屯田兵
という訳で、森のお姉さんと一緒に帰宅しました。
ドアの外でツリーさんが待っていてくれます。
どうしたんですか?
「(お礼がしたかった。森を生き返らせてくれた)」
あゝ、それは私達にも思惑がありますから、一方的に感謝される事では有りませんよ。
「(それでもありがとう。森が少しずつ死んで行くのに私達は何も出来なかった)」
まだまだ、自然の再生は続きますから、ツリーさんも森のお姉さんも手伝って貰いますよ。
「(コックリ)」
「(コックリ)」
さて、ひとまず打ち合わせをしましょう。
中に入るとチビが飛びついて来ました。ただいまチビちゃん
AVセットの前にあるソファでは姫さんが何か真っ赤になってもじもじしています。
おおかた、ミズーリにいかがわしい物でも見せられたんでしょう。
「その日がいつ来ても大丈夫な様に、お勉強をしていただけです。」
何のお勉強だか。
「だってトールさん、一緒に見ようって言っても見せてくれないじゃない。」
だからって女2人で見ますかね。
「2人じゃないよ。ツリーも途中まで一緒に見てたもん。」
そのツリーさんはきちんとお出迎えに出て来てくれましたけどね。
「ぐぬぬ、何気にツリーの評価がだだ上がりだわ。ミク。負けてらんないわ。私達の良妻賢母ぶりをここに示すのよ。」
「その前にぱんつを履き替えて来ていいですか?今のままだと恥ずかしくて旦那様の顔を見る事が出来ません。」
ハイハイ。何かもう色々やる気が削がれた。
ツリーさん、お姉さん、チビちゃんはこちらにおいで。ヨーグルトでもご馳走しましょう。
「だ、旦那様のスイーツ!!!」
いいから姫さんはぱんつを上げなさい。
下半身すっぽんぽんで居る女性が、この家には多過ぎます。
「(私はまだ脱いでない)」
「(本当にこんな事してるんですね)」
口だけですよ。口だけ。見て下さい。
女神・皇女・森の精霊、そして転生者である私。
私達は強すぎるんです。ただの人間である姫さんにしても、この国の国民からすれば敬うべきお姫様です。だから私達は、どんなに馬鹿をやっていても、最終的な倫理は大切にします。どんなに馬鹿をやっていても私達は私達で無ければならないんです。少しくらいは多めに見て下さいよ。
「と言う訳で、一部の土地を農地にしてきました。今後も焼畑で荒れた森を耕して農地に変えて行きます。」
「ちょっと姿が見えないと思ったら、1人で開墾計画を始めないでよ。って森の精霊の手引きと要望か。トールが断る訳無いわね。」
「かいこん?開墾ってなんですか?」
自然を開発して有用な土地に変える事です。
この国の焼畑は燃やす木の特性を考えなかった様で、ただ木を燃やすだけでその先の失敗を繰り返していた様ですね。
森の広さと、ここに住む人の量からすると足しにもなりませんが。
万能さんから、ペライチの森の地図を取り寄せます。
山を背景に大雑把に半円を描くのが森。
その中央部平原寄りにあるのが東部方面軍駐屯地、そのまま西に行くとコレットの街になります。
キクスイへのトンネルは、北寄り。
今日、枇杷種の改良と植林をした斜面は南寄り。
万能さんが確認した金の露頭は更に南。
更に更に南にキクスイへの私とミズーリが超えて来た杣道。
森のお姉さんに指定された池予定場所は、その杣道を平原にまっすぐ伸ばした辺り。
うん、これだけでも結構バラけますね。
これに今後の農地開墾予定を森のお姉さんに地図上に目印をつけてもらいます。
「正直申しまして、私達軍もそれほど森の中を歩いている訳では有りません。キクスイとの山越えの道と、コレットまでの道は街道として整備していますが。」
地図を見ながら姫さんが自身の経験を語る。
「街の木樵や狩人もどこまで森に入っているのか分かりかねます。」
「移動手段はやはり考えた方が良いと思うの。」
ミズーリが提案して来た。
とは言いましても、内燃機関と言う物が無い世界で自然に影響を与えない動力ですか。
牛か馬しかないだろうな。
しかし馬にしても、アスファルト道路を敷き捲れば当然悪影響は考えられる訳で。
「兵にしても、皆が皆乗馬出来る訳では有りませんわ。」
だったら、馬に乗れない兵隊さんも馬が使える様にすれば良い。
「旦那様、そうは仰られても馬匹の数も限られています。全員が乗馬出来る様になったとしても、どこまで実用性が有るが疑問です。」
「ですから、馬車を作るんですよ。」
「馬車にしても、整備されている街道しか走れないと思いますか。」
「私の国では、馬車鉄道という物がかつて国の首都を走っていました。」
「鉄道?」
「なるほど、鉄道ならば路面に与える影響はかなり減らせるし、整備も楽ね。ポイントポイントに駅を作れば良いし。」
「馬の糞は森の肥料になるし、或いはトロッコに置き換えれば人力でも量と速度が稼げる。森の地面を最小限整備するだけで、この広大な森を縦横無尽に移動出来る機動力が出来る訳だよ。」
……
何で馬くんが落ち込んてんだよ。君は私達の大切な機動力なんだから、粗末にしないよ。
…ご主人。死ぬまで着いていきまっせ
江戸弁だったり関西弁だったり。
君の生まれはどこなんだ?
…ご主人から生まれやしたが?
それはそうだけど。馬の父親になった自覚は無かったなぁ。
「それで、開墾はいつやるの?」
今でしょ。いやいや。
やってもいいよ。究極、ここで地図を睨んでいるだけで出来るから。
けどま、ここから先は東部方面軍の意志確認が必要だ。
今更と言われるだろうけれど、上層部の認可を取っただけで末端までの考えを聞いていない。
つまり、土塁を作ったところで覚悟を決めろと。これから先は遠慮しないぞと。
色々あれこれやってきたけど、ここから先は戻れなくなる最終選択地点だという事。
なので、また来るであろう、カピタンさんなりイリスさんなりに皆の意向をまとめて貰おう。
「んなもん。最初から分かってんじゃん。トールのご飯と干した猪肉。どっちを選ぶと思う?」
「勿論、旦那様ですわ。」
うん、ぶっちゃけ分かってる。
私が迫るのは、共犯者になる覚悟が有るかどうか。
あるならば、自分の手を汚して貰う。
自分で鍬・鎌を握って貰う。
「屯田兵だわね。」
そういう事。




