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18/24

18、仲良くしたかったのに……。

 僕とエルシーは修道院の修業用地下室に着くとすぐに外へ出て、飛行魔法でエンカーダ伯爵領の城塞都市ウィンダルの外壁前まで一気に飛んだ。

 すでにリウーカ学園から連絡があったらしく、検問所で待機していた若い衛兵に城まで案内してもらった。


          *


「…………本当にきみたちがリウーカ学園から派遣されてきたのか?」


 執務室で僕らを出迎えた領主ミーロン・エンカーダ伯爵が、あからさまに疑いの目で僕とエルシーを見た。


 ミーロンは御年六〇歳。


 やや贅肉はついているもののまだまだ壮健で、若い頃は冒険者学校を卒業後、数年間、冒険者をしていたこともあるらしい。


「僕はユーリ・エルヴェディ、彼女がエルシー・リーアです。ふたりとも一七歳です」


 本名をそのままいうわけにはいかないので、あらかじめリーアという偽名を使うことに決めていた。

 また、次元の狭間にいたから僕の肉体年齢は一六歳だけど、一七歳でも特に問題はない。


 エルシーの場合は年齢をどう数えればいいのかよくわからなかったけど、肉体年齢は間違いなく一七歳なのでそういうことにしておいた。


「本当に闘えるのか? 今朝あらわれた雑魔はかなり強かったぞ」


 ミーロンの脇に立っている若い男がいった。

 ラグナー・エンカーダ、二七歳。

 エンカーダ家の次男で、対魔族戦に特化した炎竜騎士団の団長を務めている。


 北方ディア山脈を挟んで国境を接するシーグリア公国の冒険者学校を卒業しており、案内してくれた衛兵の話によると、実力は充分にあるらしい。


「はい。その点はおまかせください。それより早いとこ元を絶ってしまいましょう」

「その元が見つからないから苦労してるんだ」

「じゃあ急がないといけませんね。早速、探しにいきたいのですが」


 僕は急かし気味にいった。

 正直なところ、さっさと終わらせて、早く実家に帰って父さんや母さん、兄弟姉妹と会いにいきたかったのだ。


「父上、本当に良いのですか? どんなに才能があっても、一七歳なんてエルシー・リウーカでもなけりゃ、騎士見習いにもなりませんよ」


 そのエルシー・リウーカがここにいますよ、なんてことはもちろんいえない。


「まあ、来てしまったものは仕方がない。案内してやってくれ」

「はぁ……おまえら怪我しても知らんからな」

「はい、大丈夫です。それより解決したら推薦状を書いていただけますか?」

「その話も聞いている。約束しよう」

「よろしくお願いします」


 ということで、僕とエルシーは渋るラグナーの案内で、雑魔が出るというウィンダル城から北東にある森の近くへ向かった。


     *


「ラグナーさん、なんでそんな子供ふたりを連れてきたんだ? 騎士見習いか?」


 到着した場所には五人の男女がいた。

 いち早く冒険者ギルドから派遣された『炎舞』のひとたちだ。

 その中のリーダーらしき男が、僕らを見るなりそういった。


「リウーカ学園から派遣された冒険者だ」

「「「「「はぁ!?」」」」」


 五人全員が驚きの声をあげた。


「おいおい、いくらなんでも若すぎるだろ!? おい、歳はいくつだ?」

「ふたりとも一七歳です」

「一七!? ったく、リウーカ学園の推薦というから、てっきりブラム・リークかケイシー・ディシャナ辺りが来ると思って楽しみにしていたというのに、あらわれたのは身の程知らずなガキふたりとはな」


 二十代半ばくらいの精悍な顔つきの男が呆れたようにいった。

 このひとがリーダーかな。

 他のメンバーもだいたい同じ反応だ。


 まあ、それも無理はない。


 男は楽しみにしていたといったけど、実際は違うと思う。

 これから仕事という時に、いきなり別の人間が来て成果をかっさらおうとしているのだ。

 反発しないわけがない。


 おまえらだけじゃ無理だといわれているようでもあるし、冒険者としてのプライドも傷つけられたように感じているだろう。


 そこへ僕らみたいな若すぎるふたりがきたものだから、拍子抜けしたってところかな。


 とりあえず丁寧に挨拶して、できるだけ悪い印象を与えないようにしよう。


「ユーリ・エルヴェディとエルシー・リーアです。よろしくお願いします。御心配には及びません。僕らはエンカーダ伯爵に推薦状を書いていただきたいだけなので、僕らが解決しても『炎舞』の皆さんがやったことにしていただいてかまいません。なので仲良くやりましょう!」


 僕は精いっぱい友好的に振る舞ったつもりだった。


 なのに……。


 なぜか『炎舞』のひとたち全員のこめかみに、リークの時と同じ青筋がビキッと浮き上がった。


「ふふ、ふふふ……完全に俺たちのことは眼中にないということか」


 リーダーの男は血が出そうなくらい強く拳を握りしめている。


「おいフェール、『炎舞』がここまで嘗められたのは初めてだぞ」

「しかもこんなお子様ふたりに……いくら温厚な私でもいらっときましたわ」

「むかつきましたです」

「俺が今ここで身のほどって奴を教えてやるか?」


「ええっ、なんでそんな反応なの!? あ、あのっ、全然嘗めてませんよっ! たださっさと終わらせて帰りたいなって思ってるだけで……」

「さっさとだと!? 俺たちが二日がかりでもまだ見つけられていないというのに……」

「とことんバカにするつもりなのね」

「ですから、そんなつもりじゃ……」

「……いいだろう! その喧嘩、買ってやる!」

「ええっ!? 喧嘩!? いや、誰もそんな……」


「あはははは! 面白い! ユーリ、これは負けちゃいられないよ。急いで雑魔の元を絶ちにいこうよ」


 エルシーが心から楽しそうに笑っていった。

 その笑い声が、さらに『炎舞』のひとたちの怒りを煽り立てる。


「ラグナーさん、『炎舞』はこれより任務遂行に移らせてもらう」

「あ、ああ、頼んだ。信頼しているぞ」


『炎舞』のひとたちは僕とエルシーをキッとにらみつけると、森の中へ入っていった。


「おまえら、冒険者パーティーを挑発するなんざ命知らずにもほどがあるぞ」

「そんなつもりなかったんですけど……」

「あの言い方でか? 自分たちが解決してもそっちの手柄でいいなんて完全に嘗めてるだろ」


 ラグナーは完全に呆れている。


「まいったなあ。僕は仲良く協力していきたかったのに」

「フフッ、いいじゃないか。ただ単に雑魔を退治するよりよっぽど面白いよ」

「面白くないよー」


 けど、エルシーは僕がこの手の失敗をすると、楽しそうにしてくれるような気がする。

 リーク先生との時がそうだったし。


 なんだか、これからもこんな感じでエルシーを喜ばせてしまいそうだ。


「ラグナーさん、僕らも行っていいですか?」

「ああ、俺も一緒に行く。リウーカ学園の者を怪我させるわけにはいかんからな」

「それはどうもありがとうございます」


 正直、いない方がありやすいんだけど、こればかりは仕方がない。

 僕らは三人で森へ向かった。

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