馬車でお出かけ
ミズーリに精神調整されちゃった姫さんが寝息を立て始めちゃったので、文字通りお姫様抱っこで馭者台に運びます。ミズーリとツリーさんは荷台にスタンバイ。
チビは姫さんの膝でお座り、メサイヤちゃん達は馬車の屋根に腰掛けて、馬くんが引く馬車に乗って家族総出でお昼ごはんです。
いつもんとこですけどね。
こないだ作った人口河川と人口渓谷。
「床」を作ってあるので、せせらぎを聞かながら中落ち丼を食べようという計画です。
まだ軍に出した地図には詳しい事を載せていないのと、駐屯地からは結構離れた馬車鉄道の無い森の中なので余りまだひと気のでない所です。
いずれは軍の家族連れが気軽に遊びに来てくれるといいですね。
ぱこぽこぱこぽこぱこぽこ。
馬くんに打った蹄鉄が呑気な音を立てます。
万能さん特製の馬くんなので蹄も特製なのですが、
雰囲気が出ねえので着けてくだせえ
とお願いされたので。
腐葉土ふわふわの土壌だろうが、街道のアスファルトの上だろうが蹄音が高らかに鳴ります。
これが馬くんの狙いだそうで、機嫌良くぱこぽこ鳴らしてます。
姫さんが起きてたら「きゃーきゃー」言いながら私の上半身を振り回していたでしょうね。
宙に浮いてる厩舎に自在に出入りする馬ってなんだよって感じですが。
あと、まだ整備してない森の中ですが
私とツリーさんが行くところ、木々が勝手に避けてくれるので道が出来ます。
良いのかな?
「(生態系にも木々にも影響はない。むしろ長年固定されて来た日照や地下茎の整理が出来るから新鮮な刺激になる)」
森の自然を管理している精霊が認めているなら良いでしょう。
「くー。」
屋根(頭)の上のメサイヤは霊獣とされてこの世界では最も高位とされている存在ですが、彼女達も認めています。
その為にわざわざ私の頭に移動してきました。私だから耐えられますが、ちょっと重たいですよ。
まもなく(勝手に開かれた)道は川辺に出ます。
やっぱりせせらぎはいいですね。
生前、私が時々行った房総の山中を思わせてます。
手入れされた里山に、浅めの川が流れ、50センチもない浅い滝がたまにたま〜にある。
他の県だったら、もっと規模の大きな自然になるところが、トレッキングや沢遊びに丁度良い軽い自然。そんな箱庭を再現したものがここですよ。
と、私の頭でふらふらバランスを取って遊んでいたメサイヤちゃんがトッと飛び上がると、川に突っ込んだ。
カワセミか!っとツッコミを入れようとしたら、その前に本当に魚を咥えて帰ってくる。
馬くんの背に止まり、私に魚を投げてくれた。…魚?
いや、この川は地底湖から引いた水を循環させているだけで、魚はまだいない筈。
いずれ養殖しようとは思っていたけど、生きた魚を万能さんから取り寄せ様としてたけど。
まだ、そこまで手を出してない。
…まさか?
「く。」
君らか?羽根でサムズアップしてるぞ。
「「「「「「「くく!」」」」」」」
メサイヤちゃん達が何処ぞから持って来たらしい。確かに元の世界でも鳥が魚を運ぶ事により、魚の生育域が広がる事はあったらしいけど。
手元の魚をジロジロ観察してみる。
うーん、鮎に似てるな。しかしまだ餌になる苔は生えてないと思うけど。
生やしときました
「く」
お前らの仕業かよ。
いや、万能さんは一応私の管理下の能力だし、メサイヤちゃんはサリーさんの管理下?いや、ツリーさんと同じく意識共有が出来るんでしたっけ。なるほど、万能さんとメサイヤの共犯か。
「なんでトールさんが管理出来てないのよ。」
サプライズです
なんだって⁉︎
神に授けられた私の能力が意志を持って独自の動きを始めました。
これはひょっとして、ゆるゆるなファンタジーが人工知能の反乱というSFに変わるのか?
何メタな事言い出すんですか
私はあくまでもマスターには逆らえません
健全な自然環境として、水には魚が欲しい
マスターの希望を叶えただけです
面白半分に
最後にとんでもない本音を吐きやがったな。
おい、へっぽこ女神。どうなってんのこれ?
「久しぶりに聞いたわねへっぽこ女神って。まぁ結論から言えば大丈夫でしょ。トールさんが居てこそ存在出来る力であり、意志だから。癌細胞みたいに宿主を殺す事はあり得ないわ。」
ミズーリ様?
幾らなんでも癌細胞を例えに出すのは酷い
「なら主人に忠実に支えなさい。トールさんは万能力のリセットも出来るのよ。」
…あのですねミズーリさん。私の中で万能さんが土下座してるんですけど。
「女神や創造神が土下座する存在がトールさんです。そこらの万能力なんかチョチョイのチョイでしょ。」
だからメサイヤちゃん達も土下座をやめなさい。屋根とか馬くんの背とかで土下座したら転げ落ちます。
「それで、何故私は馬車に乗っているんでしょう?何故メサイヤちゃんが土下座してるんでしょう?」
おや?姫さん起きましたか。
「何故私は旦那様の肩で寝ていて、私の膝でチビちゃんが寝てんでしょう?」
あまり深く考えると知恵熱を出しますよ?
「旦那様に鍛えられてるからそれは大丈夫ですけど、説明を求めますわ。」
説明、要る?
「当然です。折角旦那様との馬車デートなのに寝ているとは何事ですが!もうもう、私の馬鹿!」
あゝ、そっちですか。
本当の事言う訳にも行かないし。
「お昼ごはんを外で食べようと皆んなで決めたんですよ。姫さんは剣術稽古で気絶してしまったので、私が看病しいしいこうやって森の中を来たんです。なんなら荷台に転がしといた方がよかったですか?折角ミズーリとツリーさんが席を譲ってくれたのに。」
馭者席で後ろを向いた姫さんが、ミズーリとツリーさんに器用に土下座しました。
釣られて2人も土下座返し、メサイヤちゃん達と万能さんは土下座しっぱなし。
馭者の私と、私の膝に移ってきたチビ以外全員土下座している異常な馬車はのんびりと川沿いを走ります。
ご主人 あっしも土下座というものをしたい
馬くん何を言い出してるんですか?
姫さんで遊んでいい?
チビ。幾らミニスカートで土下座してるから尻ぱんつが見えてるとはいえ、今姫さんで遊ぶと馬車から落ちるのでやめなさい。
ところでこの魚、どうしよう。
姫さんを慰める為に馬くん達と遠出したはずですが、馬車の中や屋根で全員土下座したまま渓谷に到着しました。
メサイヤちゃん、途中から面白がってたでしょ。
いや、そんな全員で首をブンブン振られても。
ま、ご飯ですよご飯。
土下座したままの姫さんを土下座したまま抱えて馬車から下ろします。すぐさま馬くんがペロンと姫さんを舐めるので、
「うひゃあ。!」
とあられも無い声を上げて「床」にペタリンコと座り込んでしまいました。
とりあえずチビを抱かしとくと、
「ふにゃあ。」
と情け無い声を上げてチビを抱きしめます。
この娘、ちょろい。
…だからミズーリとツリーさんは何故土下座したまんまなんですか?
「ミクばかりズルいと思うので。」
今日の主役は姫さんでしょ。
君もツリーさんも何百年生きてると思ってんですか。
「(女性に歳の話は禁物)」
ハイハイ。
ツリーさんは腋の下から手を伸ばして、そおっと馬車から下ろします。
下ろしたら川に突撃しました。
何故?
「(自然を味わえるのは精霊の特権なり)」
そうなりか。…メサイヤちゃんがまとめてツリーさんの跡を追って行きました。
君らこの川の自然を守る存在ですからね。
楽しそうに水遊びしてますけど。
で、最後まで馬車の荷台で土下座してるウチの女神様ですが。
「そろそろ足が痛くなってきたので、早く抱き下ろして下さい。」
知らん顔してたい。
まったくもう、水売りさんは甘えん坊です。
「人の名前を水道屋みたいに変換しないで下さい。」
んじゃ、水瓜で。
「私は西瓜か!」
やいのやいの遊んでたら姫さんにヤキモチ妬かれました。
「なんかズルいですわ。私も名前遊びしたいです。」
「ミク、だとあまり展開が無いわねえ。」
「そこをなんとか。」
なんだなぁ。ミズーリは基本的にツッコミだけど、姫さんはボケだしなぁ。それも天然の。
蒲鉾にカツコツと包丁を入れます。
「(板わさ)」
違います。呑みたいけど、真昼間だし帰りがあるし。
これはメサイヤちゃん達のお昼です。
デザートに骨煎餅。
チビにはワタの醤油味醂焼き。マグロのワタを文字通り醤油と味醂で焼いたものですが、犬の健康に問題無い様に薄味で。
メインは半生のフードですけどね。
で、私達にはどんぶりに酢飯、白髪ネギと花かつおを乗せて、更に中落ちをたっぷりと。
端っこに大葉を載せて、ガリとすりおろし生わさびをごっそり乗せて。
お汁はマグロを軽く炙ったものに出汁をかけて三つ葉を加えたシンプルなお吸い物。
玄米茶は熱いの冷たいのたっぷりと用意します。
では。
「「頂きまーす。」」
最初は寿司というだけでおかしくなったミズーリや、そもそも生魚を食べる習慣の無い帝国の姫君が、どんぶりから箸でモリモリ食べる珍奇な姿を見た後、私は川に目をやります。
さっきの鮎っぽい魚を塩焼きにしながら。
これとは違う魚がいるなあ。
ちっこいのから、大きいのまで。
沢蟹や水海老みたいのも見える。
メダカ、タナゴ、マス、フナ、コイ
ここら辺の類似種を毎日沢山運んでいるそうです
サリーさんと知り合ってからまだ数日ですけど?
マスターはこの世界の特異点ですから
メサイヤと森の精霊が共同でマスターの想定した生物を集めているんです
そろそろ私の想定を越え始めているんですが。どうしようか。
あゝこらチビ。鮎は小骨が多いから、そのまんま食べるんじゃありません。
今小骨を取って…面倒くさいから摺鉢で擦ってツミレにしてあげるからちょっと待ちなさい。お座り。
「ワン(分かりました)」
すりこぎで鮎っぽい魚を潰してごりごりごりら。ほんの少し繋ぎに小麦粉を振って手で丸めようとしたら姫さんに摺鉢ごと掻っ攫われました。
だからミニスカートはいた女の子が胡座で摺鉢を抱え込まないの!
「ぱんつに染みが出来て無いので大丈夫ですわ。」
女の子として全く大丈夫じゃないですわ。
「チビちゃんのデザートですね。私が作りたいのです。」
構いませんけど、後で手をきちんと洗いなさいよ。
少し下流で洗い物を終えたミズーリが、帰ってくると脚を川につけます。
「少し冷たいかな?」
でも水棲生物には良さそうですよ。
脚を小魚が突いてますね。ドクターフィッシュみたいな性質があるのかな?
…女神の私には垢や角質は出ないんだけど…
それはそれとして、(私の女の子アピールを流された!)この川にも面白い生態系が構築され始めているのかな?
私も川に脚を付けて暫し呆けます。
チビにツミレをあげ終えた姫さんは馬くんをブラッシングしてます。
お返しに馬くんが首を姫さんに巻き付けるので、きゃーきゃーという楽しそうな悲鳴が聞こえます。
こんな午後も良いですね。
脚を川に浸したまま、「床」にゴロンと横になります。
この辺は木を少し移植しているので空が見えます。前はこんな風に空を眺めていたらサリーさんが飛んでいたわけです。
今日は変なの飛んで無いよな。
「(私がいる)」
えーと。会った事ない精霊さんがボーリングの球くらいの大きさの鳥を抱えて居るんですけど?
「(居る?)」
「コレ何?」
「(うらら)」
鶉の近似種ですね
食用になりますし卵は同じ味です
よく懐くのでペットにもなります
ですか。しかし我が家は私以外全部ペット的な人や人外ですし。
「とおるさん?」
「私ならペットにしても奴隷にしても覚悟を決めてますわ。さぁ!」
さぁ!じゃありません。
畜産行きかな。沢山増えれば食肉にしても卵にしても、兵隊さん達の食生活が豊かになる訳ですから。
「(分かった 待ってて)」
精霊さんは姫さんにうららを預けると、森の中に姿を消しました。
「ツリーさん?」
「(なんでしょう?)」
「森の精霊って何人居るの?」
「(森の意志次第的な面があるから 必要に応じて幾らでも)」
私達、今森の精霊さんに包囲されてるんですけど?
で、皆んなうららや鶏みたいな鳥を抱えているんですけど。
中には沢山の卵を入れた竹で編んだ籠を持ってる精霊さんもいるし。
「(大丈夫 余剰分の鳥を集めた 生態系に影響はない)」
大丈夫って言ってもねえ。姫さんはきゃーきゃーきゃーきゃーきゃーきゃーきゃーきゃーと止まらなくなってるし。
鶉牧場・鶏牧場を作らないといけないじゃないか。
飛行船ミク・フォーリナー号の出番です。
うららと鶏にブリッジを占領されてます。
別にまぁ、私や精霊さんならば瞬間移動も出来るんですけど、少し牧場予定地を空から確認しようかと思いまして。
精霊さんとメサイヤちゃんは何処かに消えました。どうせまた何処かで何かしてんでしょう。
と言っても牛牧場の奥に作るしかないでしょうけど。だって人いないもん。
カピタンさんにお願いして、人を増やしてもらいましょ。
牛と違って放し飼いはもっと楽だろうけど。
卵の収穫が毎日になるし、どんどん増えるからなあ。
私が万能の力で柵や畜舎を作ろうと飛行船から見下ろしていたら、予定地を精霊さん達が走り回ってます。
牛牧場の管理人が魂消てますけど、死なないから頑丈になったもんだと少し遠い目で見つめます。
「(虫を寄せてます 飼料だけでなくミミズとか食べる方が育つから)」
ですか。確かにブロイラーよりは放し飼いの方が肉も卵も美味しいですが。
あのー。鶏はただの鶏に見えますね。
原種に近いものですね
森の精霊の加護があるから よく増えて美味しく育ちますよ。
森の精霊の加護ねぇ。
さっき勝手に消えて行ったメサイヤちゃん達も一緒になって走り回ってませんか?アレ。




