38話 運命の相手
ロウタス侯爵家の馬車から降りるキャロルを、私は丁寧に手を差し伸べて出迎えた。
ロウタス邸にある馬車の中でも、最上級の馬車を迎えに出したから、キャロルはその乗り心地に満足しているようである。
キャロルは、赤を基調とした煌びやかなドレスを身にまとい、虹の女神のネックレスで胸元を飾り、艶のある金髪がキラキラと輝き、念入りに施した化粧のお陰で、もともとの美しい顔が、さらに輪をかけて磨きがかかった美しさになっていた。
今日のお茶会のために、いつもよりも格段に気合を入れたのだろう。
私を見つめる青い瞳が、熱っぽく妖艶に光っている。
私は、恭しくキャロルを迎え入れ、応接室に案内した。
ロウタス侯爵家のメイドたちがお茶とお菓子を運び、室内に香しいお茶の香りが広がった。
「王女様、本日はようこそおいでくださいました。謹んでお礼申し上げます」
「まあ、ベリード様、そのような堅苦しい呼び名ではなくて、私のことはキャロルとお呼びください」
「本当によろしいのですか? 何と言う喜びでしょう。では、キャロル様、改めて、本日お会いできたことに感謝いたします。僕が差し上げた虹の女神を身に着けてくださったのですね。本当によくお似合いです」
「ええ、この宝石の美しさを知ると、他のものが石ころのように見えてしまいますわ。もう一つの虹の女神で、私、毎日願い事をしているのですよ」
「どのような願い事ですか?」
「ふふふっ、それは内緒ですわ」
私はお茶を口に含み、少し間を持たせた後、本題を切り出した。
「キャロル様、前回、お伝えしていなかったのですが、実は僕は今、花嫁候補を探しているのです。この国に来たのも、それが目的でした」
「まあ、花嫁候補を探していらっしゃるのですか?」
「はい、そうなのです。僕は、あなたに出会って、これこそが運命の出会いだと思いました。あなたのように素敵な女性に出会ったのは、生まれて初めてなのです。でも、どうしてあなたは王太女なんだ……」
「あの、私のことを運命の相手だと?」
「はい。あなたが王太女だとわかって、僕はどれほど悲しい思いをしたか……。キャロル様、公務は辛くはありませんか? 僕の妻になってくれれば、公務なんてする必要はありません。毎日好きなことをして、笑顔で過ごしてくれることが僕の望みなのです」
「ああ、あなたと結婚出来たら、どんなに幸せなのかしら……」
キャロルがうっとりとした表情で、夢見る乙女になっている。
当然の反応だ。
私はキャロル攻略のために、彼女の好みをテンコ盛りにしたベリードを作り上げたのだから。
キャロルの好みに合わせた容姿、運命の出会い、国王に次ぐ高貴な身分、誰もがうらやむお金持ち、自分だけをちやほやしてくれる恋人、結婚後は好きなことだけすれば良い天国のような生活……。
これ以上ないキャロルの理想像が、今、目の前にいるのだ。
さあ、ここからが本当の勝負!
「あなたが僕の妻になってくれたら、贅沢三昧の毎日を送らせてあげるのに……。ですが、あなたには王太女だ。他国へ嫁ぐことなどできない。とても残念です」
キャロルは夢見る乙女から、急に現実味を帯びた表情に変わった。
「ベ、ベリード様、ご安心ください。私が王太女の身分を返上し、継承権を放棄したら、私は自由になれますわ。そうなったら、私はあなたの妻になれるのです」
「しかし、陛下がそのようなことは許さないでしょう」
「大丈夫です。弟に引き継げば良いだけですから。他国へ嫁ぐという正当な理由があれば、継承権を弟に譲ることができるのです」
「それが本当なら、こんなに嬉しいことはありません。しかし、あなたには婚約者がいると聞きました。簡単には解消できないのではありませんか?」
「もともと私が王位を継ぐために、父が勝手に決めた愛のない政略結婚なのです。私が王位を継がないのであれば、アスラスと結婚する必要はなくなるのです。だから、父にお願いして婚約を解消してもらいます」
「それはなんと嬉しいことなのでしょう。ただ、一つだけ、婚約の際に確認させていただきたいことがあるのです」
「なんですか?」
「あなたと婚約者アスラス殿との間に、身体の結びつきはありませんか? 大変失礼なことを尋ねているのは重々承知しています。しかし、これは我が家門の決まり事となっているのです。他の男性と通じあった女性とは結婚できないのです」
キャロル、あなたはグリックと寝てたわよね。さあ、どう出るつもり?




