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戯れと覚悟


 アレキサンドライト宮は簡単に言えば、後宮と本宮の間にある。歴代皇帝の居住区だ。

 その内装は、豪華絢爛の一言に尽きる。想像以上の煌びやかに、レーテは開いた口が塞がらない。


「派手だろう。十代以上前の皇帝の好みだ。だがそれから後の皇帝も、あまりの派手さに面白がって、更に装飾を付け足して、今に至る」


 歴代の皇帝の多くは愉快犯が多いのか、なんなのか。

 エントランスはまだしも、一度奥に入れば魔境だ。一言で言えば統一感がない。混沌とした内装。


「なにこれ」


 そんな中で、レーテの目に飛び込んで来たのは、全裸の男の像。純金らしく、存在感がすごい。


「あっ! おい、誰か! 片付けろ!!」


 アダルセリスがレーテと像の前に割って入る。着ていたコートまで広げて、レーテから見えないように隠す。

 慌てたように侍従達を呼んだ。


「え? ねぇ、これ、アディさまじゃないよね?」

「そんなわけあるか! 昔の皇帝だ。超のつくナルシストだったらしくて、その当時は皇宮どころか国内中に自身の像を飾ったらしい。だがその死没後、後の聖女が卑猥物と言ったことから、全て回収された。何故か、このアレキサンドライト宮に置いてある六つの像以外」

「六つもあるんだ……」


 ナルシストだったと言われて、納得する。なんか、気取ったポーズを取っているからだ。


 アダルセリスに顔が似ている気がしたが、ただのご先祖様で、ちょっと安心した。


「そうだよね。アディさまはこんな変なポーズしないもんね」


 アダルセリスは何故か、目を逸らす。

 その意味は少し後に気が付いた。


「あ、アディさま……」

「昔の皇帝!!」


 絶対違うと思う。


 冒険気分でちょっとテンションが上がったレーテが、アダルセリスをお供にアレキサンドライト宮を探検していると、見つけてしまった。数ある広間のうちの一つの壁に、アダルセリスの肖像画が掛けられているのを。

 全身が描かれているのだが、おかしなポーズをしていて、つい、笑ってしまった。


「変なの」

「私が自分からしたのではない。画家のこだわりかなんからしくて、強制されたんだ。私からしたのではない」


 念押しのように二度言われた。


 というか、自分を描いた絵だって、認めている。


「この宮、面白いね。歴代の皇帝が悪ノリするのもわかる」


 レーテもここの住人だったら、絶対なにかしらを置いている。わざと意味わからない変な物体とか置く。


「アディさまも肖像画飾ってるし」

「あれは誰にも見せたくないが、書いてくれた画家に悪いから、人が入らないところに飾っているだけだ」


 それは気を遣っているのか、いないのか。


「じゃあ、アディさまは変なの飾ってないの?」

「変なのとか言うな。気持ちはわからないでもないが」


 一応、悪ノリした皇帝の中には、グランツ帝国に多大な影響を与えた賢帝もいる。


 探検している間に、空が白み始める。夜が明けてしまった。


「眠くないのか?」

「いっぱいお昼寝してきたからかな。でも、そろそろ寝ないと」


 レーテは一旦、言葉を切る。


「……ラピスラズリ宮の調査には、参加したいから」


 大きな手が、レーテの手を包み込む。


「そうだな」


 昔はレーテの方が大きかった気がするのに、いつの間にかに身長も、手や足の大きさも、全て越されてしまった。それが悔しい。

 だけど、安心もする。


「アディさまはお仕事、どうするの? 仮眠してから行く?」

「一応、午前は休みにしている。術師の捕縛にどれほどかかるかわからなかったからな。だから、一緒に寝て、ラピスラズリ宮の調査に立ち会おう」


 手を引かれ、長い廊下を歩く。


 ラピスラズリ宮は今、どうなっているだろうか。


















 アダルセリスの寝室で、四時間ほどの仮眠を取った。眠気醒ましにコーヒーを淹れてもらい、遅めの朝食も摂る。


 皇族の食事は基本的に、各宮の料理人が用意する。だから、それぞれの宮の食事は、味や出るメニューに差がある。美味しいことに変わりはないだろうが、各宮の主人の好みに合わせて作るので。

 だが、アダルセリスとレーテの味の好みに差はあまりない。幼少期から、レーテとアダルセリスは共にレーテの実家、ガルシア伯爵家で育ち、ガルシア家に仕える料理人が作った食事を食べてきたからだろう。


「皇帝から元第三側妃、更に第五側妃と、世間における背信疑惑は忙しないな」


 皇宮という国の顔とも言える場所に、異端審問官という目立つ集団が出入りしているのだ。噂もとっくに立っているらしい。


「わたしにやましいことはないから」


 でも、その使用人や騎士達はどうなのか。今日、その真実がわかるはず。


「彼女達の中に、魔物と契約して、わたしを殺そうとしている魔女がいるかもしれない。信じられないけど、もし、本当にそんな人物がいるのなら」


 それを考えるだけで、食欲が失せる。だが、食べなくてはいけない。魔力も、よくわからないけど神力も、全てを万全にしておかなければならない。途中で倒れるわけにはいかない。まだ死ぬわけにはいかないから。


 そして、光の女神の信徒として、オスカルの後継者として、女神に背いた者は裁かなければならない。それが、レーテに与えられた神託。

 女神は、レーテに命じた。穢れた獣使いに、鉄槌を下せと。

 

 

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