第20話 あと5か月。
離縁された貴族令嬢はまともな縁談が来ない、らしいです。
なるほど、、、それもそうですかね、、
実家に帰るにしても、うちはうちで、弟中心に事業が回りだしたところですし、弟が将来結婚して、、、出戻りの姉がいるのも、、、、
色々考えて、平民になることにしました。
家は、今の工房の借家がありますし。
仕事も途切れずにありますし。かかった経費は何とかお返ししましたし、、、
そう考えると、少し、スッキリしました。
お父様とお母様は残念がって下さいましたが、、、、
春の舞踏会、最後になりますね。
今回もお母様がドレスを作って下さいました。
白のドレスに淡いブルーの、ふわりとした生地をかさねて。
ウィルマー様から頂いたネックレスをつけました。
最後の伯爵令息夫人としてのお勤めです。頑張ります。
旦那様はいつも通り、王城の自分の執務室から遅れてくるようなので、お父様とお母様と入場しました。
お母様と踊った後に、、、お父様が踊って下さいました。
「何かあったら、頼ってくれると嬉しい。」
「はい。ありがとうございます。」
「いつでも、待ってるからな。」
「はい。」
泣きそうです。
しばらく壁にくっついてウィルマー様を待っている間、給仕さんにすすめられるまま、綺麗なカクテルを何杯か飲み、、、、暑くなってきたので中庭に出ます。
夕方、明かりがつく時間ですが、随分と暖かくなったんですねえ、、、
月も出ています。
ベンチに腰かけて、ぼーーーっと月を見ていました。
「クリスティー?またお前はこんなところで、、、危ないだろう?」
「あら?お久しぶりです、ウィリーさん。今日もこちらでアルバイトですか?」
白いシャツに黒っぽいベスト姿で、久しぶりにお会いしたウィリーさんの髪は、今日は金髪でした。
「うふふっ、、今日は金髪なんですねえ、、、そっくりに見えます。」
「は?」
「見てください。月が出ていますよ?」
「・・・また、、、酔っぱらってんのか?」
「いえ、3杯くらいしか飲んでませんもの。それより、ほら、月ですよ。きれいですねえ、、、」
はあっ、と、ため息をついて、私の隣に腰かけたウィリーさんも、月を見上げてくれた。
「うふふっ、、こんなふうに、のんびりしたのは久しぶりです。一緒に月を見てくれてありがとう。」
「は?月くらい、、、、」
「私ね、離婚するんです。と、いうか、もともと白い結婚だったんですけどね。」
「・・・・・」
*****
ふらりと中庭に出て行ったクリスティーの後を追う。危ないだろう。
また酔ってんのか?
中庭のベンチで、ぼーーーっと月を見ていた。
酔ってるな。ウィリーさん?と、俺を呼んだ。
並んで月を見た。思ったより明るいな、、、
「私ね、離婚するんです。と、いうか、もともと白い結婚だったんですけどね。」
「・・・・・」
「私ね、、、お金で買われてきた可哀そうな娘らしいです。学院に入ったばっかりの時に、知らない同級生に言われたんです。私の旦那様は子豚ちゃんみたいだったから、、、お嫁さんが来なくて親が買ってきたんだろう、って。」
「・・・・・」
「ああ、、、、旦那様が、私を、、、話をしたくないと思うほど嫌うのは、そういうことなのかあ、、、って、、、なんだか、腑に落ちました。だから、、、がむしゃらに働いて、、、学費は返したんですよ?領地で借りた分は、弟が何年かかっても返すと言っていました。」
「・・・・でも、お前、前に酔っぱらった時、、、愛より金だと言っていたぞ?」
「え?ああ、、、、うちの両親は恋愛結婚なんですよ。と、いうか、、、母が政略結婚がいやで逃げ出して、押しかけた、感じなんですけどね?だから、愛のある家庭は知っています。ただ、一般家庭と違って、自分の家だけじゃないでしょう?領民の食糧事情も健康状態も、、、、責任がありますから、、、、。不作が何年も続いてしまい、本当に、、もう何ともならなかったんです。策を打つにも、もう、、、
だから、、、、お嫁に来たことを後悔してはいません。」
「じゃあ、、、いればいいんじゃないか?そのまま?貴族の結婚なんてそんなもんなんだろう?」
クリスは俺を見て少し笑って、また月を見上げた。
「旦那様と、ご飯を食べて、お茶を飲んで、」
「・・・・・」
「旦那様と、領地で馬に乗りたかったなあ、、、乗れるのかしら?うふふっ、、」
「・・・・・」
「子豚ちゃんシリーズのお話したり、、」
「・・・・・」
「こんなふうに、、、、月を眺めたかったなあ、、、、」
「・・・・・」
「・・・いろいろと、望み過ぎましたね?うふふっ、、」
そ、、、、そんな些細なこと、、、、、?
「なあ、クリス、、、、じゃあ、、、今までの事、何もかも捨てて、俺と違う土地で一からやんないか?貧しい土地みたいだけど、、、ここから西に行ったとこで、、、知り合い一人もいないようなとこだけど、、、、なあ?」
「・・・・まあ、、、、、ウィリーさん??」
「最初は、、、贅沢はさせられないかもしれないけど、、、俺、お前とご飯も食べるし、、、一緒に月を見るくらいの時間は作るから、な?」
「・・・・」
「金も愛もないところからのスタートは不安か?俺、、、まじめにお前に向き合うし、真面目に働くぞ?な?クリスティー?」
「・・・・・」
「な、、、、、何で泣くんだ?」
「よ、、、、酔いが回ったからです、、、」
慌ててスラックスのポケットを探したら、子豚のハンカチが出てきた。
クリスティーをそっと引き寄せて、涙をふく。
「な?うん、って言ってくれよ。」
「・・・・・」
月が明るいなあ、、、、