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16、あの日の真実

「ええっ!? ユーリくんが帰ってきたの!?」

「本当か!? 本当にユーリが、あの『魔界のあぎと』から!?」


 喧騒に満ちた教室の中、リンとエイシャは愕然とした表情で訊き返した。


「うん、すごい騒ぎだったんだぜ。あの落ちこぼれだったユーリが『魔界の顎』から帰ってきたと思ったら、いきなりリーク先生と決闘するんだからな」

「しかも、勝っちゃったんだ!」

「ユーリがリーク先生に勝った!? 冗談はやめてくれよ!」


 ルカもまた信じられない様子でいった。


「冗談だったらこんな騒ぎになってないわよ。ホント、すごかったんだから!」

「なんであんなに強くなったのかな? 『魔界の顎』に入ったおかげなのかな?」

「あんなに強くなれるんなら、俺も『魔界の顎』に入りたいよ」

「ユーリくん、ちょっと格好良かったね」


「記憶はどうだったの? 『魔界の顎』から帰ってきたひとたちは全員、入ったことも忘れちゃってるんでしょう?」

「そこまではわからないよ。先生たちが教えてくれないから」

「それより、一緒に連れてた女の子、すごく可愛かったわよね」

「うんうん、華奢で男の子っぽくて、なのにすごく女の子らしいっていうか……」

「くそっ、ユーリの奴……」


 同級生たちの話はいつまでも続く。

 それだけ好奇心をそそる出来事だったのだ。


 一方、さっき冒険者ギルドでの実習から帰ってきたばかりのリン、エイシャ、ルカはまだ呆然としていた。


 ユーリが帰ってきた――。


 それだけでもショックを受けるのに充分だ。

 なにしろもう帰ってこないと思っていたのだから。


 三人は同級生たちから離れた。


「リン、エイシャ……」


 ルカがそれだけいって口を閉ざした。

 他になにをいえばいいのか思いつかなかったのだ。


「よかった……生きてたんだ……」

「ああ、本当に……よかった……」


 リンとエイシャも言葉が続かない。

 ユーリが『魔界の顎』で姿を消して以来、ずっと罪悪感に苛まれてきた。


 あの日に起こったことは、一生忘れられない。


     *


 ズウン……。


 『魔界の顎』の石扉が完全に閉じられた。


「やっちまった……」

「本当にこれでよかったのか?」

「やるしかなかったんだ。俺たちがのし上がっていくためには」


 ユーリを陥れたジル、ギラサ、スティーカはやってしまったことの重さに怯えていた。


 そして、リンとエイシャ、ルカは……。


「うっ……なに? なにがあったの?」

「うう……頭がボーッとする……」

「なんか気持ち悪い……」


 一様に頭を抱えて気持ち悪そうにしていた。


 その様子を見たジルたち三人は互いに目を見合わせ、意思を確認するように頷きあった。


「ん? どうしたんだ、おまえら?」


 ルカがジルたちの様子に気づいた。


「あれ? ユーリくんはどこに行ったの?」

「さっきまで『魔界の顎』を覗いてたはずだけど……」


「なにいってんだ、ユーリならたった今、『魔界の顎』に入っちまっただろうが」

「はあ!? おまえこそなにいってるんだよ。『魔界の顎』にって、冗談にも程があるだろ」

「実際に入っただろうが! おまえら、助けを求めるユーリを見て爆笑してたじゃねーか!」

「爆笑? あたしたちが? いい加減なこといってんじゃねーぞ!」


 激高したエイシャが、ジルの胸倉をつかんだ。


「うぐっ、そうやってごまかす気か?」

「なにをごまかすっていう……くっ……」


 エイシャはふらついて、頭に手をやった。

 その隙に、ジルがエイシャの手を払いのけた。


「へっ、とぼけるのが上手い連中だな」

「だからなんのことだ!」

「まだごまかす気か? リン、エイシャ、ルカ、ユーリを突き飛ばしたのはおまえら三人じゃないか!」


「はぁ??? あたしたちがユーリを突き飛ばした!?」

「ジルくん、変なこといわないで! なにがあったのか教えてよ!」

「おまえら、もしかしてなにか……」


 ルカは最後までいい終わる前にハッとした表情を浮かべ、うなじに手をやった。

 同様にリンとエイシャもまさか、という表情になり、同様にうなじに触れた。

「どうした? もしかして、傀儡くぐつ魔法にでもかけられたと疑ってるのか?」


 ギラサがニヤニヤしながらいう。


 傀儡魔法とはその名のとおり、ひとを自在に操る魔法のことである。

 ただし、そのためには対象者の気を失わせる必要がある。


 傀儡魔法を使うのは、主に暗殺者や忍者といった隠密系の者たちだ。

 彼らは対象者を気絶させるために、首筋に針を打つことが多い。

 なので、三人は自身のうなじに触れて確かめたのだ。


「針なんか刺さってねーだろ?」

「つーか、卑怯な奴の考えることは同じだな。傀儡魔法で操られたっていえばごまかせると思っていやがるんだからな!」

「そんな人間にはなりたくねーなあ」


 ジルたち三人はそういって大笑いした。


 リン、エイシャ、ルカはジルたちをキッとにらみつけた。

 たしかに傀儡魔法ではなさそうだ、と三人は思った。


 では、いったいなにをされたのか?


 三人の知識と経験ではわからなかった。


「おまえらの仕業か!」

「俺たちがなにをやったっていうんだ?」

「だいいち、おまえらも『魔界の顎』を見ることに賛成しただろーが!」


「……本当にディシャナ先生が鍵を貸してくれたのか?」

「さあな」

「こいつ!」


 エイシャが再びジルの胸倉をつかんだ。


「なんだ、暴力か? いいぜ、殴れよ。そのかわり、おまえがどんなに優秀でも即退学だ」

「くっ……」


 エイシャは手を放した。


「いったいあたしたちになにをやった?」

「傀儡魔法でなくても、なにかをやったはずだ!」


 ジルたちはニヤニヤ笑うばかりでこたえようとはしない。


「そういえば、ジルくんが鍵を取り出した辺りから、なにがあったのかよく覚えてないんだけど……」

「あたしもだ」

「俺も」


 三人はユーリを陥れようなどとは、露ほども考えていなかった。

 純粋にユーリとの別れを惜しみ、最後の迷宮探索を楽しむつもりだった。

 それも当然だった。

 なにしろユーリは大事な親友なのだから。


「おまえらがこんなことできるはずないのはわかってる。これを仕組んだのは別の人間だろう。いえ、誰に命じられたんだ!?」

「おいおい、なにいってんだ。最初にユーリを『魔界の顎』に突き飛ばしてやれって小声で囁いたのは、ルカ、おまえじゃないか!」

「はぁ!?」


「そうそう、俺も聞いたぜ」

「俺たちはやり過ぎじゃないかっていったのに、ルカがどうしてもやるって聞かなかったんだよな」


「このっ……」


 ルカがたまらず殴りかかろうとして、リンとエイシャに止められた。


「……キースだな?」


 エイシャが静かにいった。


 一瞬、ジルたちの顔が強張ったように見えた。


「さあな」

「ふん。もう充分だ」


 ジルたちは動揺が見え隠れしているものの、まだ笑みを浮かべ続けている。

 虚勢を張っているつもりなのだろう。


「石扉の鍵はどう説明するつもりだ? どうせキースが盗み出したんだろうが」

「おまえらが持ってきたんじゃないか。まさか俺たちのせいにするつもりか?」

「!? ……おまえら、とことん腐りきってやがるな」


「じゃあ、どう説明するんだ? 俺たちは全部、おまえらがやったと証言するぜ」

「そっちは好きに証言しろ。どっちが認められるか試してみようじゃねーか」

「なんでそこまで酷いことができるんだ!」

「なんとでもいえ。俺たちはもう覚悟を決めたんだ」


 ジルの顔からニヤニヤ笑いが消えた。

 言葉どおり覚悟を決めたらしいことがうかがえた。

 他の二人も同様だった。


「退学になった落ちこぼれとはいえ、『魔界の顎』に突き飛ばしたとなれば、誰であろうと罰は免れない。最低でも退学処分は間違いないだろう。リン、おまえはリウーカ学園を退学になったらどうするんだ?」

「すでに求婚者が殺到してるらしいじゃないか? そういや、その中に五〇過ぎのシスーラ伯爵もいるらしいな?

「そりゃお似合いだ、ハハハハ!」


「くっ、てめーら!」

「おまえもだ、エイシャ。魔法剣士になって大陸中を旅してまわりたいなんていってるが、退学になったらリンと同じで、年寄り貴族に嫁ぐことになるんじゃねーのか?」

「っ!?……」


 エイシャは言葉に詰まった。

 リンもなにもいえないでいる。

 ジルたちの指摘どおりなのだ。


「ルカ、おまえはもういうまでもないよな? 貧乏男爵の長男が退学なんてことになったら、両親がどれほどがっかりするかな」

「……」


 ルカもまた、なにもいいかえせなかった。


 ルカたちはジルたち三人ではなく、彼らの背後にいるであろうキースを恐れていた。

 エスヴァイン侯爵家はラドバード聖王国有数の名門貴族で、その影響力は計り知れない。

 毎年、リウーカ学園に多額の寄付金を納めてもいる。


 リンとエイシャの家も名門なので、すべてを自分たちの仕業にされることはないはずだ。


 だが、もしかしたら……。


 三人はその怖れを振り払うことができなかった。


 それに、キースとジルたちを手助けした者も無視するわけにはいかない。

 いくらキースが優秀でも、三人同時に意識を奪い、自在に操るなどできはしない。


 それを可能にした者、あるいは者たち。


 その不気味な存在も恐れずにはいられなかった。


「ユーリが鍵を持ち出して『魔界の顎』を覗き、勝手につんのめって中に入ってしまった。とりあえず俺たちはそう証言してやる。おまえらは後からなんとでも証言するといい。俺たちはおまえらをかばって嘘を吐いたというだけだ」


「……卑怯な。自分で自分が恥ずかしくないのか!」


 ルカがそういうと、ジルたちは一瞬、怒りとも怖れともつかない表情になった。

 が、すぐ無表情になった。


「俺たちは行くぜ。先生にユーリが『魔界の顎』に入って消えたと伝えてくる。おまえらはどうするんだ?」


「…………」


 ルカはリン、エイシャを見た。

 ふたりとも動けずにいる。


「行こうぜ」

「「ああ」」


 ジルたちが背を向けて歩き出した。


 しばらく後――。



 リンとエイシャ、ルカは無言で迷宮の外へ出た。

ブックマークと評価を入れてくださった皆さん、ありがとうございます。

とても励みになっています。


明日からは一日一話ずつの更新となります。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 洗脳系は物語破綻させますよ
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