豆腐
今晩の献立は湯豆腐です。
熱燗をツリーさんと味わう事にしましたが、ミズーリが正妻権限とやらでお酌をしてくれます。
姫さんが一瞬ほっぺたを盛大に膨らませましたが、ツリーさんがお猪口を抱えて姫さんに差し出したらパーっと明るくなり
「ツリーちゃんにお酌をするのは帝国皇女の権限です!」
だってさ。仲良き事は良き事なり。
さて、食後に一働き。
普段我が家を置いている地点は、キクスイへのトンネルから続くアスファルト敷き街道の終着点な訳ですが、今晩この道は森のメインストリートに昇格します。
街道沿いにはRC構造の官舎がずらりと並び、線路は複線化され、馬車鉄道のみならず人力トロッコが走る、昔の日本みたいな風景が出来上がるでしょう。
つまり我が家が街道のど真ん中に建つ事になり、邪魔になります。
ここで役に立つのが、この間面白半分に作ってミズーリにドン引きされた「◯こでも◯ア」。
これを我が家の玄関に取り付けて、軍幹部だけ押せる呼び出しチャイムだけを設置。
差し当たり家は透明にして浮かしておきましょう。
表札にはミク・フォーリナーとだけ書いとくかな。
時間を見計らって深夜。私は1人街道に降り立ちます。
娘達はさっさと夢の中。
親指をひょいと上に向けると、ニョキニョキ生えてくる3階建てRCマンション群。
独身者向けには3畳ワンルーム・ベッド付き。
家族向けには3LDK風呂トイレ付き。
問題はエネルギーが水しか無い事。
水をエネルギーにする巨大特撮ヒーローがいたなぁ。
主題歌を歌えるぞ。
シンクと火災時用防災用水は行き渡らせましたが、問題は灯りだよなぁ。
発電設備は作れても永年メンテナンスが出来る人材がいないから、結局は「火」しか無い。
彼ら彼女らは慣れているからいいし、今までの半地下な状態よりは木漏れ日が当たるし健康的ではあるんだろうけど。
ガス灯とか点けられると面白いけど、一応ここ軍設備だし。
この軍の戦法は火を使うからなあ。
という訳で今後もランタン使用になりますが、家族が増えるので防災防犯対策として街灯をつけます。
と言っても大したものではなく、ホームセンターに売ってたアレ、ソーラーLEDです。
これをこの森に走る道沿いにずらっと並べると、あら不思議結構明るくなる訳で。
で、マンションの窓に灯りが当たらない様に調整しながら馬くんと深夜の騎馬散歩です。
大丈夫そうですなご主人
君は深夜なのに平気そうだね
任しておくんなまし。ご主人と2人だけだからちょいと気合いの入り方が違うでさぁ
それに、姫奥方がよく遊びに来てくれるよう、色々建替えてくれやしたから
そう言えば、うちの姫さんは動物相手にも徳を発揮する子だった。
線路を敷いた部分の街灯を一通り確認すると家に戻った。
馬くんは自分で空を飛んで厩舎に戻って行った。
はい、もうなんでもありです。
さすがにちょっと汗をかいたので寝る前に入浴。皆を起こさない(起きないけど)様にチビが迎えてくれたので一緒に入浴。
あゝ、温泉っていいなあ、
ワン(だね)
「お豆腐!」
ご飯を炊いてた割烹着姫さんがなんか興奮してる。
朝ごはんに何作ろうって考えてて、何気に木綿豆腐を万能さんから取り出してみたら朝からこうです。
「お豆腐は、お味噌汁ですか?それとも別の料理ですか?」
「なんかね、夕べの湯豆腐で豆腐の可能性に目覚めちゃったみたいよ。」
そういうミズーリは蕎麦で同じ事言ってましたね。あと、コーヒーでも。
「だって最近トールさんお蕎麦作ってくんないじゃん。」
「その通り。旦那様は私達を目覚めさせてしまいました。私達を調教してしまいました。」
誰だ、朝から姫さんに下品な事言わせたの!
「私だって子供じゃないから、知ってるものは知ってます。下品な事の一つも言います。だから早く私を食べなさい。腐りますよ。」
朝から発情されても困るので、いっそ朝から物凄い豆腐料理を食わせましょ。
木綿豆腐は手のひらの上で角切りにします。この辺はミズーリが妙に上手いので任せます。
ネギ、ニンニク、挽肉を豆板醤で炒めます。これは姫さんが立候補して中華鍋をお玉で掻き回してます。
煮立ったら蓋をして弱火で少し放置。
ツリーさんが水溶き片栗粉の準備をして、全ての準備が整ったら中華鍋に全部投入!
一気に強火で炒めます。
「とおっ!」
うわぁ割烹着姫さんが、お玉持って踊っている。
ザーサイを付け合わせに今日の朝ごはん完成。朝っぱらから麻婆豆腐ですよ。
「ついでにお豆腐料理を旦那様は私に教えなさい。」
とうとう命令形ですか。いいけど。
豆腐料理ってもなぁ、あとは冷奴とステーキ、揚げ出し豆腐くらいしか思いつかないなぁ。
レシピ本を本棚に置いとくので、勝手に調べて下さい。
「あと、お昼はお蕎麦ね。」
さりげなく付け加えるミズーリのへっぽこ。
なお、私の心の安定剤ツリーさんは、
「(獣肉や魚肉よりもお野菜の方が好きだなぁ)」
あなたもリクエストですか。
外が賑やかになって来ました。
「何が始まるの?」
引越しと牛祭りかな。
「ねぇ、道の端っこに何か立ってるんだけど?」
窓から外を覗いたミズーリが冷たい目で私を見てる。
「夜は暗いから、街灯をつけてみた。」
「電気⁉︎」
「太陽電池とLEDだよ。」
「…いいけど。生態系に問題ないの?」
「(日照時間に問題がある植生物は全部移植してある)」
「まったく、あなた達ときたらもう。」
「何何何なんですの?ありゃりゃ。」
姫さん口が悪い。
「うわぁ、新しい街が出来てる。みんな大騒ぎしてますわ。」
チビを抱えて姫さんが飛び出して行きました。
あゝ、厨房班のマリンさんがいる。
「街っぽくなってきたわね。」
街って言っても商店がないですけどね。酒保くらい。
酒保と言ってもそこら辺のコンビニ並みに充実しているらしいですけど。
お惣菜やお弁当まで売っているそうだし、キクスイとの通商が軌道に乗って来たので品数も増えているそうだ。
「知らないうちにまたやらかしてるわね。」
カピタンさんを通じて、差し支え無い分の知識は渡していますからね。料理や生活用品の生産はマリンさんが中心になって動いてますよ。兵隊ったって地方の森の中で無駄飯食ってるだけでしたし。
実家の家業が生産系の兵隊さんが大喜びで仕事してます。
「何それ?」
それだけココが無駄な施設だったって事ですよ。万を超える人間に方向性を与えてあげれば有用な結果が出せるんです。
姫さんのカリスマ性や、カピタンさんやイリスさんだって人の上に立つだけの能力がありますから。
「トールさんが人をきちんと見ている方が驚きだわ。あれだけポイポイ人を殺してたのに。」
失礼な。ほら、姫さんが何か演説させられてる。今日は祭りですよ。




