第二話 怪獣君と幼女ちゃん
2018/3/15 一部修正しました。
「じゃあね、ゴボウ君!」
「あぁ、水町さん。」
放課後の下校時間、手芸部での活動を終えた怪獣君は水町と別れて帰路につく。
時刻は六時、まだ日が沈まぬ時間帯、運動部達よりも少し早めだ。
彼の家は学校から歩いて二十分、校門を出てゆっくりと通学路に足をつける。
そんな彼の背後から聞き慣れない声が聞こえる。
「あなたが怪獣君ね!!」
ツンと響く声を聞き振り返るとそこには昼休みに見掛けた小さな女の子の姿があった。
長い艶やかな髪、つぶらな瞳、人形の様に白い肌。
彼女の動きに合わせてぴょこぴょこ動く、まとめられた左前髪。
水町とアヤトから話を聞いていた彼は気付いた。彼女は間違いなく「幼女ちゃん」だ。
「まぁそうだけど。」
怪獣君と堂々と呼ばれ少しむっとする怪獣君に幼女ちゃんは構うことなく話を続ける。
「あなたって強いんでしょ?」
「……へ?」
「だって学校中のみんな、あなたのことを避けているじゃない!」
彼女の言葉はチクチクと彼の心に刺さる。
「……不本意だけどね。」
彼がぽそりと呟いたのを聞いて幼女ちゃんは口角を上げる。
「そんなあなたにお願いがあるの!」
「お願い?」
「そう!!私のボディーガードになってくれないかしら?」
堂々と宣言した彼女の言葉は二人の間にこだました。
彼女の口から放たれたそれを怪獣君が受け止めるまでに約5秒。
怪獣君が言葉の意味を考えるのに約7秒。
彼なりの回答を文章化し答えるまでに約5秒。
計17秒の沈黙の末、彼は答える。
「いいけど。なんでまた?」
「うんうん、普通いきなりこんなこと言われたら断るわよね……、っていいの!!」
頷く姿勢をみせたかと思うと機敏に顔を上げ驚きを示す。
自由気ままな子猫の様に彼女は自然体な動作でそれを行った。
「人の頼みは断れない主義なんだ。」
怪獣君の答えは自身の優しさからくるもので、妥協に近かった。
彼女の言ったボディーガードの意図する所はよくわかっていなかったが、それが人からの頼みだったから彼はイエスと答えたのだ。
「……ふーん、やっぱり見かけと違って話がわかる男なのね!」
那須野は満足げに彼を見上げる。
「そんな事より何でボディーガードなの?」
「それはね、怪獣君。私が可愛いせいなの!」
「は、はぁ……。」
なんて自己評価の高い娘なんだろう、怪獣君はそう思い少し苦笑いをした。
「私、背が低くて可愛いからいつもみんなから変な目で見られるの。」
「はぁ……。」
「小学校の頃なんて四回は変なおじさんに声を掛けられたわ!」
「中学に上がってからも人の視線を感じるから、あなたが側にいれば解消するんじゃないかって思ったの!」
怪獣君は複雑な心境だった。
確かに同級生から話しかけられることも少ない彼は内心彼女の呼びかけに喜んではいた。
しかし、彼女の要求は詰まるところ人避けのために自分の容姿を利用したいと言うことだ。
本心としてはただただ自分が利用されようとしていることはわかっていた。
この子が自分に気があって声を掛けたわけがないことも。
「いいよ、ナスノさん。ボディーガードやってみるよ。」
それがわかった上で彼は彼女の頼みを断れない。
それは押しに弱い彼の気の弱さと微かに残った春の気まぐれな風が原因であった。
人から避けられる彼にとって自分を必要とする彼女は何にせよ良き出会いであった。
怪獣君の答えを聞いて満足げな那須野は笑顔で答える。
「ふふ、ならこれから毎日よろしくね!怪獣君!!」
この日を境に二人は行動を共にするようになる。
「え、毎日?」
「そうよ、通学の間ずっと側にいなさい!」
彼が想像してたよりもこれから二人が過ごす時間は多くなるのであった。