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お客様は神様です?  作者: 黒一もえ
5・この出会いは未来へ繫がります?
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二一章・何がどうしてこうなりました?

”それ”は、とても深い闇でした。

「深淵」という言葉がぱっとひらめくくらいには暗い、くらい、闇。

 その闇に包まれるようにして、私は立っていました。

 身に纏っている物は、どれも身に覚えがありません。穢れなど知らないとでも言いたげに己の純白を誇示するワンピースはシンプル・イズ・ベストの極みーー飾り気がないとも言う。手首には濃い茶色の革でできた紐が二つ。靴は硬くて履き心地の悪い、でも、手作りの暖かみに溢れた木製。

 そして驚いたことに私の髪は、橙みのある濃い金になっていて……。というのも、私自身が淡く発光しているからですかね? そう。どうしてか、私の周りがランプの光のようにふんわりときらめき、蝶の鱗粉のようにきらきらしているのです。

 まるで、干しのない夜にぽつりと浮かんだ月のようで、私がこの空間の中で「異質」だとすぐ実感できました。

 今の事態を要約すると、私は「自分の所持していない服を着て、発光しながら闇の中にいる」ということでしょう、はい。

 う〜ん。

 さっぱりわかんねぇ、って感じですね。

 ああ、でも、なんとなく、「わかる」と言うより…「感じる」とも違くて……。強いて言えば、「気がする」みたいな感覚ですけど、ここが〈誰かの闇〉で、私は「灯り」なんだな、ということはうっすらと心にありました。

 ここは、とても真っ暗です。これがもし私の感覚通りであればこの闇を抱いている方は、すごく複雑な心境なんでしょう。私には計り知れないほどの。

 ……。

 とりあえず、私は歩くことにしました。


 私が一歩踏み出した途端、四方八方から〈誰かの闇〉達がぐうぉん、ぐうぉんとうねったり暴れたりしながら私に押し寄せてきました。

 うっわ、これに飲み込まれたら絶対息できないわー。

 マジなピンチを目前にしても心が悠長な私。オトナの余裕です……なわけがなく、どこへ逃げても闇の襲来が待ち構えていることを知った、あきらめの現実逃避なのです。

 夢は潜在意識や願望の表れだと言います。と、いうかとは…


 この闇が私を飲み込む忙しさの表れ(潜在意識)で、私はそれに襲われたい(願望)?


 …。

 ただのドMじゃーん。なんですか、夢まで大変とか−。

 なんて思っているうちに「ドロッ、ヌメッ」としてそうな〈誰かの闇〉に呑まれた私でした。




【う、うぅーん?】

 恐る恐る目を開けると、私は細っかい彫刻の前で祈りの姿勢を執っていました。右斜め前辺りでは、神官様が髪からのありがたいお言葉みたいな物をつらつら述べており、今私がいる場所は綺麗な音色で溢れかえっていました。

【すごく、不快?】

 音自体はすごく綺麗のなのに、ものすごく汚く聞こえました。それなのに、心のどこかではどこが不快なのかもさっぱりわからない自分がいて。二つの感情が霧のようにゆらゆらと私の中でせめぎ合っているのです。

【何、これ?】

 言葉にしたいのに、口が動きません。

 しばらくすると神官が私へ問いかけてきました。フィナリア教の中でも太陽神に捧げる祈りでは神官と問答することが度々あります。

 私は一応聖女様の名前には様をつけて呼びますが、そんなに信心深くありません。祈りへ出かけるよりも市場にダッシュで向かうような娘です。とっさに答えが出てくるわけもなく。ですが、唇が動き、さらりと言葉を紡ぎます。

 自然体なのに、気味が悪い。

 自分の中に誰かがいるようなこの感じ、体が馴染んでいるのに心が全力で拒否しようとしているのか憎悪のような念が染み出て気持ち悪い。

 いつ倒れるか、というくらい私の心は戦いました。「憎悪を抱く私」と、いつもの「私」。どちらも壊してはいけない気がして保つのが大変でした。

 やがて祈りが終わり、私の中の私は収まり、後には「私」だけが残りました。

 満ちていた音の正体は楽器だったようで、演奏者達がぞろぞろと退室していきました。そこでようやく私は室内を観察できました。

【神殿?】

 あまりきょろきょろとならないように視線を巡らせていると、柔和な笑みで神官様が近づいてきました。

「また、その格好で来たんですね」

 私をおかしな物でも見るように呆れ顔で眺めた後、今までの表情よりずっと優しげな笑みーーそれでも苦笑ーーを浮かべました。

「貴女はとても素朴ですね。貴女みたいな方が本当の聖女だったらこの国の民は永遠に幸せなのに」

「それは、冗談?」

 先程と同じように、口を動かす感覚だけが伝わり、勝手に言葉が発せられている状態。どうやらこの体は思うように使えないようです。にわかには信じがたいですが、心のどこかで納得していました。

「やっぱり、敬語は変かな?」

「そうね」

 私の体ーーいえ、「私の」というのも違う気がしますーーはそうやってにっこり笑います。すると神官様は困ったように微笑しました。その笑みはあどけなく、祈りの時とは別人のように若々しい(というか実年齢が若いのでしょう)表情でした。

「いやぁ、昨日上に注意されちゃって。『世話係の君がしっかりしないからアリア様が身だしなみをおろそかにするんだ』なんて言われたわけ」

「でも、演技までしなくても」

「敬語ならキャラ変えようと思って。いらないかな、そういうの」

「ええ。名優だったけど」

「やっぱり?」

 二人でくすくすと笑みを共有すると、年若い神官様は眩しい物でも見るようにこちらをに向けた瞳を細め、穏やかに告げました。

「僕達は神官と聖女である前にただの友人だ」

「当たり前じゃない」

「よかった」

 …青春キラキラ光線と呼べるほど純真の喜びの表情に、卑屈な私は「うっ…」ときます。ですが、体の所有権は私にないのでどうでもいいことでした。

「ねえ、リード。今日も彼ら、来ているかしら?」

「どうだろう」

 リードと呼ばれた神官様は、少し喜びの薄れた声音で返しましたが、この体は満足そうで、

「思い切り歌って踊れるなんて、素敵!」

 その場でくるりと一回転するこちらを危なっかしい物を見守る人の顔で、「僕は仕事だから気を付けてね」と言います。

「アル、ねぇ、アル! 行きましょう」

 そこでやっと少女の傍らに黒髪の青年が佇んでいることを、私は知りました。否、佇んでいたのではなく、現れたのかもしれません。

 だって、アルと呼ばれた青年は、オーディンさん達神様のような、不思議な気配を纏っていましたから。

 アルさんは、ああ、と頷いてから私の体の頭に手を乗せて言いました。

「歌うのもいいが、ほどほどにするということを覚えてほしい。まず、お前は自分のことを考えないで行動するからな。それと、野菜も食べないと遊ぶための力もつかないからな?」

 目を奪われるイケメンの口から飛び出す懸念の数々。まるで、そう。お母さん? いや、男だからお父さんか。


 う〜ん。私はどうして、こんなところにいるのでしょう?

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