13、手加減するのって難しい……
「ええっ!?」
「リーク先生が……倒れた!?」
「なんで!?」
「なにがあったの!?」
事態を理解できていない生徒たちが、にわかにざわめきだす。
ディシャナが慌ててリークに駆け寄り、治療魔法を施した。
程なく、リークが目を覚まして立ち上がった。
「お、俺は……負けたのか?」
リークは茫然としていた。
「どうやらそうらしい」
「リーク、あんたは気をたっぷり練りこんだ正拳のカウンターを、まともに喰らっちまったんだ」
ふたりの許へ駆けつけたドリス・ネルムがいった。
「そうか……」
リーク先生は茫然と肩を落とした。
まだ負けてないとか、もう一度とか、見苦しいことをいいだすような真似はしなかった。
「エルシー、人間と闘うのって難しいね」
僕は周囲に聞かれないように小声でいった。
エルシーの戦闘はほとんどが魔族相手だったので、怪我をさせないように手加減する感覚がイマイチつかめていない。
だから、やり過ぎてしまわないかヒヤヒヤものだった。
「魔族と違って全力を出せないからね。でも、気絶しただけで怪我はなかったみたいだし、すごく上手くやったと思うよ」
「うん、安心した」
「ユーリ」
リークが声をかけてきた。
「はい」
「俺はリウーカ学園を卒業してから一七年になるが、人間相手にここまで完璧にやられたのは初めてだ。認めよう。おまえはたしかにエル……むぐっ」
僕は瞬時にリークの口を手でふさいだ。
今、この場でエルシーの能力を受け継いだことを、皆の前で話されるのは困る。
そういや僕とエルシーのことは、学園長と集まった教師以外には黙っておくようにって頼んでなかったっけ。
そうする前にこんなことになっちゃったからなあ。
まったく、脳筋ってやつは……。
「先生、その話はまだ内緒にしておいてください」
「むぐ……わかった」
僕は手を放した。
「ディシャナ先生もお願いしますね」
「もちろんだ」
「なんのことかわからんけど、いつかは教えてくれよ。ところで、勝敗の宣告はしないのか?」
ネルムが僕らに近づいていった。
「む、そうだったな。勝者、ユーリ・エルヴェディ!」
ディシャナ先生が僕を手で指し示した。
そのとたん、校庭中にドッと歓声が湧きあがった。
「すげえ! 本当にリーク先生に勝っちまいやがった!」
「何者なの、あのひと!?」
「嘘だ……あの落ちこぼれのユーリが……」
「俺も可愛い彼女が欲しい!」
「もしかしてユーリくん、実力を隠してたの!?」
「『魔界の顎』で魔族のちからを手に入れたんじゃ……」
「だったら、俺も『魔界の顎』に入って……」
「ええい、黙れ! もう見世物は終わりだ! 今すぐ教室に帰らんと、全員退学にするぞ!」
学園長が叫んだ。
「退学はともかく、きつい罰を与えることは約束するよ」
「順番に腐肉食系の魔物と闘ってもらおうかな」
「粘液系の魔物の処理もやらせるか」
教師たちが次々とペナルティを口にした。
すると、校庭に集まっていた生徒たちが我先に校舎へと駆けだし、教室へ入っていった。
「さて、また会議室に戻って、このふたりから詳しく話を聞かせてもらうとしよう。いいかね?」
「はい」
「面倒くさいけど仕方ないよね」
僕とエルシーはこたえた。
「で、俺たちはやっぱり蚊帳の外ってわけですか?」
錬金術担当のアールプは不満げだった。
「すまんな。話しても良いとなれば、後で必ず説明する。これはわしらが決めることではないのでな」
学園長がちらっと僕とエルシーを見た。
僕たちに配慮してくれているのだろう。
教師たちも察したらしく、それ以上はなにもいわなかった。
ということで、僕たちは再び会議室へ戻った。




