょ?」

「……わかった。急ごう。『飛行』」

「『飛行』」


 エルシーとアレシアは宙に浮いた。


 もちろん、エルシーはアレシアのちからを必要としたわけではない。

 ただ、彼女と協力して雑魔を退治した方が、目立たずにすむと思ったからだった。


「街は頼んだぞ!」

「まかせて!」


 ふたりはウィンダルへ飛んだ。


          *


「フェールさん!」

「おう!」


 フェールが剣を一閃、八顔狼の顔面を斬り裂いた。


「ウオオオオン!」


 苦痛の悲鳴をあげる八顔狼。

 その間にも、


「フェぇぇぇる、どうしたの、その顔?」

「え?」

「皮膚が爛れ……でじぇっ!」


 僕は鉄拳制裁を加えて最後までいわせない。

 そしてすかさず距離をとって、後方支援の態勢に戻る。


 さっきからずっとこんな感じだった。

 聞くなっていってるのに、フェールは八顔狼の発するすべての言葉に反応していた。


 僕が助けなかったら、今頃フェールは腐肉の塊と化しているはずだ。


(悪いひとじゃないのはわかるけど……)


 そろそろ倒してくれないかなあ。


「グオオ……ロオォ……」


 八顔狼がふいによろめいた。

 僕の衝撃魔法が効いたのだ。


「へっ、ようやく俺の攻撃が効いてきたみたいだな」

「あっ、はい」


 まあ、こういうひとばかりだと、面倒くさいけどごまかすのは簡単でいいかな。


「フェールさん、あと一息です、頑張りましょう!」

「まかせとけ!」


 ホント、返事は最高なんだけどなあ……。


          *


「『神霊憑依』」

「『火柱』」


 エルシーとアレシアはウィンダルの中央広場に着くと、すぐさま雑魔退治に乗り出した。

 村とくらべると雑魔は少ないものの、かわりにひとが多いので、急がないと犠牲者の出る怖れがある。


「きゃあっ、助けて!」


 女性の悲鳴があがると同時に、エルシーが『縮地』で駆け付け、雑魔を両断した。


「お姉さん、心配しなくても大丈夫だよ。『炎舞』のひとがいるからね」


 エルシーは微笑んだ。


「あっ、危な……」

「『火柱』!」


 エルシーが振り返ると、背後で一匹の雑魔が燃え上がっていた。


「エルシーちゃん、油断は禁物よ」

「ありがとう、アレシアさん」


 エルシーは礼をいった。

 もちろん、雑魔がいることはわかっていた。

 アレシアにわざと助けさせることで、自分たちとそんなに変わらない強さであると思わせようとしたのだ。


 ふたりは高く飛び、ひとに襲っている雑魔を見つけては退治し『治療』した。

 といっても、すでに衛兵がかけつけており、その補助をするくらいで充分な様子だった。


「もう私たちがいなくても問題なさそうだね」

「村も大丈夫だろうし、心配なのはフェールとユーリくんのとこくらいね」

「あ、そっちは大丈夫だよ。今頃はもう終わってるはず」

「信頼してるのね」

「うん、ユーリは最……、まあ、フェールさんもいるし負けることはないと思うよ」


 エルシーは思わず最強といいかけたところを、なんとかごまかした。

 なんだかんだでユーリも上手くやってくれるだろう。

 フェールというひとも、勘の鋭いタイプじゃなさそうだし。


 そんなことより、腐呪王の先触れたる眷属があらわれたことが気になった。

 いくらなんでも早すぎる。

 魔王の復活がそれだけ近くなっているのか、あるいは別の要因があるのか。


 今はまだエルシーにもわからなかった。


          *


「トドメだ、ぬおおおおおお!」


 フェールが剣を振り上げ、八顔狼の頭部に打ち下ろした。


 ガツンッ!


 剣が頭蓋を叩き割る音が鳴り響いた。


「グロロ、オォォ……」


 八顔狼が倒れた。

 八つの顔もすべて斬り裂かれており、もはや言葉を発することはない。


「ふーっ、なんとか勝ったな」

「フェールさんのおかげです」

「いや、ユーリの援護がなきゃ勝てなかったぜ。まったく、たいしたガキだ」


 フェールは剣を納めると、右手を差し出してきた。


 僕はその手を取り、固い握手を交わした。

 想像以上に上手くいったのが嬉しくて、思わず笑顔になった。


 すると、フェールも最高の笑みで返してくれたのだった。

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