17話 もめごと
「お前が盗んだんだから金を払え!」
「あたしの敷地内にあったものを取って、何が悪いってんだよ!」
男女二人は睨みあい、このままでは殴り合いの喧嘩にでもなりそうな雰囲気だ。
「どうしたのですか?」
ラディーが二人に問いかけた。
「なんだ、お前は? あ、いや、領主代理様、ようこそおいでくださいました」
二人とも、ステイクを見て、慌てて頭をペコリと下げた。
「あの……、このお方はどなたですか?」
女がおずおずとステイクに問う。
「ああ、今日から私に代わって、領主代理を務めてくれるラディー様だ」
「りょ、領主代理様? とんだ失礼をいたしました」
二人は慌てて、今度はラディーに頭を下げた。
「何か、お二人がもめているようなので、何があったのか聞きたかったのです」
「いえ、実はですね……」
男が詳細を話し始めた。
男の庭には、北部原産のアプシモンという果物の木を植えているのだが、その枝が塀を越え、隣の敷地内で実をつけた。
しかし、隣家の女が、何も言わずにその実を全部取ってしまったと言うのだ。
その数30個。
だから、果物の代金を払うべきだと主張したのである。
すると女が反論し始めた。
「私はね、ずっと前から何回も、塀を越えてるんだから枝を切って欲しいって言ってたんですよ。でも、いつも無視されて……。あんたが放りっぱなしにしてるから実を取ったのに、何が悪いって言うんですか?」
二人の言い分を黙って聞いていたラディーが口を開いた。
「ああ、そういうトラブルはよくあることなので、判例がありますよ。まず、男性側の主張、事前予告もなしに実を取られたのであれば、女性の側に非があります。役所に訴えれば、財産法87条が適用され、女性側は窃盗罪とみなされ、国に罰金を払わなければなりません」
「ほら見ろ。俺が正しいんだ」
「次は女性側の主張。塀を越えているから切って欲しいと頼んでも切ってもらえなかった。これは土地並びに不動産法35条が適用されます。頼まれてから一週間以内に改善が見られなかった場合、役所に訴えれば、男性側が罰金を払わなければなりません」
「ほらごらんよ。あんたの方が悪いんだよ」
「何?」
男女はまた睨みあったのだが……
「どちらにせよ、役所に届ければ、お互いが国に罰金を払い、もめごとの決着がつくまでの間は、アプシモンの実は国預かりとなり、腐ってしまうでしょう。それでは、お二人に何の利益ももたらされないことになりますよ」
「じゃあ、どうすればいいのですか?」
不安顔の二人に、ラディーはにっこり微笑んだ。
「簡単なことです。30個の実をお二人で半分ずつ分ければよろしいのです。そうすれば、罰金を払うこともなく、実も腐ることはないでしょう?」
「ああ、本当だ。領主代理様、ありがとうございました」
男も女も満足する結果になり、もめごとはこれにて収束した。
これにはステイクが驚いた。
「ラディー様は、法律にお詳しいのですね」
「はあ、何も思い出せないのに、どうやらこんなことは覚えているようです」
「それなら、あれも解決してもらえるかもしれません」
ステイクは、昼休憩が終わった後、次の場所へと馬車を進めた。




