26話 改心
私には、もう一つ、どうしても尋ねたいことがあった。
「キャロル様とのご婚約は、結局、破棄されなかったのですね。キャロル様が言い出したことなのに。あの……、不躾なことをお尋ねして申し訳ございません」
「いや、かまわないよ」
アスラス様は、嫌な顔一つせず、私の問いに答えてくれる。
「僕が戻ってきたら、キャロル様は涙を流して謝罪してくれたよ。国王陛下も自ら頭を下げて……。なんだか申し訳ない気持ちになったよ。結局、キャロル様のご意思で婚約は続行になったんだ。僕は王配として、キャロル様を支えて行こうと思っている」
キャロル様が、涙を流して謝罪した?
あのわがまま王女のキャロル様が、改心しただなんて……。
信じられないことだけど、アスラス様が言うのだから、真実なのだろう。
もしも、キャロル様が以前と変わらず、アスラス様を利用する道具のようにしか見ていないのだったら、何としてでも、アスラス様をお救いするつもりでいた。
だけど……、アスラス様がキャロル様と幸せになれるのだったら、もう、私の出番などないのかもしれない。
それからしばらくの間、私は天井裏からの諜報活動も続けていたが、グリックがキャロル様に会いに来ることはなかった。
密会している様子も見られなかった。
本当にキャロル様は改心したのかもしれない。
私がアスラス様をお救いしようだなんて、おこがましい考えだったのかも……。
毎日公務に勤しんでいるアスラス様を見て、私は徐々に、初めの意気込みが薄れていった。
アスラス様の幸せは、キャロル様と良い関係を築き、王配としてこの国を良くすることなのだろう。
そう思うようになっていた。
私は覚悟を決めて、父に会いにロウタス侯爵邸に行った。
父は、ロウタス侯爵領を兄に任せているから、一年のほとんどを王都で暮らしている。
「それで、何かわかったのか?」
「はい。残念ながら、王女キャロルは改心したようで、元恋人のグリックと会うことはなく、アスラス様との結婚準備をしているようです」
「そうか、アスラスはこっちには戻って来んか……」
「おそらく……」
「お前はそれで良いのだな」
「アスラス様が幸せならば、私はそれで良いのです」
涙を堪えながら私は答えた。
嘘に嘘を重ねた結婚生活だった。
もしも嘘がばれたら……と思うと、絶えず不安を拭えない自分がいた。
嘘で塗り固めた土台の上の幸せは、こうも簡単に、もろく崩れ去ってしまうのか……。
これは私の自業自得と言うものなのだろう。
これ以上、アスラス様に執着するのはやめよう。
だけど、最後にひとつだけ……
「お父様、最後に一つだけ、お願いがございます」
父は私のことを哀れに思ったのか、私の願いを聞き届けてくれた。




