三一章・厳しいあの人と再会です
今回も短いです。
カーペットが敷かれた廊下に出ると、靴がわずかに沈む感覚が楽しくて、そこで何回か足踏みしてしまいました。
…子供か!
孤児院にいた頃もそんな感じだった気がします、私。
さて。部屋の外に出たはいいですが、どこに行きましょう。今いる場所が何階だとか、この建物がどれくらいだとかも不明です。まあ、相当な大きさだということはわかります。お屋敷…お城の域に達しているのではないでしょうか。
お、階段発見。降りるか、上るか…。
「まず、上りますか」
犯人が友人とはいえ私は拉致された身。万が一の時のため、逃走経路を確保した方がいいかと思いましたが、ぶっちゃけ面倒だったので探索を楽しむことにしました。万が一の時とか考えたらぞっとしますし、気にしません。Let'sポジティブ・シンキング。
とりあえず、最上階を目指しましょう。そうすれば規模がわかるのではないか、という考えです。
一階。
二階。
三階。
四階。
五階。
ふむ。このお屋敷は相当大きいようです。国内のお屋敷は大体三、四階までです。それ以上は珍しいです。
起きてすぐはユーニ達の家かと思いましたが、それにしては大きすぎます。そして、人気がありません。
「六階まであるって……」
ずっと階段を上っていたので飽きてきました。どうしよっかなー。このまま五階をぷらぷらするのも悪くないし。まぁ、でも、上行くか。
えっちらおっちらただ上るのはつまりません。階段の数でも数えておけばよかったですね−。
「ん」
六階があると思っていたところには、大きな扉がありました。
好奇心が扉を開けろと言いますが、これって開けちゃってもいいのでしょうか、というか開くのでしょうか。普通、鍵かけますよね。
とか思いつつも引き戸タイプの扉に手をかけます。悩んで時間を無駄にするよりいいですよ。
「よっこいしょ、っと」
およそレディ(笑)とは思えないかけ声で引っ張りますと、手応えがありました。
ギギギギッ!
うぉいっ! 最後の踏ん張りで私が通れるくらいは隙間ができました。かたい! ちゃんとメンテナンスしないと駄目ですよ。私が困ったじゃないですか、もうっ。
…えー、冗談はさておき。
びゅぉぉ、と潮風のたてる音が聞こえました。扉の向こうは外のようですね。つまり、屋上。
「冷たっ」
湿り気のある風にらわれないよう、手で髪を押さえながら屋上に出ます。
「うわぁ……!」
見えたのは、海に沈もうとしている燃えるような夕日。暮れゆく橙と、昇ってくる夜の蒼が混じり合って夢のようにうっとりした色を作り出しています。
私、夜の次に夕焼けが好きです。雲一つない真っ青な空も好きですけどね〜。
一歩。また、一歩。ゆっくりと歩みを進め、落下防止の策のところまで来ました。食い入るようにその光景を見つめます。
いつも見ているはずの暮れの色なのに、どうしてか随分と久しぶりに見たような気がしました。
「っ」
知らず知らずのうちに……涙が、零れていました。
「な、なんで?」
落ちる雫を目が追い、下に視線が向きました。
あれ。
ここ、お城みたいです。しかも、崖の、上ーー?
って、え?
「シャルロット」
!!
聞こえたのは、私の名前。でも、ただ名前を呼ばれただけなのに怒られたときのように、ビクンっと反応してしまいます。
なぜだか身体が強張ります。まるで、自分より上の存在に睨みつけられたような感覚。
「貴女は相変わらず、ここに来ているのですか」
こ、この声はっ。
ぎぎぎぎぎ、と錆びた門のようにぎこちない動きで振り返った私は相手を目にとめて固まりました。
「あ、あ、あーー」
「まさか、私のことを忘れたわけではないですね」
はいっ。忘れるはずがないですよ。貴女、怖いですからね。私の切実で一生懸命なお願い(誇張表現あり)をばっさり切り捨て、可愛がってくれたと思ったら冷たく接してくる、私の育ての親①。
「ア…アンナ、院長!?」
驚きに上ずった声を出した私を、楽しそうに見ながら院長は言いました。
「ええ。そうですよ」
私の着ているワンピースと院長のドレスとストールが、風になびきました。
アンナ院長は敬語キャラです。そのため、シャルは敬語を使うようになりました。




