表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様いけません  作者: 天羽
第一章「やり直し」
8/8

幕間 魔族と人族

 村で過ごしていた頃のリスティアは、人間達から話しかけられる事に、最初は困惑していた。


 (何で、見知らぬ新参者に話しかけられる?)


 そう思っていたのは、彼女が前の世界で受けていた境遇が起因していた。


■ ■ ■


 「新たな魔王を、リスティ・ヒュブリスとする!」


 多くの魔族が集まる中で、中央に凛として立っているリスティ。

 銀髪を後ろに一つにまとめたポニーテールの、若い女の魔族、風貌から連想されるのは美しさとしての魅力ばかり。

 だれも強さを信じていなかった。

 議会の空気は不満、疑心に満ちており、新たな魔王の誕生を宣言した魔族すら、快く思っていない様子だ。

 魔王が生まれたのは知っていたが、誰もがこんな女だとは思っていなかったのだ。

 魔王誕生の報せがなされた後、リスティは部屋の中央に立つ。

 だが魔族達はそんなリスティ達に目を向けることはせずに、次々と部屋から出ていく。


 (魔王とは認めない、か)


 魔族は完全に年功序列社会。永き時を生きる魔族が偉いとされる中で、魔王として選ばれたのは十数年しか生きていない若輩の新参者。

 部屋に残った者は僅か数名。

 その中にいる者さえ、殆どが魔王を見る目は厳しい。

 嫌悪、嘲笑、侮蔑と言った視線が、リスティを貫いていた。

 リスティが目を伏せ黙り込んでいると、白髪の魔族が口を開いた。

 その魔族は他の魔族とは違い、顔に浮かんでいるのは嘲笑などの悪意ではなく、リスティに対しての期待、興味だった。


「〈深淵の魔王〉リスティ様、私は貴女を支持しますよ」


 他の魔族が彼女を見る。

 何を言ってるのかと言った、不可解なものでも見るような目で、彼女を睨んでいた。

 それでも白髪の魔族は堂々とした振る舞いをする。


 「有象無象に構う必要はありません、貴女は貴女であればいいのですから」

 「…貴公は名前は?」

 「ザーク・ヴァルティエル、新参者の魔族ですよ」


 ザークの控え目な紹介に、リスティは無愛想に返事だけをするが、その目は彼女への警戒が浮かんでいる。


 (強い、その他の有象無象とは明らかに違う)

  

 リスティはザークと言う魔族に警戒し、目を細める。

 咳払いをすると、リスティは重い口を開く。


 「そなたらが私を認めないのは知っている。よって私が提案しよう」


 リスティは高らかに宣言する。


 「私に挑み、勝つ事ができればその者が魔王だとしよう。明日以降、いつでもかかってくるがよい。常在戦場と思い、私も玉座にて待ち続けよう」


 リスティの言葉に明らかに目が変わった魔族が大勢いた。

 我こそは思う魔族が大半、敵対心に功名心、分相応というものを知らないとすら思える。



 それから一ヶ月、リスティは挑戦者となった魔族全てを下し、もはや彼女に挑む者はいなかった。

 しかし、それでもなお彼女を認める者は少数。

 未だにリスティは、魔族から魔王だとは認められていなかった。

 指示を出しても無視、独断で人族や龍族との戦争をし、魔王軍は統率が取れたとは言えない状況だった。

 呼び出しも、城内で声をかけようが無視、まるで居ないものを扱うように。


 (どうしたものか)


 リスティとしては、一定以上の力のある魔族を粛清したくない。

 魔物ならばいざ知らず、指揮官になれる魔族を失うのは痛いのだ。

 だが今この状況ではダラダラとやれば舐められるだけだ。

 この状況は数カ月後、数少ない部下の一人が解決するのだが、また別のお話。



 ■ ■ ■


 魔族とは根本から違うのだな。

 魔族は魔王でなくても、そもそもが若輩者、新参者に対しての風当たりが強い。

 プライドの高い彼らは、新入りが大きな顔をする、それどころか平常に暮らすのすら許さない。

 リスティが魔王となってからは、その風潮は低下し始めているが、未だにその思考は根強い部分もある。

 そんな種族で生まれたリスティ、もといリスティアは、村の人々の対応に驚きを隠せなかった。


 「若いんだからいっぱいお食べ、ほら!これ!」

 「あ、ありがとうございます」


 (老人が他者に施しを与えるだと!?)


 リスティアはこの状況に、混乱を越えた何かを感じていた。

 魔族と人族の価値観の違い、そのギャップにとにかく驚いている。


 「若いねえ、どこから来たんだい?」

 「えっと、西の方から、ですね」

 「西の方かい、あっちの方から来るのは珍しいから、嬉しいよ。西と言えば魔法が盛んだろう?うちの子供が魔法を勉強したいらしくてね、教えてくれないかい?」

 「いいですよ」

 「本当かい?ありがとねぇ」


 (何だ、この人たち!私は新参者の若輩者で、しかも魔女だぞ!?)


 「そうだ、これは先払いでね」


 女の人からお金を渡されたリスティアは、狼狽えて咄嗟にお金を返してしまう。


 「別にお金なんて頂かなくても、魔法くらい簡単に教えられますし」

 「そういうことじゃないんだよ。何かを受けたら何かを返す、それが人と人が尊厳を守るということ何だよ」


 (…温かいな)


 「嬢ちゃん!魔女なんだって?」

 「ええ、最近村へ越してきました」

 「凄いじゃねえの!すまないが最近雨が降らなくてよ、水を畑に降らせてくんねえか?」

 「構いませんよ」


 リスティアは畑に雨を降らせた。みるみるうちに土が浸されていき、満遍なく湿っていく。

 農家の男は感嘆の声をもらしながら喜んでいた。


 「ありがとな嬢ちゃん!これ、お礼に畑で取れる野菜だ」

 「ありがとうございます、えっと…こんなに?」

 「なんだい、遠慮すんなって。あ、あれか!若い子は果物の方が好きかい?」


 どこからともなくりんごが入った箱を取り出すと、リスティアの腕の上にのせていく。


 「い、いえ!流石に貰いすぎです!」


 リスティアはたじろいだ声を出すと、箱を地面に置いた。

 そして、近くの岩に目配せをすると、邪魔にならなそうな場所を確認する。


 「えっと、頂いたものは貰います。ですけど、お礼をしたいので、ここ自由に使ってもいいですか?」

 「いいってことよ!だが別にお礼なんて大丈夫だぞ?」

 「いえ、こんなに頂いて何もしないのは、私の心が許せません」


 (借りを作るのは嫌だ)


 リスティアは魔法を使っても岩を丁度良く形作ると、地面に穴をあける。

 形作った岩を井戸の形にすると、地下には無限に湧く水源を作り、水量を調整する。


 「魔法で井戸を作りました。作物にも影響を与えない水ですし、無限に使えるので、足しになるといいです」

 「じょ、嬢ちゃんこれ!?ありがとう!!もっと、持ってけ!」


 結果的にさらに一箱ずつ上乗せされるのだが、もはや断れる状況にはなかった。


 村の人々に支えられ、人族の魅力、社会を見たリスティアの心には変化が起きていた。

 それはまだ顕著ではない、ごく僅かな変化。

 だがそれはいつか彼女に明確な転機を起こすのは間違いなかった。



 ■ ■ ■


 ヘルトをあやし終えて、ようやく寝たのを確認したリスティアは、一息をついていた。

 真夜中で泣き喚くヘルトの世話には苦労する。


 「その時に思い浮かぶのが、彼らの顔だとはな」


 勿論、ザークなどの魔族の姿も思い浮かぶが、今思い浮かんでいたのは、村の人々の姿。

 彼らの言葉が、彼らとの生活が今リスティアの記憶に色濃く刻まれていた。


 (私が人族の赤子を育てる事を真面目にやるとは)


 きっと彼らとの生活がなければ、ここまでしっかり赤ん坊に向き合える気がしなかった。

 リスティアは真夜中に小屋を出ると、夜道を歩いていく。

 夜風が体を冷やし、小さく縮こまる。

 暗闇の空に浮かぶ星々の輝きが、道を示してくれた。

 そうしてついた先は、村の跡地。

 魔物に襲われ見る影もないそこで、リスティアは全員の墓の前に座り込む。


 「一ヶ月と言う短い期間であったが、私はそなたらの事を忘れない」


 目を瞑り、両手を合わせる。

 悲しみにくれながらも、静かに祈りを捧げた。


 「ありがとう」


 穏やかな表情で墓に向けて告げると、リスティアは小屋へと急ぎ戻るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ