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21、呪詛魔法

 僕たちは森の中心付近に来た。


「どこにあるんだ? いっとくが隠蔽魔法も調査済みだ。どこにもかけられている様子はなかったぞ」

「私とエリーズの感知魔法でも見つからなかったわよ」


 ラグナーとアレシアが疑わしげにいう。


「たぶん、シュグラウスよりレベルの高い名付きの魔族がかけたものだと思います。だから見つからなかったんでしょう」

「で、どこにあるんだよ?」

「ここです。『隠蔽解除』」


 すると、僕のすぐ傍の空間に、光の筋と落雷のような音が無数に走り抜けた。


「うわっ!」

「な、なんなの!?」


 皆、反射的に後ろへ跳んで逃げた。


 数秒後、音と光が止んだ。

 その代わり、奇妙な物体があらわれた。


「こ、これは!?……」

「人間なの?」


 それはたしかに人間の形をしていた。

 胡坐を組んですわりこんだ、やけに腹の膨らんだ男。

 目玉はなく、かわりに蛆のような蟲が無数に蠢いている。

 鼻と口、耳からも蟲が湧き出ている。


「ごぼっ」


 男が咳き込み、蛆が飛び散った。


「ひっ」


 エリーズが悲鳴をあげた。


「なんだこりゃ?」

「エルシー、これって……」

「うん、呪詛魔法だね」

「呪詛魔法!?」


 僕とエルシー以外の全員が驚きの声をあげた。


「たぶん、この腹の中に呪物を入れてあるんだと思います。こんなことするのは嫌だけど……」


 信じがたいことだけど、このひとはまだ生きている。

 すでに正気を失ってしまっているのが、かえって救いとなっている。


 僕は剣を抜き、腹を縦に斬り裂いた。

 すると、中からなにかの塊と蟲がゴボリと溢れ出た。


「……骨?」


 出てきたのは指の骨のようだった。

 おそらくは人間のだろう。


「相当な恨みを残して死んだひとの骨を、このひとのお腹の中に埋め込んで呪詛魔法をかけて、瘴気や悪想念を集めた。あとは放っておいてもこの大地と森から生まれる魔力を吸って、自動的に雑魔が生まれることになる。そこへ、名付きの魔族が隠蔽魔法を施したんだと思います」


「この蛆みたいなのが雑魔に変化するようになっているのか」

「で、このままこれを見つけられずにいたら、魔力を吸い尽くされて森が死んでたかもしれないってことか」

「ちょっと待て。それじゃなにか? 人間と魔族が協力したってのか?」

「だと思います」


「おいおい、だとすると、本当に魔王崇拝の連中が関わってるかもしれないのか?」

「そこまではわかりませんけど」


 ただ、この類の仕掛けは見覚えがある。

 エルシーの記憶の中にあった。


 ちらっとエルシーを見た。

 彼女も難しい顔をしている。


 やっぱりあれを思い出すよなあ。


「『天使の牢獄』」


 僕は呪物を仕掛けられたひとを、蟲もまとめて光の球で包み込んだ。


「皆さん、少し離れてもらえますか……ありがとうございます。大変でしたね。あなたを解放します。『神霊浄化』」


 光が輝きを増し浄化されていく……かと思いきや、いきなり光球が闇に包まれた。


「なんだ!?」

「まだ他に魔族が!?」


 ゆっくり驚いている間もなく天使の牢獄が破られ、呪物を仕掛けられた肉体が爆発四散した。

 それとともに蟲も辺り一帯に飛び散った。


「きゃあっ!」

「くっ、やはり魔族か!」


 フェールとカラム、ラグナーがすかさず剣を抜いた。


「ラグナーさん、『炎舞』の皆さん、村へ行ってください」

「村へ? なんでだ?」

「今の爆発で蟲が村の方へ飛んでいきました。もしかしたら街にも届いたかもしれません。すぐに退治しにいってください」


「マジか!?」

「そりゃやべーな。アレシア、エリーズ!」

「「『飛行』!」」


 ふたりの飛行魔法で、『炎舞』とラグナーが宙に浮いた。


「おまえらはどうするんだ?」

「僕たちは今からこれの相手をします」

「これ?」


 フェールの疑問にこたえるかのように、僕の目の前に闇球が生まれた。

 すぐに闇は消え、かわりに大きななにかがあらわれた。


 成牛ほどの大きさの狼。

 身体のあちこちに苦しげに歪んだ人間の顔があり、そのどれもが涙と涎を垂れ流している。

 牙が見え隠れする大きな口からは、強烈な腐臭が漂ってくる。


「やっぱりなあ」

「私、この子たちが一番嫌いなんだよね」



「災厄の王」の一柱、腐呪王ふじゅおうの眷属だった。

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