お味噌汁を作りたい
何故か我が家のご飯炊き担当は姫さんになってしまった。
割烹着を着ておさんどんをする帝国第四皇女様。
割烹着よりエプロンの方が好きかな。
カピタンさんが見たら何で言うだろう。
面談室を作っといて良かった。本当に。
もっとも当の本人は嬉々として
「いちごーう。にーごーう。」
と計量カップの目盛りを睨んでいる訳で。
尺貫法で数える異世界の帝国第四皇女様。
「お味噌汁もきちんと習いたいですわ。」
ご飯4人分4合(食べすぎ)をお釜にセットして少し水で浸けておくのが私のやり方。
姫さんは私のやり方を忠実に守ってくれる。
「旦那様の国ではお味噌汁は家庭ごとに決まっているとお聞きしました。お袋の味、お母さんの味だと。私達の子供にも私のお味噌汁の味を覚えてもらいたいなぁ。」
なんか姫さんに遠大な企みがあった模様。
普段は「娘」達と称しているけど、私の日本でのリアル年齢を考えると、人外の2人を除けば姫さんは本当に娘であってもおかしくない。
普通の人間でしか無い姫さんだが、とにかく素直で明るくて前向きで器用な人だ。
味噌汁やスープは日本ではインスタントで済ましていた。今は家族がいるから、あと万能の力があるから全部イチから作っているけれどね。
姫さんが物を習い出したのは最近であるが、元がお嬢様で何も知らない分、吸収する能力も並みでは無い。
驚いたのは、2人で旅していた頃は役立たずの色餓鬼だったへっぽこポンコツ女神ミズーリが、何気に主婦力を発揮し始めたこと。姫さんの良き姉として良き見本になっている。
ツリーさんは、その小さな体躯とコミュニケーション能力がハンデとなっているものの、長姉として、一同の分岐点の判断を絶対に間違えない。実は姫さんが身振り手振りでツリーさんに相談?している姿をよく見る。
人間とは距離を置く筈の森の精霊が、姫さんには心を許している。
上の姉2人も姫さんが可愛くて仕方ないんだ。
そういえば(帝国と精霊の内情を知っていて敵意を姫さんに向けていた)サリーさんとも直ぐに仲良くなっていた。
姫さんには生まれつき、そういう徳がある。
「今日は鰹節で出汁を取ります。」
削り節はなくきちんと鰹節から削りましょう。
「この棒はなんでしょうか?」
「鰹という海の魚を煮て干した物です。」
「海!海のお魚ですか?どうやったらお魚が棒になるんですか?」
「ふむ。ならば今度作ってみようか」
「それは」
「やり過ぎ」
「(にならない?)」
なりません。なんで3人して疑問を呈するんですか?
鉋を使ってカキカキかきます。
最初は私が見本を見せて、指を傷つけない様に鰹節の持ち方を指導しながら。
シャッ、シャッと削ってみました。
かいた鰹節をみんなで試食してみると
「!」
「?」
「(¿)」
「美味しいですわ。何これこの木の皮みたいなの。」
「なるほど、味が濃いわね。良い出汁が取れそう。」
「(このままご飯に乗せても美味しそう)」
それは猫まんまですね。
削り節に醤油を掛けただけでも美味しいし、おにぎりの具にもなります。
でも、これじゃまだ少ないな。
「お任せ下さい。」
だから姫さん。帝国皇女がペコちゃんベロして、割烹着で腕まくりするんじゃありません。
薄い花かつおだとゴッソリ鍋に入れますが、濃く厚い削り節なので軽く一握り。
ガーゼに包んでお湯に浸します。
そのまま弱火でじっくりと煮立てます。
その間に、お味噌汁の具を切り揃えます。
何が良いですか?
「大根の千六本!」
ミズーリさん。姫さんの包丁スキルを考えなさい。千六本か。…湯豆腐が食べたいな。豆腐の下に大根とネギを敷いてね。
「湯豆腐?」
あゝヤバい。食いたい。
「というわけで、豆腐は別にメインのおかずにします。お豆腐を使わないお味噌汁にしましょう。」
「どんなのがあるんでしょうか旦那様。」
「そうだな。油揚げ、ネギ、ワカメ、里芋、蕪。
貝類だとアサリ、シジミ。貝類はみんなの好みがあるから今は王道でいきましょう。すなわち、油揚げとネギ!」
「(貝のお味噌汁かぁ美味しそう)」
酒呑みには身体に優しいお味噌汁ですよ。
という訳で、姫さんを中心に娘達がネギと油揚げを切って煮て、割烹着の姫さんがお玉で味噌を溶かすお母さんな姿を眺めながら、
私は大根を千六本に切り、ネギと一緒に土鍋に敷きます。
木綿と絹の豆腐を大きめの賽の目に切ると、煮立ってきた土鍋にそっと沈めます。
こちらはお味噌汁で使った削り節を再利用しながら、追加でかいた削り節を小鉢に入れて出汁醤油を準備。
いつもの茄子と胡瓜の浅漬けを添えて、あゝそうだ。折角の削り節だから猫まんまにしようかね。わさびをちょびっと加えて。
「こんにちは。」
あ、カピタンさんが来るの忘れてた。
玄関脇に簡単なソファセットを置いただけの小部屋に案内します。
「こんな部屋を作られたんですか。」
姫さんが羽目を外してはしゃいでいる姿を見られたく無いと言いましてね。
「その姫さまは?…あゝ、奥で声がしてますね。」
ご飯作ってますよ。多分お味噌汁の味見を、多分小皿に乗せないでお玉で直接飲んで熱がっているみたい。
「え?姫さまが料理されているんですか?えーと、おひいさまだから家事とか生まれてこのかた、した事ない筈ですが。」
複雑なものはまだ作れませんけどね。ちゃんと作れてますよ。部屋にコロコロをかけるのも姫さんの仕事だし(チビを可愛がるのに一番寝っ転がるから)
彼女の事だから、自信がついたら自慢しにご馳走してくれますよ。
で、本日の連絡業務は
・今晩、新しく官舎を建築する事。
・トロッコを敷くので、トンネルから牧場まで人力なれど馬車並みのスピードと馬車以上の運搬能力がある事。
・なんなら牛が通る時はパレードみたいにしては?(どうせ暇な兵隊さん沢山いるでしょ)
などの情報交換をして、今日の打ち合わせを終えました。
『あちゃちゃちゃちゃあ!』
『ほらミク!熱い汁物は小皿に取るの!冷たい小皿なら直ぐ冷めるでしょ!』
「あの……くれぐれも姫さまを見捨てないで下さいね。お願い致します。」
まぁ何とか。結局面談室を作っても姫さんが珍奇な事をしているのは隠せませんでした。




